[特別対談 第1弾]野村克也×池田純「監督が決まらないなら、俺に相談してくれりゃ良かったのに」[特別対談 第2弾]野村克也×池田純「いかにして客を入れるかはあんたらの仕事、我々は勝つのが仕事」[特別対談 第4弾]野村克也×池田純「監督の器の人間がいないんだよな。こんなんで野球界、大丈夫かね」

インタビュー=日比野恭三、撮影=松岡健三郎

「こうしたら勝てるんじゃないかって、弱いチームはテーマをくれる」

©松岡健三郎

池田 野村さんからご覧になって、今のプロ野球で最も低迷しているチームってどこですか?

野村 低迷? 毎年最下位の横浜じゃないの。

池田 いや、去年は勝ったんですよ。初めてCSに行ったんです。

野村 そうだったね。

池田 ベイスターズのように戦力的にはまだまだのチームと、巨人みたいにいい選手をたくさん取ってくるチーム。野村さんなら、どっちの監督をやるのが楽しいですか。

野村 横浜だな。

池田 それはどこがポイントなんですか? 巨人は人気もあるし……。

野村 やっぱり貧乏性、苦労性だからだろう。あんまり恵まれているチームって好きじゃないんだ。弱いチームが好きだね。こうしたら勝てるんじゃないかって、弱いチームはテーマをくれる。そういうのが好きだよね。

池田 中日なんていかがですか。昨年はセ・リーグ最下位でしたし、今シーズンも苦しんでいます。野村さんが監督をやるなら、中日がいちばんおもしろいんじゃないかなって、個人的には思っています。

野村 なじみがないんだよ。名古屋って土地にね。

池田 土地になじみがあるって大切ですか?

野村 どうなんだろうね。やっぱり、人間みんな本能的に自己愛で生きているからね。自分に優しい土地柄がいいんじゃないの。俺の基礎は関西でつくられているから、関西がいいわな。どうも東京はなじめない。

「グラウンドに出れば闘争心むき出しでいいんだよ」

©松岡健三郎

池田 少し話は変わりますけど、4月にヤクルトと阪神が乱闘になりましたよね。あのとき、バレンティンが阪神のコーチを突き飛ばして退場になりましたけど、ああいうのを見たらピッチャーは怖がってインコースを突けなくなるんじゃないかなと思いました。

野村 バレンティンが向かってきたらみんなで助け合おうって、チームでそういうのをつくっておけばいいんだよ。キャプテンとか年配の選手が中心になってね。昔、阪急にスペンサーっていたでしょ。これがまた非常にワルでねえ。ゲッツー崩しのスライディングが激しいっていうので有名だった。それで、こっちも対抗するために、一塁から走ってくるスペンサーの顔めがけて送球しようとチームで決めたんだ。ところが敵もさるもの、危険を察知してサーっと外野のほうに逃げて行っちゃった。当てようがない(笑)。

池田 今はコリジョンルールというものもできて、そうした危険と隣り合わせの、スリルあるプレーがどんどんなくなってきていますね。

野村 そうだね。点の取り合いのスポーツだから、どうしてもキャッチャーがいちばん被害を被る。だけどコリジョンルールなんてものには俺は反対。もちろんスパイクを上げてスライディングしたりだとか、わざとやるのは許せないけど、自然にやるスライディングや体当たりはしかたがないんじゃないの。野球は格闘技なんだから。かわすのもプロの技術だと思うけどね。

池田 いちばん見ごたえのあるシーンがなくなってしまいましたよね。阪神にいたマートンのあのタックルは……。

野村 マートン(笑)。いたね、そういう選手。

池田 野村さんとしては、あれはフェアなんですか?

野村 スパイクさえ向けてこなきゃね。あとは技術だと思うよ。

池田 本塁クロスプレーのビデオ判定も導入されるようになりました。あれはいかがですか?

野村 反対。あんなものが必要なのかね。野球が優しくなるよ。闘争心がどこかに行っちゃう。

池田 たしかに、闘争心って大事だと私も思います。自主トレをほかのチームの選手と一緒にやったりするのも、私は違和感がありますね。ちょっとがっかりする。

野村 俺も反対だね。試合でも、塁に出ると相手チームの内野手と親しそうにしゃべっている。お客さんから見たら、敵同士なのに仲良くやっているっていうのは、あんまりいい光景じゃないわな。

池田 コーチがコーチャーズボックスに行くときも、たとえば野村さんがベンチにいたら、横切るときに頭下げるじゃないですか。あれも礼儀とはいえ、ちょっとどうかと思います。

野村 グラウンドでやることじゃないわな。グラウンドに出れば闘争心むき出しでいいんだよ。

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野村克也(のむら・かつや)
1935年京都府生まれ。27年間の現役生活で、三冠王1回、MVP5回、本塁打王9回、打点王7回、首位打者1回、ベストナイン19回と輝かしい成績を残す。三冠王は戦後初、さらに通算657本塁打は歴代2位の記録。90年、ヤクルトスワローズの監督に就任。低迷していたチームを立て直し、98年までの在任期間中に4回のリーグ優勝(日本シリーズ優勝3回)を果たした。


日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。