構成・文/キビタ キビオ 写真/塚原孝顕

開幕直後に低迷したオリックスに注目

──今回は、パ・リーグについてお話をぶつけて合ってもらいたいと思います。ダンカンさん、どこか気になっているチームはありますか?

ダンカン オリックスを心配していますねえ。じつを言うと、福良淳一監督は飲み友だちなんですよ(笑)。だから、あくまで阪神がメインではあるんですけど……昨年、彼が監督代行として指揮を執るようになってから、オリックスはだいぶ気になります。今年は5月になってようやく盛り返してきましたけど、昨年から今年の開幕直後にかけては、完全に“阪神化”していたと見ています。やることなすこと、すべてがチグハグという感じでしたから。

中畑 “阪神化”ってすごい言葉だな(笑)。確かに、2014年に2位になって、2015年に中島(裕之)、小谷野(栄一)、DeNAが切ったブランコと……かなりの補強をしたけど、それが機能しなくてコケてしまったという感はあるね。

ダンカン そこなんですよ。結局、そこが分かれ目になったんです。補強のしわ寄せで、外国人選手も大物を獲得できませんでしたし。

中畑 最速166キロの抑え候補がいたけど、打たれていたな……。

ダンカン コーディエですね。オープン戦は無失点でヒットも打たれなかったのですごく期待されたのですが、開幕戦の登板でいきなり西武に逆転負け。4月6日の楽天戦では、ウィーラーに逆転ホームランを食らいました。

──この被弾で一度、二軍に落ちました(5月14日に一軍再登録)。

ダンカン 極めつけは、中継ぎ左腕としてキャンプ中に獲得したミッシュでしょう。4月9日のソフトバンク戦、一死満塁というピンチでのリリーフが日本初マウンドでしたが、1球目を投げたら、なんとボーク! 実際には、投げるときの動作に問題があったということで、記録上は1球目を投げる前に点を取られちゃった。

中畑 来日初の記録がボークっていうのも、ある意味では凄いよなあ(笑)。

ダンカン そして、その直後にも中村晃にタイムリーヒットを打たれて、金子千尋が出した塁上の走者は全部ホームインですよ。さらに、翌日の登板では松田宣浩に対して初球を投げたら、「カキーン!」と、いきなりスタンドインのホームラン!

中畑 長い歴史がありながら、こういうネタになるようなことがいまだに生まれるんだから、野球って面白いよ!

ダンカン 先発投手も、しばらくはディクソンでしか勝てない状態が続きましたよね。今年見ていると、主戦の金子と西(勇輝)が思うように勝てない。ふたりとも、以前はホームベース目掛けて「ドーン!」と行っていましたけど、どこか逃げてかわそうというピッチングをしているように見えます。なんだか、セ・リーグのピッチャーみたい。

──阪神ファンのダンカンさんが、そんなこと言ってしまっていいんですか!?

ダンカン これは僕の率直な印象ですから。セ・リーグはやはりピッチャーが打席に入るので、かわしながら打線の切れ目を生かすのもひとつの手なんですよ。でも、パ・リーグはそうはいかない。逃げのピッチングは致命的でしょう。清さん、あれは一体どういうことでしょうか?

中畑 一発を打たれたくないから、かわそうとする。そういう悪循環に陥ってしまったんだろうな。

ダンカン 打線も開幕から13試合連続でホームランがゼロと散々の状態でしたからねえ。これは、ホームラン王の獲得経験があるブランコとT-岡田のふたりが開幕時にファームだった影響が大きかったですけど、投手陣は「自分たちが抑えないと試合が作れない」と考えて、大事にいき過ぎたのかもしれません。

12連敗中であっても選手に下を向かせなかった!

──その後、オリックスは復調気配を見せて5月17日には4位に浮上しましたが、そもそも、最下位に低迷しているチームを立て直すにはどうすればいいのでしょうか。

ダンカン それは簡単なことかもしれない。清さんが助監督として、低迷するチームに行けばいいんです!(笑)

中畑 ハハハ! 残念ながら、オレはいま解説者に戻って忙しくやっているからな! ただ、ひとつだけハッキリ言えることとして、負けが込んでいるときに空気を変えるというのは、本当に難しいのよ。テンションも下がっているしさ。

ダンカン 思い出したくはないと思いますが……昨年、DeNAが12連敗したときはどうだったのでしょう?

