身体が開くとはどういう状態か

バッティング能力を高めていく上で必ず問われるのが、「身体の開き」です。
バッティングがうまくいかない時、多くのケースで「身体が開いている」「身体の開きが早い」と指摘されます。
多くの方が言われたことがあるかもしれません。
しかし、野球界の指導言語は独特で、そもそも身体を開くという状態がはっきりしないまま使われていることが多々あります。
なので、まず身体が開くとはどういう状態なのかを説明すると、腰が回転を加速させる前に、じわじわと腰が回転を始めてしまう状態と言えます(写真左側)。

©︎中野崇

この写真のように、前足をつく直前のタイミングはいわゆる「トップ・割れ」と呼ばれ、急激に腰が回転を加速させる直前の状態です。
一流のバッターは、このときに腰が回転を始めないように限界まで我慢します。
逆に、左側の写真のようにすでに腰が回転を始めてしまっている状態だと「開いている」と言えます。

・身体の開き=後ろ腰の位置(厳密には後ろ側半身の状態)
・早い=腰が回転を始めるタイミングが早い=力を集約できず強いスイングができない

なぜ、身体の開きが早いのが問題なのか

なぜ身体が開くのがよくないのかというと、身体が開いてしまうとバットに力を伝えることができず、スイングスピードが極端に落ちるからです。
身体が開いた状態からは強いスイングができません。
このため、ピッチャーは、バッターをこのような状態にするために変化球などを駆使してバッターの身体を開かせようとします(=タイミングを崩させる)。
すなわちバッターは、「ピッチャーによるタイミング崩し戦略」を攻略して自分のスイングを発揮できるかどうかが要求されるのです。
*ちなみに速球に振り遅れる場合は、逆に身体が開くのが遅れているとも言えます。

身体の開きが早くなる二つの原因

「身体の開きが早い・身体が開いている」状態になる原因は、大きく分けて2つ。
一つ目は、タイミングを崩されて、早く身体が回転してしまう状態。
変化球などが主なきっかけになります。

もう一つは、スイングのメカニズム的に開きが早い動きになってしまっていること。
こちらはなかなか重大な問題です。
そもそもの動きがもう崩れていると言っても過言ではありませんので、ピッチャーによるタイミング崩し戦略を攻略する前に、もう勝負になりません。

いずれにせよバッターは、ピッチャーからタイミングが崩されそうになるのに耐えながら、自分のスイングスピードを発揮しなければならない以上、身体の開きを制御、つまり我慢もできるしいつでも発揮もできるメカニズムを装備する必要があります。

開きを制御するシステムは後ろ足にあり

一般的に、バッティングにおいて身体の開きと表現される場合に指標とされるのがピッチャー側の半身。
ステップ足が着地したタイミングでピッチャー側の肩や腰の位置がピッチャーと向き合うような位置になっていると、「開いている」と言われます。
こうなると、もうバッターはまともなスイングはできません。
バットに当てることはできても、速い打球は生まれません。

バッティングにおける身体の開きの原因というと、どうしてもステップ足に目が行きがちですが、その根本原因は実は軸足にあります。
前回記事のピッチング時の開きと同様に、バッティングでも後ろ足側に身体の開きを制御するシステムがあるのです。
肩の動きやツイストなど、バッティングでの身体の開きを制御する練習方法はたくさん存在しますが、まずは土台として後ろ足側の股関節操作を十分に獲得しなければ、開きの改善に繋がるまでにかなりの時間を要してしまいます。

二つの制御方法

身体の開きの制御方法は大きく分けて二つあります。
一つ目は一般的に使われている方法、二つ目はプロを中心に使われている方法です。

1)締め付け法

キャッチャー側の股関節を内側に締め付ける(後ろ膝が内側に入る)動きです。
この方法の特徴は、筋力を使って身体の開きを制御しているところ。
筋力を使って我慢していると、すでにそこで力を使っているため、そこから急激に腰を回してスイングを開始する際に瞬発力が足りなくなります。
10段階のうちすでに5までパワーを使っているから、残っているパワーが5しかないイメージです。
結論から言うと、ここぞというタイミングに急激に加速しなければならないバッティング動作には適していない方法です。
*腰を急激に回転させる際には、後ろ側の股関節を急激に内に入れる必要があるため

2)アウトエッジ

こちらがオススメの方法です。
プロで活躍する選手の大半がこの方法を採用しています。

©︎共同通信

この制御方法はアウトエッジと呼ばれ、後ろ側の股関節や腰に力を入れて回転を我慢するのではなく、足の外側に体重をかけて我慢する作戦です。
これだと、股関節周りでは我慢するための筋力は使わないため、いざ加速する時のために十分な余力を残せることになります。それまでは、ひたすらアウトエッジで我慢です。

©︎共同通信

アウトエッジだけでは足りない。股関節とセットで使う

ピッチングと同様、いくらアウトエッジで支えたとしても、股関節が連動していなければ、単で外側で支えている状態です。
これでは腰の回転を抑えて限界まで我慢するには不十分です。
身体の開きを抑えるとき、アウトエッジと股関節が必ずセットで働く必要があります。
前回記事で、多数のプロ野球選手が取り入れている「アウトエッジ股関節入れ」というトレーニングを紹介しましたが、今回はそれの発展版。
バッティングにもピッチングにも使えます。

【アウトエッジランジ】

前回の「アウトエッジ股関節入れ」と同様に両側の鼠径部を2本指で押さえます。
また、同じくアウトエッジ(くるぶしライン+足の内側浮かせ)を作ります。
運動中はこの状態をキープします。

©︎中野崇

鼠径部押さえ+アウトエッジの状態のまま、横に足を出して横移動します。
左右両方行います。
この時、後ろ膝が内に入って腰が回転するのはNGです。

©︎中野崇

膝が内側に入らないこと、力んで腰を反らせたり、肩を力ませたりしないことがポイントです。

©︎中野崇

今回はバッター用としてご紹介していますが、ピッチャー用としてもそのまま使えますので、キャッチボールやピッチングの前や途中にぜひ導入してみてください。
注)これらの記事にある運動を必ず先に行っておいてください。効果が大きく変わります。

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