世界大会で5度の優勝経験を誇るISSEIこと堀壱成(25=KOSÉ 8ROCKS)は「五輪に出られたら全力で金メダルを狙う。目指すは金以上。五輪に出て金メダルを獲ることも大事だが、出たからには金メダリストよりも『すごかった』という存在になりたい。『あの大会で一番やばかったのはISSEIだよね』と言われるような。結果よりも記憶に残るB-BOYになりたい。目指すのは大会の象徴のような存在ですね」と2年後のイメージを描いた。
ブレイキンは1対1、またはチームで音楽に乗せてアクロバティックなダンスを披露し合い、技術や創造性を競う採点競技。米国のヒップホップ文化から発展しており、縄張り争いを繰り広げていたギャングの抗争で、暴力ではなく踊りで平和的に対決するようになったことが起源とされている。パリ五輪では1対1のバトル形式が採用される。
ISSEIは6歳でダンスをはじめ、地元福岡のキッズブレイキンチーム、九州男児新鮮組に加入。2012年には15歳で世界大会の1つ「R16 KOREA」のソロ部門で優勝を果たし、2013、2014年と3連覇を達成した。2016年には世界最高峰の大会である「Red Bull BC One」で日本人として初制覇。19歳での優勝は当時の史上最年少の偉業だった。
ISSEIはフットワーク系、ヘッドスピン系、バックスピン系、ハンドスピン系、逆立ち系、フリーズ系など全てのジャンルの技を高いレベルでこなす。オリジナルの技も多彩で「バビョーン」「工事現場」「つばめ返し」「大失恋」などユニークな名前ばかり。「技に名前をつけた当初はブレイキンが五輪種目になることは想像していなかったので、見た感じのイメージで適当につけてしまいまった。もっと格好いい名前にしておけばよかった」と笑う。
現在は2020年に発足した世界初のプロダンスリーグDリーグのブレイキンチーム「KOSÉ 8ROCKS」の選手兼任監督として奮闘中だ。Dリーグは五輪で採用される1対1のバトル形式とは異なるチーム戦のダンスショー。パフォーマンス以外にもメンバー構成やラウンドごとのショーのテーマ設定、衣装や楽曲を決める役割も担う。練習は1日6時間。多忙な日々を送り、バトル形式の練習を十分に積めない状況が続いている。
「ショーとバトルの切り替えは難しい。バトルは自分のことだけ考えればいいが、ショーは8人で創り上げるもので本当に別物。スポーツ選手の筋トレと、ボディビルダーの筋トレぐらい違う。例えが分かりづらいですかね?(笑)」
パリ五輪の出場枠は男女各16人で、各国・地域からは最大2人。2023年9月の世界選手権(ベルギー)の優勝者が出場内定1号となる。5枠を大陸別の大会、7枠はIOC(国際オリンピック委員会)が導入する予選シリーズで決定。日本勢にはISSEIの他にも2020年の「Red Bull BC One」で史上最年少優勝を果たしたShigekix(シゲキックス)こと半井(なからい)重幸(20)ら世界トップクラスの選手が多く、国内の代表権争いもハイレベルな戦いが予想される。
Dリーグに専念中のISSEIはバトルの大会をSNSの動画などで視聴して国内のレベルが上がっていることに焦りを感じることもあるという。それでも「他のB-BOYができないことをやれている。バトルの大会に出ていない焦りはあるが、同じダンスなので不安は感じていない。(パリ五輪出場権獲得までの)細かいスケジュールはまったく知らない。自分が好きな大会に出ていたら自然に五輪に行けるかなと考えている」と自信は揺らいでいない。
コロナ禍でダンス愛を再確認した。最初の緊急事態宣言が発令された2020年春は出演予定のイベントが全て消滅。全国各地を飛び回っていた生活は一変した。自宅近くに練習する施設もなかったため、夜中の公園で一人踊る日々が続いた。「踊ることを含めたダンスカルチャーが好きなのに人と会うことすらできない。本当に辛かったですね」。最初の緊急事態宣言が解除されると、練習拠点としていたダンススタジオが営業を再開。自転車で約1時間かけて通い、踊れる幸せを実感した。
練習は基本的には踊るのみ。筋力トレーニングなどをするダンサーもいるが「踊り込むことで、自然と使える筋肉が発達する。踊り以外の補強をするメンバーもいるが、僕はしない。ダンスの練習で体力もつく」と強調する。ビッグイベントから逆算して特別な練習メニューを作成することもない。
「普段通りの自分が最強だと思っているので、自分のペースを乱さないことが大事だと思っている。過去には大きな大会前にペヤングを食べたこともある。楽しいと感じられるモチベーションを保っていれば強くなれる。ルーティンは神社で願掛けすることぐらい。音が流れて感じたまま踊れば100点を出せるのが自分。常に気負わず笑顔でいることだけを心掛けていますね」
五輪の新種目に採用され、競技を取り巻く環境は激変。周囲からの注目度や期待値が上がる中でもISSEIはマイペースを崩さない。五輪本番の会場はパリ中心部に位置するコンコルド広場。感性を重視して笑顔で踊り続けた先に、初代王者の栄光が待っている。
パリ五輪新種目「ブレイキン」 日本の第一人者ISSEIの描く青写真 ~技術と感性で”金メダル以上”を目指す
2024年パリ五輪で新種目として採用されるブレイキン(ブレイクダンス)で「金メダル以上」を目標に掲げるB-BOY(ブレイクダンサー)がいる。
DリーグでパフォーマンスをするKOSÉ 8ROCKS。中央がISSEI (C)共同通信