中畑 もちろん選手は落ち込むよ。でも、オレは決して下を向かせなかった! これには理由があるんだ。12連敗中のアイツらを見ていて、誰ひとりとして諦めたり、気を抜いたプレーをしていた者がいなかったからね。中継ぎ投手が持ちこたえられなかったのが一番の原因で、実力で負けるべくして負けていただけだった。だからオレは、この連敗中「これがウチの力なんだ」とは言っていたけど、選手をやみくもに怒りはしなかったよ。ただ、いま思うと、監督のオレがそれを言ったらダメだよな?

ダンカン まあ、確かに(笑)。

中畑 ただ、プロ野球というのは勝つことがもちろん一番だけど、お客さんにどういう野球を見せるかということも大事だとオレは考えているのよ。要するに、見る側にとっての野球の“質”だよな。開幕当初のオリックスは、その点でどうだったか? というところが重要じゃないか。負けても胸を張れるかどうかだよ。

ダンカン 負け方もよくなくて、0対11とか(4月5日楽天戦)0対10(4月10日ソフトバンク戦)という覇気の感じられないスコアがありましたからね。

中畑 仮に最終回で0対10だったとしても、各バッターが粘って粘ってなんとか出塁して、最後まで諦めずに見せ場を作らないとダメよ。

ダンカン 小谷野や中島が、2ストライクからあっさり見逃し三振をしてベンチに帰っていく姿を見たことがあって、そのときは「アレー?」っと、思いましたね。

低迷脱出はベンチの雰囲気から! それしかない!

──ここからは、低迷脱出のための“具体策”を伺わせてください。

中畑 まず、チームの状況を知るにはベンチの雰囲気を見るとすぐに分かるよ。チームの状態が悪いときというのは、全員が本当に気持ちをひとつにしないとチャンスも作れないし、勝ちゲームを引き寄せてくることができないんだ。それは、必ずベンチに出る。きっと、みんな背もたれに体をあずけてしまっているはずだよ。いわば、“傍観者”になってしまっている。

ダンカン そういえば、最近のベイスターズ戦のテレビ中継では、よく試合中にベンチのなかを映すことがありますけど、昨年のベイスターズって、控え選手もみんな前のめりになって、大きな声を出して試合ときちんと向き合っていましたね。

中畑 たまたま、競り合っているときのゲームだったんじゃないの?(笑)。それはある意味では当然なんだけど、負けが込んでいるときにもそれができるか? ということよ。

ダンカン 逆に言うと、良い状態のチームも、ベンチを見れば分かるということですね。

中畑 そういうこと! 人間って正直だから、気がつかないうちに雰囲気に出ちゃう。

ダンカン それなら、ベンチから盛り上げていけば立て直しができる?

中畑 実際、それしかないんだよ。だってさ、それをやらなかったら変わるはずがないでしょう!? みんなが同じ方を向いて努力をしなければ、絶対に変わるはずがない。それが、すなわち“チーム力”なんだよ。

ダンカン ペナントレースで優勝するチームだって、勝率にしたら大抵の場合5割台ですものね。ほぼ、五分五分と考えたときに、そういった気持ちで毎試合挑んでいくってことが、きっと大事になっていくんだろうなあ。

中畑 今年のパ・リーグは、オリックス以外にも西武や楽天が苦労しているけど、どこも同じ話。前を向いて、自分たちがいまできる範囲で質の高い野球をする。これしかないよ!

ダンカン それ、阪神の選手たちに伝えたい! 最近の阪神って、毎年9月になると勝率が落ち込む傾向があるんですよ……。体力的にきつくなるというのもあるかもしれないですけど、その苦しいときこそ相手にとことん向かっていく気持ちを持続させないと。

中畑 ダンカンはやっぱり阪神に戻っちゃうな(笑)。でも、確かに、阪神だけに起こる“9月病”というのは最近あるね。それをどう乗り切るかも、今年の金本監督の腕の見せどころになるんじゃないか。

ダンカン 9月がきたら、祈るような気持ちでその点を注目してみます。

中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

ダンカン
1959年、埼玉県生まれ。元は立川流の落語家だったが、北野武率いる「たけし軍団」の一員となり、お笑いタレント、俳優、放送作家などとして、バラエティー番組や映画、ドラマなど多彩に活躍している。熱狂的な阪神ファンで、長男に「甲子園」、次男に「虎太郎(とらたろう)」と命名したほど。サンケイスポーツのコラムなど、タイガースに関する執筆活動も多数。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