構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

“理想的な勝ちっぷり”を最後までずっと続けたね!

──広島が25年ぶりとなるリーグ優勝を果たしました。

中畑 チームの関係者やカープファンには、素直に「おめでとう!」だね。

──シーズンを通して、ほとんど危なげなく優勝にたどり着きました。一番の要因は、どこにあったのでしょう。

中畑 まず、今年の広島は、勝ち方がすごく良かった。そこには、シーズン序盤から新井(貴浩)の2000本安打があって、そのあと黒田(博樹)の200勝も続いたことが大きかったと思う。常に大きな話題があって、勢いのつきやすい状態を維持することができたよな。

──新井が39歳、黒田が41歳ですが、ともにバリバリの主戦で活躍しました。

中畑 まさに「絶好調!」だったな。ふたりともベテランなのに、自分たち自身がきっちり仕事をして、チームに勢いをつけた。そして、若手がそれに乗っかっていくという相乗効果が生じた。たった1年で最高にいいチームになったよ。

──シーズン中盤以降の逆転劇の多さもすごかったですよね。優勝を決めるまでの82勝中、42試合が逆転勝ちでした。

中畑 あきらめない姿勢というのは、前から持っているチームだったんだ。それが、今年はさらに雰囲気が良くなって、7回、8回になると必ずといっていいほど逆転していたからな。それに、鈴木誠也のサヨナラホームランに代表されるように、勝つときの勝ちっぷりが実に理想的で、いい形で試合を決めることが多かった。こんな形で勝ち続けたら勢いが止まるはずがないよ。ファンもたまらなかったんじゃないか?

──今年はスタンドのファンも、本当に盛り上がっていましたものね。

中畑 しかし、個人的には「こんなにすんなりいっていいのか?」という思いも、実はあったんだ。

──2位の巨人以下、ライバルチームがその勢いについていけなかったことが、マジックの急速な消化につながりました。

中畑 特に巨人がなあ……。広島のマジックが点灯した翌日から1勝8敗って、なんだよ! 産みの苦しみを味わわせるどころか、自分たちが苦しんでどうするんだ!? と突っ込みを入れたくなるような体たらくだよ。

──ただ、いずれにせよ、1996年に11.5ゲーム差を逆転した「メークドラマ」の再来は難しかったですかね?

中畑 一時期、4.5ゲーム差まで詰め寄ったけど、その後の勢いの違いを目の当たりにしてからは、広島が優勝するだろうとは思っていた。そのくらい、チームの明るい雰囲気がずっとあったな。

田中、菊池、丸の上位3人による打線のつながりが見事!

──今年の広島の良かった点について、もう少し具体的に挙げるとしたら、どういったところだと思いますか?

中畑 攻撃では、1番・田中(広輔)、2番・菊池(涼介)、3番・丸(佳浩)の存在だろう。機動力のある広島らしいイメージをそのまま体現していた。守備でもこの3人がセンターラインを固めているということで、これは、他にない安定感のある1、2、3番じゃないかな。攻撃パターンがたくさんと作れるから、4番の新井の前に常にランナーがいて、新井が還せなかったとしても、6番の鈴木に一発が出たりしてな。理想的な戦い方、勝ち方を演出し続けることができたのは、上位の3人の活躍によるところが大きかった。

──投手陣も、前田健太(ドジャース)が抜けて弱体化が心配されましたが、蓋を開けてみれば、ローテーションもなんとか回りました。

中畑 やはり、ジョンソンと野村(祐輔)という左右の二枚が安定していたのが一番だろう。野村がここまで勝てるとは、開幕前には誰も思っていなかったはずだよ。その二枚に加えて黒田がいて、あとは、福井(優也)とか新人の岡田(明丈)、左の戸田(隆矢)や中村(恭平)あたりでつないでいく感じ。正直、4番手以降はシーズンをまっとうするほどではなかったけど、登板したときはなんとかゲームを作って終盤の逆転勝ちにつなげていったのだから、いい仕事をしたと言っていいと思うよ。

──確かに決して盤石ではなく、ほかにもセットアッパーだったヘーゲンズをシーズン途中から先発に回すなど、綱渡りのところもありましたよね。

中畑 ただ、打線に勢いがあったから、それによって先発投手の弱いところをカバーしていくというスタイルが可能だったんだ。最終的に「今年は頑張っていれば、終盤で逆転できる」という投打の信頼関係を生み出した。投手陣は、「少々打たれても、粘って予定のイニングを投げきるんだ」という強い気持ちで投げることができていたよな。

──それは、ピッチャーの心理面にかなり大きく影響するものですか?

