敵地でのサウジ戦で見せた日本代表の真の強さ

 10月10日、日本は過去3戦全敗(3試合とも0-1)しているジッダでサウジアラビアとの戦いに挑んだ。事前の予想は3バックのミラーゲーム。ところが蓋を開けてみればサウジのロベルト・マンチーニ監督が採用したのは4-3-3だった。立ち上がりはこの陣形に対し、慎重にアジャストしながらのプレーとなった日本だが、前半14分に先制したことで主導権を握りながらの試合運びとなった。

 日本が成長を見せたのはこの後だ。4バックの前にアンカーを置いてロングボールを繰り出し、ボランチが縦横無尽に立ち位置を変えるなど、捕まえにくい動きをする相手に手こずりながらも、割り切る意識も持ちながら要所を確実に抑えた。

 この試合で攻守に存在感を見せた守田は「前半も後半も、少なからず相手の意図する形を作られたと思うけど、最後粘ったり、がんばってスライドしたり、クサビやエアバトルなど、アジアカップの時に1対1のデュエルで負けていたところの改善は見られたと思う」と言い、日本の成長の手応えを感じ取っていた。

 アジアカップでは、フィジカルを前面に押し出し、ロングボールやハイクロスを駆使する中東勢のイラク、イランに屈してベスト8で敗退した。それから9カ月。最終ラインの板倉滉、谷口彰悟、町田浩樹はもちろん、中盤や攻撃の選手たちもアジアカップで出た課題に向き合い、確実に改善していることが、サウジという骨のある相手との戦いではっきりと現れた。

 プレッシャーのかかる中でミスが減ったという指摘もある。この試合の印象について、17年(ハリルホジッチ監督、本田圭佑キャプテン)と21年(森保監督、吉田麻也キャプテン)にジッダでのサウジ戦を経験している元日本代表MF原口元気(浦和)に意見を求めると、このように語った。

「独特な雰囲気とか、暑さとか、W杯が懸かっているとか、一番強いライバル国という部分で、あの地で2―0で快勝するのは本当に力がついたと思う。『こういう時にはこうプレーする』という部分でエラーが減っている。日本代表ですらああいう厳しい戦いになるとミスが出ることもあったと思うが、変なミスが確実になくなった。選手の質(が上がった)かなと思う」

 サウジ戦、日本は後半に小川航基が追加点を決めて2-0で快勝した。ボール保持率で上回られた相手に対してチャンスを逃さずゴールを奪い、過去3試合で1点も取れなかったジッダで手にした初勝利は、日本が一段階上の強さを身につけた印象を与えるものだった。

豪州相手に浮き彫りになった課題

 その5日後の10月15日にホーム埼玉スタジアムで行われたオーストラリア戦は、サウジ戦以上に苦労する試合となった。

 オーストラリアは9月シリーズ後に指揮官が交代。現役時代に森保監督と広島でともにプレーした経験があり、日本のことも森保監督のことも熟知しているトニー・ポポヴィッチ監督は、日本に対して5-4-1の守備ブロックを敷いてゴール前を固める戦いを選手に指示した。

 試合当日は、オーストラリアのチームバスが宿舎から埼スタに移動する際に交通事故による渋滞にはまり、選手はバスに2時間も缶詰。スタジアム到着が予定より大幅に遅れ、ウォーミングアップの開始時間に間に合わないというアクシデントもあった。

 AFC(アジアサッカー連盟)の指示によりキックオフ時刻は予定通りとなったため、オーストラリアのアップ時間は通常よりも短縮。ケガのリスクにも留意しながらの試合開始となったことも影響したのか、オーストラリアはより守備に徹する。

 すると日本は、それまでの3試合で14得点だった攻撃がなりを潜めてしまった。単調なクロスがことごとく跳ね返され、好機を作れない。

 ビルドアップでは遠藤航の体調不良による欠場が少なからず響いた。ダブルボランチの組み合わせは守田、そして3バックになってから初先発の田中碧。基本的には2人とも攻撃参加を持ち味のひとつとしているタイプだ。この組み合わせの場合は守田が後方でバランスを取る役割で、田中はより高い位置で機を見て攻撃に加わる役目を受け持つことになるが、そのポジショニングがしっくりいっていなかった。

 守田はこのように説明した。

「碧は3バックでプレーする機会が少なくて、考えながらやりすぎた分、良い意味でのアンバランスさ、自由さ、彼にしかない能力を出し切れなかったと思う。僕がバランスをとってもっと自由に碧をやらせてあげれば、より違いを生み出せると思うのでそこは自分の反省点だった」

大勢に影響することなく教訓を得られたドロー

 ただ、試合全体でいえば後半17分にオウンゴールを献上してオーストラリアに先制を許したが、日本はここでも底力を見せた。途中出場の中村敬斗が覚醒感すら漂わせる鮮やかなドリブル突破を連発してチャンスをつくり、後半31分、今度はオーストラリアのオウンゴールを誘発して1-1。日本はせめあぐねながらも追いつき、“最低限”の勝ち点1を手にするという、強豪と呼ばれるチームが見せる典型的な試合をした。攻撃面で持ち味を発揮しきれなかった田中もイングランド移籍で守備強度を上げている姿を披露していた。

 第2次森保ジャパンで前線の要の1人となっている南野拓実はこのように言う。

「前半が終わったとき、『これくらいピリピリする試合がいいよな』という話をしていた。相手も死に物狂いで食らいついてくるこういう試合が自分たちを成長させてくれると思う」

 最終予選の戦いでダントツの位置にいる日本が、W杯本大会までの間に外的要素によってヒリヒリした試合をする機会はほぼない。その中でいかに自分たちで刺激し合い、高め合っていけるか。アジア予選でどれだけ絶好調でも本大会ではまったく別次元の戦いが待っているからだ。

 日本にはケガで離脱中の冨安健洋(アーセナル)や伊藤洋輝(バイエルンミュンヘン)がいる。攻撃陣では欧州随一の得点実績を誇る古橋亨梧(セルティック)、ブンデスで今季目覚ましい活躍をしている町野修斗(ホルシュタイン・キール)もいる。

 10月シリーズの2試合で起用されたのは招集された27人中17人。出番のなかったベンチメンバーの起用も含め、森保監督がチーム内で刺激を与え合う環境をいかにつくっていくかが、陰の大きなテーマとなっていく。


矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。