高い親和性と日本市場の魅力
〝オンカジ〟と略されることもあるオンラインカジノ。日本では賭博罪などに該当するが、スポーツとの親和性は高そうだ。政府広報のホームページ(HP)によると、オンラインカジノの定義を、ゲームの結果に対して現金や暗号資産、電子マネーなどを賭けるものと記している。スロットやカードゲームだけではなく、スポーツの勝敗などを予想する「スポーツベッティング(以下ベッティング)」も含むと指摘。事実、略式起訴された2021年東京五輪卓球男子団体銅メダリストの丹羽孝希選手は起訴状によると、テニスの勝敗を予想して賭けていたとされる。結果として10万円の罰金を科され、所属チームとの契約を解除されるなど高い代償を払った。
芸能人や丹羽選手の事案が明るみになると、別角度からの議論がネット上を中心に持ち上がった。大相撲でエストニア出身の元大関把瑠都ら、オンラインカジノ関連の広告にスポーツ関係者が出演していたからだ。金銭を賭けない無料版の広告にはサッカー日本代表経験者らが登場した例もある。無料で100種類以上のゲームができる触れ込みだったが、有料版へ誘導する役割があるとされ、批判的な論調も目立った。
世界的にはカジノを合法とする国があるだけに、御法度の日本とは感覚が違う面がある。例えば、サッカーのフランス1部リーグの強豪、モナコには「カジノシークレット」というオンラインカジノがチームのパートナーに就いている。昨年8月には契約が2026年まで2年延長されたと発表された。モナコの公式サイト上の声明では、カジノシークレットを「日本で最も急成長し、最も革新的なオンラインカジノの一つ」と表現。クラブに所属する南野拓実選手らの写真が掲載されていた。
既に年間数兆円規模の賭け金が日本から国外に流れていると指摘する海外の専門家がいる。カジノシークレット幹部の次のコメントには、日本市場を重要視する狙いが伝わってくる。「モナコとのコラボレーションで日本コミュニティーとの関わりを大幅に強化できた。これからも日本向けに特別なコンテンツを提供していけるのを楽しみにしている」と大々的にアピールした。
知名度の高いスポーツ選手は広告塔として使われやすい。別のサッカー選手が出ていた広告を目にしてオンラインカジノを始めた結果、借金苦に陥ったという男性の告白がメディアで報じられたことがある。オンラインカジノの違法性が声高にさけばれてきた現在の日本。無料版であることだったり所属チームの事情だったりとさまざまな理由があるにせよ、オンラインカジノ関連の宣伝に絡むことは批判と背中合わせで、リスクが高いと言わざるを得ない。
リアルとオンラインの間で
政府広報のHPには今年1月9日付で次のような告知が掲載された。「オンラインカジノによる賭博は犯罪です!」。警察庁にも同様のお知らせがあり、国を挙げて対策に本腰を入れる姿勢が表れている。ここ数年で逮捕者も目立っており、客に賭けさせた常習賭博容疑や、オンラインカジノを紹介する動画投稿の常習賭博ほう助の疑いなども対象。そこで容疑者の言葉として頻繁に伝えられるのが「違法とは思わなかった」の釈明だ。活動を自粛した人気お笑いコンビ「令和ロマン」の高比良くるまさんは謝罪の動画で、2020年末ごろまで1年、オンラインカジノに興じていたとし「海外の口座から送金すれば違法ではないと説明を受けた。なおかつ、そういったサイトの広告もあって、違法ではないという認識をしてしまった」と述べた。当時は状況が違っていたが、今や言い訳は通用しない雰囲気が充満している。
国内の賭け事では競馬、競輪などの公営ギャンブル、サッカーなどのスポーツ振興くじは特別法で認められている。海外ではオンラインカジノが合法な国があるのに日本では違法。このギャップが認識不足を生み、事態を助長してきたといえる。
一方、この現象が変化する可能性を否定できない。大きな動きとして、大阪に2030年秋をめどにカジノが開業する予定となっている。場所は今年の大阪・関西万博の舞台となる大阪市の夢洲で、カジノを含めた統合型リゾート施設(IR)の整備計画が2023年に国から認定された。その前に、カジノを賭博罪の適用対象から除外するIR整備法が全面施行。治安悪化やギャンブル依存症拡大といった懸念材料もくすぶりながら、今年2月に万博の会場跡地活用を巡り、大阪府と市が基本計画案を公表した。〝リアル〟でカジノが解禁されれば、オンラインはどうなのかとの意見が出てくることが予想される。
スポーツのベッティングに特化すると、スポーツ振興用の有力な財源となり得るとの主要因で、以前から待望論がある。最近の海外スポーツの中継では、賭けが前提になっている画面も目にする。米大リーグでは1アウト増えるなど状況が変わるごと、ボクシングではラウンドが終わるごとなど、オンタイムで賭け率が変化している。米プロバスケットボールのNBA関係者はベッティングを導入したことについて「どうせ賭けられるんだから、合法にして可視化できるようにした」と説明。違法な市場に目を光らせ、管理しやすくするという点で一理ある考え方だ。
今でもオンラインカジノの各サイトをのぞくと、日本語で「日替わり入金特典」「超豪華なVIP特典」「便利で豊富な決済方法」とのうたい文句が躍り、ユーザーの関心を呼ぼうとしている。日本野球機構はプロ12球団に対し、オンラインカジノを利用したことがある関係者がいる場合、自主的に名乗り出るように要請した。将来的な合法化議論とは別次元で、スポーツ界にとっても悩ましい状況が続く。