構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹
「親心」で下位予想とした巨人が嬉しい好スタート
──中畑さんが開幕前に発していたセ・リーグの順位予想は、1位から阪神、ヤクルト、DeNA、巨人、広島、中日でした。シーズンが始まってみて、いかがですか?
中畑 多くの解説者が下位予想したチームが良いスタートをきったね。特にジャイアンツの開幕4連勝は見事だった。野球の質も良かったし、何より集中力があった。お客さんが応援したくなる雰囲気があったと思うんだ。嬉しかったし、うらやましかったなあ。また、現場の血が騒いできちゃったよ(笑)。
──巨人の順位予想を4位にした理由は?
中畑 実は、由伸(高橋監督)に対する“親心”だったんだ。そのくらい心配していた。新監督に就任したあとに、野球賭博の問題などグラウンド外で色々とあったじゃない? あの状態で開幕から勢いをつけるのは相当難しいと思っていたから、由伸には「プレッシャーを背負うことなく自分の野球に徹してくれ!」というメッセージを込めた4位だったのよ。
──嬉しい意味で予想を裏切ってくれましたね。采配自体は、中畑さんの目にどう映りましたか?
中畑 開幕4連勝は、まさに王道を行く野球を貫いていた。強いときのジャイアンツの熱狂を与えてくれたよ。プロ野球は“興業”という一面があるから、単に勝つだけではなく、ファンにどう見せるかも大切なことになる。各チームは、その時々で与えられた特徴や役割のようなものがあって、それを出し合う対決があって盛り上がるからね。もちろん、どのチームの監督だって全試合勝ちたいよ。それは、昨年までやってきたオレが痛いほどよく解っている。でも、勝ち方の中身や質というものがあると思う。由伸には、これからも開幕時と同じ意識で戦ってほしいな。
高橋由伸監督には勝ち方にこだわってほしい

──DeNAで中畑さんが戦ってきた4年間、巨人の強さというのは、実際どうだったのでしょうか。
中畑 正直なところ、昨年あたりは絶対的な強さを感じなかった……。1年目は東京ドームで1勝もできず手も足も出なかったけど、3年目に勝ち越した頃から、「ウチが勝ち越せるようなチームなのか? 大丈夫なのか?」と、かえって不安になったよね。ジャイアンツには球界の盟主として王道の野球と強さ貫いてもらい、それを倒すのがオレの楽しみのひとつでもあったわけだから。
──確かに昨年の巨人は、主軸の選手にもバントをさせるなど、勝つためになりふり構わないシーンが見られました。
中畑 それをいったら原(辰徳前監督)批判になっちゃうじゃないか(笑)! そういうことではなくてさ。このご時勢、野球教室で球児たちに将来の夢を聞くと、ユニフォームを着ている子たちが、「コックさん」だとか「消防士さん」だなんて、プロ野球選手以外の職業を普通に言うんだよ。それくらい野球人気の低下を実感させられるなかで、今一度プロ野球の魅力を出していくためにも、球界の盟主である巨人には野球の質にこだわってほしいと思っている。
阪神・金本知憲監督には芯の強さを感じる

──金本知憲新監督が采配をふるった阪神の戦いぶりはいかがでしょう。
中畑 金本については、まず、契約の仕方からして芯の強さを感じるよな。普通、監督就任を要請されたら、ほとんどの人が簡単に引き受けるものだよ。
──中畑さんも?
中畑 オレなんてふたつ返事だったよ(笑)。それを金本は、何度も交渉を重ねてね。スタッフ人事なども自分の希望を伝えて、すべて納得してから契約を交わしていた。その芯の強さだよね。それと、監督1年目とは思えないほど選手の気持ちをコントロールするのがうまい。今までの阪神になかった一体感を作っていると思う。それでいて厳しく妥協しない面があるから、緊張感、危機感も与えているしね。そういう要素っていうのは、勝負の世界では大事なことだよ。
──戦力的には外国人選手の顔ぶれが多少変わった程度で大きな補強はしていません。
中畑 キャンプで本人から直接聞いたけれども、「1年目は大きな補強をせず若い選手で勝負したいです」と言っていたんだ。自分のビジョンをしっかり持っている。だからブレないよね。高山(俊)、横田(慎太郎)を1、2番に抜擢して固定しているのはいい例だと思う。金本の強みは、そこにあるんじゃないかな。
──今後、もし、障壁が生じるとしたらどんなときでしょうか?
中畑 阪神の場合はね、ファンが“敵”になるときだよ(笑)。負けが込んだとき、内容が悪い試合が続いたとき、また、チームに不協和音が響いたりすると心配だけど、今年はそういうことはないんじゃないかな? ファンも期待感をもって見守ってくれていると思う。
──となると、金本監督の信念がブレないことが、今後の阪神のポイントですね。
中畑 特に負けが込んだときにどうカバーするか。必ずそういうときはくるから。そのときにどのような手腕を見せてくれるかを楽しみにしている。何たって、オレの順位予想の優勝は阪神だから。
──巨人も好スタートをきりましたが、そこは中畑さんもブレない?
中畑 うーーーん。巨人に変えようかな(笑)? いやいや、まだシーズンははじまったばかりだしな。いずれにしても、今シーズンは巨人、阪神、どちらも面白くなると思うよ!
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。