注目のGMOアスリーツ、青学卒業生が中心だ

11月3日の東日本大会には、1区倉田翔平、2区森田歩希、3区橋本崚、4区渡邉利典、5区一色恭志、6区下田裕太、7区林奎介というオーダーで初参戦。大会規定によりキプキルイ・ビクター・コリルをエントリーすることができなかったが、目標の6位を上回る5位で全日本のキップを手にした。このオーダーを見て箱根駅伝ファンならピンとくるだろう。メンバーには青学大のスター選手が多いことを。GMOアスリーツ所属の選手は、ケニア人ランナーを含めて10人。青学大・原晋監督がアドバイザーを務めていることもあり、青学大OBが6人もいるのだ。

しかも、箱根駅伝で4連覇(15~18年)を達成した最強チームの主力がズラリと揃っている。渡邉は15年に3区を走り、16年は10区で区間賞。一色は3年連続(15~17年)で花の2区を好走して3連覇に貢献した。下田は8区で3年連続(16~18年)の区間賞。森田は17年に4区で区間2位、18年に2区で区間賞、19年は3区で区間記録を樹立した。林は7区で2年連続(18~19年)の区間賞、18年は区間新で突っ走っている。このなかで橋本だけは箱根を走っていない。同学年に「山の神」と呼ばれた神野大地(セルソース)がいたため、控えで終わったからだ。しかし、社会人になってからはマラソンで結果を残している。今年2月の別府大分で2時間9分29秒の自己ベストをマークすると、9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では5位に入った。

青学大勢以外のメンバーは、山岸宏貴と倉田翔平が、花田勝彦監督の上武大時代の教え子で、ルーキーの近藤秀一が東大出身。かなり偏ったチーム編成となる。そのなかで山岸がドーハ世界選手権の男子マラソンに出場するなど、〝世界〟を見据えたチャレンジにも積極的だ。MGCファイナリストは、渡邊、山岸、一色の3人。これはトヨタ自動車(4人)に次ぐ人数で、MHPS、富士通と2位タイになる。チームの歴史が浅く、所属選手が少ないことを考えると、上々の結果といえるのではないだろうか。注目のルーキー森田は11月23日の八王子ロングディスタンス1万mで28分29秒43の自己スト。東日本大会はインターナショナル区間で日本人最高の区間6位と健闘して、6人の外国人ランナーに区間タイムで上回った。ニューイヤー駅伝にはビクターが無事に登録されており、森田がインターナショナル区間を務める必要はない。チームは初出場ながら上位に食い込む可能性が十分にあるだろう。

GMOインターネットグループは1995年に創業。インターネット産業でナンバーワンになることを目標に掲げている。「駅伝もやるからにはナンバーワンを目指します」と花田監督。アイディアマンである原監督のアドバイスと、箱根路を席巻した青学大パワーでニューイヤー駅伝を盛り上げてくれそうだ。

駅伝撤退を決めた横浜DeNA、東海大とつながりが深い

駅伝に新規参入するチームがある一方で、その逆のチームもある。日本陸連長距離・マラソン強化戦略プロジェクトの瀬古利彦リーダーがエグゼクティブアドバイザーを務める横浜DeNAだ。2018年10月に駅伝から撤退することを宣言。現在は、トラックとマラソンに集中して、オリンピックや世界選手権などの国際大会などでの活躍を目指している。実業団チームにとって、企業名が大々的にPRできる「駅伝」は〝至上命題〟だ。そのために1チームあたり15人ほどの選手を保有。なかには一般業務がほとんど免除され、競技を最優先できるチームもある。

横浜DeNAは名門陸上チームだったエスビー食品の流れを受け継ぎ、2013年春に「DeNA Running Club」として創設した。ニューイヤー駅伝には14年から5年連続で出場。撤退前の3年間は5位、7位、6位と上位争いを繰り広げた。その一方で、瀬古氏は、「実業団はマラソンにもっと力を入れて欲しい」とよく話しており、マラソンをはじめとする個人種目に本気で取り組む方向へ舵を切ったかたちだ。横浜DeNA は、2016年4月から「ジュニア年代からの長期的プログラムによって、国際レベルで競争力を持つ選手を発掘・育成」を目指して、U-9・U-12・U-15のアカデミーも始動。そのアカデミー育成テクニカルダイレクターを東海大・両角速駅伝監督が務めている関係もあり、東海大とのつながりが深い。

現在、トップチームに所属している選手はビダン・カロキ、永井秀篤、髙木登志夫、デービット・グレ、湊谷春紀の5人。うち髙木と湊谷は東海大OBになる。そして来年度も東海大から有力ルーキーが加入予定。ジャカルタ・アジア大会1500m代表の館澤亨次、5000m13分38秒58のスピードを誇る鬼塚翔太、ハーフマラソンなど長い距離に強い松尾淳之介の3人だ。「将来的には1500mで世界のトップを目指していきたい」と館澤が話すなど、横浜DeNAは、駅伝に縛られることなく、各選手が狙うべき種目に集中して取り組んでいくことになる。

駅伝をステップに世界を目指すGMOアスリーツ、駅伝を封印して世界を狙う横浜DeNA。学生駅伝でライバル関係にある青学大と東海大が異なるアプローチで大学卒業後の〝戦い〟に挑んでいるのは非常に興味深い。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。