[特別対談 第2弾]野村克也×池田純「いかにして客を入れるかはあんたらの仕事、我々は勝つのが仕事」[特別対談 第3弾]野村克也×池田純「恵まれているチームって好きじゃないんだ。弱いチームが好きだね」[特別対談 第4弾]野村克也×池田純「監督の器の人間がいないんだよな。こんなんで野球界、大丈夫かね」

インタビュー=日比野恭三、撮影=松岡健三郎

「ベイスターズってなんで俺の嫌いなやつばっかり監督にするんだろ」

©松岡健三郎

――野村さん、昨年までベイスターズの球団社長をされていました池田純さんです。

野村 なんで尾花(高夫)を監督にしたんだ?

池田 あ、それは僕じゃないんです。親会社がTBSだった時代の話です。

野村 そう。それにしても、ベイスターズってなんで俺の嫌いなやつばっかり監督にするんだろ。今の監督は誰だっけ。

池田 ラミレスです。

野村 ああ……(苦笑)。

池田 その前が中畑清さん。

野村 もう、がっかりだよ。監督の器じゃないと思うけどな。やっぱり器というところから考えないと。

池田 最初は工藤公康さんにお願いしたんですが、話がまとまらなくなってしまって。

野村 そんなの、俺に相談してくれりゃよかったのに。

池田 そうですね(笑)。でも私が野球界にいたときに、野村さんにお会いする機会がなぜか一度もなかったんです。今日やっとお会いできました。

野村 今は、どこで何しているの?

池田 明治大学のスポーツ全般を見させていただいたり、ラグビー協会の特任理事ですとか、あとはサッカー、Jリーグの特任理事なんかもやらせていただいたりしています。

野村 いろんなことやっているじゃない。サッカー界はどんどんよくなるでしょ。

池田 いろいろなことに挑戦はしていますよね。

「子どもの野球離れ、これがいちばん怖いね」

©松岡健三郎

野村 川淵(三郎・最高顧問)さんと親しくさせてもらっているんだけど、サッカーがプロ化するっていうときに意見を求められたことがあってね。俺は「サッカーがプロ化したら野球界は大変なことになります」と話したんだ。川淵さんは「いやいや、野球にはどう考えても勝てません」と謙虚におっしゃっていたけどね。

池田 Jリーグの中に入ってみると、みなさん「野球には勝てない」と言いますね。でも、子どもたちが行っているスポーツの第1位はサッカー。2位がバスケで、野球は3位に後退してしまいました。

野村 野球は金がかかるし、ボールが当たったら痛い。そりゃ子どもは避けますよ。子どもの野球離れ、これがいちばん怖いね。

池田 子どもたちがもっと野球をやるようになるためには、どうしたらいいと思われますか?

野村 野球の楽しさをどういうふうに伝えるか、だよね。甲子園なんて、一つの夢としてはいいんじゃないの。現役を引退した後に少年野球(リトルシニア)を教えていたことがあるんだけど、俺が監督になった年に初めて神宮球場での全国大会に出場することができたんだ。選手たちはすごく喜んでね。子どもだから、それだけでガラっとチーム力も変わるんですよ。大きな自信になる。

池田 少年野球チームって、小学1年生だと入れないところもありますよね。それでサッカーに流れてしまうという面もあるので、何とかならないのかなと思っています。バットで打つのが難しいなら、テニスラケットで打たせたっていいと思うんです。あれなら結構打てますから。

「信は万物の基。プロ野球の中で信頼を勝ち取るっていうのは大変なこと」

©松岡健三郎

野村 このままだと子どもの人気はサッカーに奪われちゃうね。キャッチャーなんて絶対やりたがらない。立ったり座ったりがしんどいから。

池田 足腰が鍛えられていいような気もしますけどね。野村さん、キャッチャーってどうやれば育つんですか?

野村 まず肩が強いというのがいちばんの条件だ。次に野球が大好きなこと。あとは、あえて言えば責任感が強いことだね。ただし時間はかかるよ。

池田 いいキャッチャーになるかどうか、素材を見ればわかりますか。

野村 だいたいわかるね。特に俺はキャッチャー出身だから、よく見える。

池田 今のベイスターズのキャッチャーはどうですか。

野村 誰だっけ。

池田 戸柱恭孝という選手です。社会人出身の2年目。

野村 年齢は?

池田 27歳かな。

野村 ああ、それはダメだ。俺の持論だと、ピッチャーとキャッチャーは18歳から育てないとダメ。いちばん大事なときに間違った野球を教えられるから。

池田 そうですか……。でも、キャッチャーをちゃんと教えられる監督やコーチが今の野球界にどれだけいるのかも疑問です。

野村 いないね。そこが問題だよ。キャッチャーは絶対、結果論で叱っちゃダメなんだ。ちゃんと根拠のある叱り方をしないと信頼をなくしちゃう。信は万物の基。プロ野球の中で信頼を勝ち取るっていうのは大変なことだけど、大事だわね。

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野村克也(のむら・かつや)
1935年京都府生まれ。27年間の現役生活で、三冠王1回、MVP5回、本塁打王9回、打点王7回、首位打者1回、ベストナイン19回と輝かしい成績を残す。三冠王は戦後初、さらに通算657本塁打は歴代2位の記録。90年、ヤクルトスワローズの監督に就任。低迷していたチームを立て直し、98年までの在任期間中に4回のリーグ優勝(日本シリーズ優勝3回)を果たした。


日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。