構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹
ソフトバンクの選手は三軍でも凄い!
──今回は、昨年まで交流戦で対戦してきたパ・リーグについて伺いたいと思います。
中畑 パ・リーグに関しては、ソフトバンクが際立っているということに尽きるよな。今年、久しぶりに解説者に戻ってキャンプをじっくり見たけど、「ここ(ソフトバンク)以外に勝つところはないよな」って改めて納得させられた。だって、三軍選手がいるブルペンへ行ったら、190センチ近いピッチャーが右左何人もいて、みんな150キロ近いボールを投げているんだよ。「まだ、未完成でコントロールがないんです」って話だったけど、コントロールうんぬんよりも、そんなボールを見せられただけで「おいおい、これが本当に三軍なの?」って思った。彼らのような逸材が必死になって二軍を目指しているチームなんだから、それは強いよねえ。それは野手にも感じたこと。大型の選手がごっそりいる。あの三軍の選手たち、DeNAなら即一軍だよ! あれだけのチームなら、孫さん(孫正義オーナー)もソンしないよな(笑)!
──となると、他の5球団はソフトバンクをどうにかして崩さなくてはなりません。
中畑 オレは、「ソフトバンク包囲網」を築くことがとても大事だと思う。ローテーションの軸になるピッチャーをどんどんぶつけていくしかない。そうしないと、ぶっちぎり状態になり早いうちにペナントレースが決まって“ジ・エンド”になっちゃうからね。昔なら、「ジャイアンツ包囲網」があって、各球団のエース級ばかりがあたり前のように投げてきた時代があったけど、今こそそれをするときじゃないかな。パ・リーグの各球団の監督たちも、それは十分に理解していると思う。強いチームにいいピッチャーをぶつけることについては誰も文句は言わないよ。ソフトバンクも、それを勝ち抜いてこそ王者を誇示できるわけだから。
台風の目になってくれ! 同い年の梨田昌孝監督に期待

──中畑さんと同い年、「昭和28年会」などで親交が厚い梨田昌孝さんが監督に就任した楽天についてはどうでしょうか。
中畑 話をしたときに、ナシ(梨田監督)は「オレ12球団最年長監督で長老なんだよ」って言っていたけど、「去年までオレがそうだったんだから当たり前だろう!?」って言ってやったよ(笑)。まあ、それはオレとナシとの掛け合いとして……昨年最下位だったチームを引き継いだのだから、かえってやりやすいんじゃないかなあ。パ・リーグを知り尽くしている男だし、年齢的にも楽天での采配を最後の勝負の場だと思って、覚悟を決めて挑んでいるはずだよ。
──40代の監督が増えるなかで、“長老”としてぜひ意地を見せて欲しいですね。
中畑 楽天には“暴れん坊将軍”になってほしいね! 開幕5戦目に美馬が完封しただろ? あれは、配球部分でナシの影響が少なからずあっただろう。ああいった、ナシにしかない“マジック”を使って、「あそこにいつもかき回されるんだよな」という存在になってほしい。オレもDeNAでそういう野球をやりたかったのよ。そうやって上位のチームを引きずり下ろすことで、自分たちのチームが浮上するという考えだよね。
──昨年の前半戦は、まさにそれを実践しました。
中畑 ただし……短命だったな(笑)。でも、野球界のなかで盛り上げることはできたと思うよ。
セ、パの強さの違いはパワーの安定感にあり

──中畑さんが昨年まで交流戦で対戦していて、セ・リーグとパ・リーグの野球の違いというものは感じていましたか?
中畑 やはりパワーについては、直接戦っていてその差を痛切に感じたよ。ピッチャーでいえば大谷翔平(日本ハム)とかさ。
──それは、そもそもの“エンジン”の違いのようなものとか?
中畑 パワーってどうしようもないじゃない? パワーが全開の選手がたくさんいるチームというのは、戦っていて威圧感を感じるものなんだ。「これを押し返してどうやって勝ちゲームを作ればいいのだろうか?」ってよく考えさせられたよ。選手がそれを感じるだけでなく、オレも感じちゃったらやはり勝てないよな……。だから昨年は、交流戦で12連敗してしまったよ(笑)。7回、8回まで勝っていても、最後にひっくり返されてしまうという強さはあったよね。ただ、それはウチ(DeNA)の自力がなかったんだよな。一所懸命やっても勝てなかった。真っ当な野球で正面から当たるだけでは、今年もセ・リーグの球団は勝ちゲームをたくさんは作れないかもしれない。弱点をしっかり分析して徹底的に突いたり、機動力や奇襲的な選手起用を絡めてかき回すとかしないと。
──ただ、パワーということでは、昨年のDeNAも筒香嘉智、梶谷隆幸といったメンバーは引けをとらないと思うのです。
中畑 それはほかのメンバーも含めた、チームの安定感の違いだよ。ソフトバンクに限っていえば、バックアップできる選手がたくさんいるから一年間高いレベルのパワーを維持して戦える。筒香や梶谷は個々としては遜色ないけど、彼らだって調子の波はあるからね。それがシーズンを通して大きな差として表れるのだと思う。ソフトバンクは、王(貞治)会長や編成が密に連携して、チームの弱点を補うために先回りして動いている。それがあると、安心して現場が動けるんだよ。
──ほかに注目のパ・リーグ球団は。
中畑 伊東勤が監督のロッテも面白い。ナシもそうだけど、キャッチャーあがりの監督は色々と考えて采配をふるうから面白いよな。野村克也さんも自分でそう言っていたよ。「内野手の監督で良かったやつなんて誰もおらんやろ? 本当にいい監督はキャッチャー出身や」って(笑)。ただ、ソフトバンク以外の5球団は、セ・リーグの球団とそこまで大きな差はないよ。パ・リーグ全体というよりは、ソフトバンクが図抜けていると思う。だから、今年の交流戦ではセ・リーグの球団も意地を見せてほしいね!
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。