巨人の不振、原因は組織づくりに?

プロ野球を代表するチームである巨人が、42年ぶりとなる11連敗(球団記録)を喫するなど非常に苦しんでいます。

もちろん、シーズンはまだ終わっていません。144試合を終えた時点での最終成績は、また違っているかもしれません。しかし本来チームづくりがうまく行っているなら、11連敗という成績はなかなか喫するものではないと思います。

横浜DeNAベイスターズの社長を5年務めさせていただいた立場から言いますと、現在の巨人の不振は「監督に大きな権限を与えすぎ、誰が監督になっても回るような組織づくりに着手してこなかったこと」が大きな要因ではないかと推測しています。

既存選手のモチベーションが保ちにくい構図

巨人は大きな予算があるチームで、監督は1年1年が勝負。勝つためなら、良い選手は何枚でもほしい。だから「あの選手がほしい」「この選手がほしい」というリクエストを出します。勝利が義務付けられるチームであり、菅野智之(←東海大学)は浪人してまで入団を熱望するほど。FA宣言した森福允彦(←ソフトバンク)、山口俊(横浜DeNA)という選手たちも、巨人というチームの重みを知った上で加入しているはずです。

ただ、FA宣言した選手が難しいのは、複数年契約であること。数年のうちに結果を出せばよく、最終年で成果を出せば契約延長に結びつきやすい。加えて、彼ら選手は個人事業主。「1年目から、ケガを押してでもチームのために必死になる」というインセンティブは働きにくい。一方で、既存の選手からすれば次から次に補強がなされ、自分の出番は減るわけです。結果、既存の選手のモチベーションがわきにくい構図ができています。

巨人は、育成から良い選手を輩出してはいます。ただ、組織的には監督が選手を好きなように獲得できることの弊害が大きいように思います。コーチ陣からスタッフまで自分のお気に入りで固めていることもあり、監督の裁量が強くなりすぎているのではないでしょうか。

「有名選手を監督に」でいいのか?

これまで巨人は王貞治氏や長嶋茂雄氏、前監督の原辰徳氏など有名な元選手を監督に据えてきました。現在の高橋由伸監督もそうです。もし高橋監督が結果を残せないなら、次はニューヨークから松井秀喜氏を呼び戻すという話も出ているとか。

しかし、巨人の組織づくりを考えたとき、それでいいのかと思います。もちろん、松井氏自身は海外で本来あるべき組織づくりを習得している可能性もあります。ですが、有名選手をただ監督起用するだけでは、今回のような事態を打開するのは難しいでしょう。11連敗というショッキングな結果を払拭するために、組織を引っ張っていくのは誰なのか? 外側からは見えにくいのが現状です。

高橋監督も、非常に大変な役回りです。自身は現役を続行する頭もあった中で、原前監督の退任を受けて初めて監督を引き受けることに。70人から成る個人事業主たちをまとめあげるには、戦術的にもマネジメント的にも引き出しは少ない。どうやって引っ張っていけばいいのか、苦しんでいるはずです。

苦しい中、チームを盛り立てるのは誰なのか?

私もベイスターズ時代、10連敗を経験したことがありました。

やはり、チームはお葬式のような状態でした。そういうとき、私は現場にすべてを任せてはいましたが、努めて場の雰囲気を悪くしないよう配慮しました。差し入れをしたり、勇気づけるような言葉をかけたり。選手も人間ですから、「やばいな……」という顔をしているわけです。でも、彼らを叱っても状況が好転するわけではありません。

2016年、クライマックスシリーズに行けそうかどうかというタイミングで、私が2週間ほど日本を離れたことがありました。チームはその間に負けが込み、帰国したときはガラリと雰囲気が変わっていました。

その時は、選手やスタッフを全員集めて「おいおい、2週間で雰囲気ぜんぜん変わってるな。まだ3位だぞ? 気にするな!」という声をかけました。皆パッと顔が明るくなって、ふっきれたように思います。結果的に、その年は11年ぶりのAクラスを確定させ、初のクライマックスシリーズに進出できました。

プロスポーツでは勝っているとき、企業経営では利益が出ているとき、組織が伸び盛りのときは比較的ハンドリングが容易です。でも、問題は負けているとき。暗いムードが漂うなか、チームが前向きになれる雰囲気を作れるかどうかはリーダーとして非常に大切だと思います。そういうリーダーは、今の巨人では誰なのか? そういう役回り含めた、組織づくりを立て直すことが重要なのではないかと思います。

<了>

※この記事は文化放送「The News Masters TOKYO」での池田純さんの発言を元に、追加取材した内容を加え池田さんの一人語りとして再構成したものです※

文化放送「The News Masters TOKYO」

池田純

1976年1月23日生まれ。 横浜出身。 早稲田大学商学部卒業後、住友商事株式会社、株式会社博報堂を経て独立。 2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画し、執行役員としてマーケティングを統括する。 2012年、株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。 2016年まで5年間社長をつとめ、観客動員数は1.8倍に増加、黒字化を実現した。 著書に「空気のつくり方」(幻冬社)、「しがみつかない理由」(ポプラ社)がある。