中畑 するよ! 「3点差、4点差であっても、逆転してくれる可能性はある」という心理が働けば、マウンドでも大胆に攻められるし、仮に失点したとしてもすぐに気持ちを切り替えられる。それになにより、投げていけば勝ちがつく可能性もあるというのは大きいよ。弱いチームは、「3点、4点とられたら、今日はもうおしまいだ」ってなるからな(笑)。

──1番から3番を起点として打線のつながりが良かったことが、今年の広島のチーム力を支えたということですね。この強さは、来年以降も続くでしょうか。

中畑 うん。可能性はあるな。野手の若さを考えると、しばらくの間は同じメンバーでいけるから、大きなズレは生じないだろう。鈴木に至っては、バッティングの内容を見るとまだまだ伸びそうだしな。ここ数年で4番を打つくらいになるんじゃないか、という期待感すらあるね

CSまでに間が空いてしまったのが唯一のネック

──中畑さんの現役時代も含めて、これほど順調に優勝が決まったケースというのは他に記憶にありますか?

中畑 いや、憶えがないな。特に8月24日マジック20が点灯してから、たった2週間後の9月7日に、その日に優勝が決まるかもしれないマジック2になってしまった。これは、いくらなんでも早過ぎる。この間、広島は12試合、巨人は11試合しかしていないから、ほとんどの日が「広島が勝って、巨人が負ける」という星勘定にならないと、これほどの減り方にはならないよ。こんなにうまくいったパターンは、過去に見たことがない。

──例年だと、どんなに強いチームでも優勝目前に多少なりとも足踏みしますものね。

中畑 こんなに広島があっさり優勝を決めてしまうと、残りのペナントレースはどうなるの? って思うよ。クライマックスシリーズ(以降CS)まで、まだまだ長いぞ。

──今年のCSは10月8日に開幕の予定ですから、優勝決定後、丸々1カ月も間があきます。

中畑 広島についていえば、そこまで緊張感を持続させるのは大変なことだよ。セ・リーグ全体を考えてみても、CSの出場権がかかる2位、3位の争いが残るとはいえ、実質、ペナントレースとしてはひと区切りついてしまったから、あとはタイトル争いくらいしかなくなってしまった。

──間が持たないですね。

中畑 やはり、優勝というのは大きなイベントであって、それを世間に示すためには、もっと、苦しみがあって、熾烈な争いののちに決まる方が野球界全体にとっては絶対的にいいんだけどな。オレも現場にいたときなら、素直に「良かったね!」と言っていただろうけど、いまのような外から見ている無責任な立場になると、「苦しめ苦しめ! 盛り上がって優勝が決まる方が野球の人気を考えたらいいんだ!」って思ってしまう(笑)。

──CSまでの残り数週間。今回のように、優勝が早く決まったときのために、今後は交流戦のような限定イベントの開催を検討する必要があるかもしれません。

中畑 本気で考えなきゃいけないかもな! ただ、今年に限っては、広島の優勝というのが、ひとつの大きなイベントとしていいんじゃない? 25年ぶりの優勝がもたらされるというのは、野球界全体のバランスを考えたときにあっていいことだし、長い間、勝てなくても応援してきたファンのことを考えたら、喜びを分かちあうときが巡ってきたのは良かった。そして、広島に続いてDeNAが3位になって初のCS出場を果たせば、今年はセ・リーグの長年のパワーバランスが崩れてひと回りした年として、新たな一歩となるんだが、果たしてどうなるかな? そうなれば、あっさり優勝が決まって気が抜けた感覚を差し引いても、前向きに考えることができるよな。

──広島の祝福ムードは、いつもの優勝決定のときよりも余韻が長く続きそうですから、落ち着いたころに、今度は「いよいよCS、そして、日本シリーズへ」と、改めて盛り上がるようであれば、ちょうどいいかもしれませんね。

中畑 それにしても、今年の広島は、本当に内容が素晴らしかった。優勝すべくしての優勝だったなぁ。そして、巨人は内容的に大反省しなくちゃいけない! あれじゃあ、敵役じゃなくて“助演男優賞”だよ。ナイスアシストになってしまった。大問題だよ!

──やはりOBとして、黙っていられないですよね。巨人については、次回にしっかり時間をかけてお話を伺います。

中畑 いまや“無責任男”の中畑清が、ガツーンと語るよ!

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ

著者プロフィール キビタ キビオ