構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

DeNAで気になるのは3年目の山﨑康晃

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──キャンプ前の現段階で楽しみにしている選手やチームはありますか?

中畑 やはりDeNAだよ。筒香(嘉智)がどんな準備をしているか。中心的な選手になってきて、どういう自覚を持ってやっているか。その言動が報道されると目につくしね。周りの目線も変わってきているからな。かつては1千万円プレーヤーだったのが、いまや3億円プレーヤーになっているわけだし。

──3月のWBCでは、侍ジャパンの4番に入る可能性が高いですから、いまや“日本の4番”でもあるわけですからね。キャンプがスタートしたら、最初にDeNAを視察する予定ですか?

中畑 うん。沖縄からいくつもりなので、DeNAからいくよ。

──筒香のほかには誰かいますか?

中畑 そりゃあ、各チームのドラフト1位の選手は気になるよ。DeNAでは、やはり3年目の山﨑(康晃)かな。アイツがもうひとつ球種を増やさないと厳しいシーズンになると思っているのでね。

──三振がとれる必殺のツーシームがあって、縦のスライダーなどもあるようですが、さらに増やす必要を感じているんですね。

中畑 たとえばだけれども、緩急をつけるような大きいカーブだったり。もうひとつ、カウントをとれる球種がほしい。佐々木(主浩)がそうだったんだよ。持ち球としては、ストレートとフォークがメインだったけれども、フォークは使い分けていたんだ。カウントをとるときは落差の少ないフォーク、三振をとりにいくときは大きく落ちるフォークというふうにね。そういう投げ分けの精度を上げていかないと、シーズンを通して9回の1イニングを完璧に抑えるためには、もたないんじゃないかと見ている。今年はクローザーとして、一流でいられるかどうかの試金石になるよ。2年目までは、なんとか続けて30セーブ以上挙げられたけどな。

──厳しい世界ですね。たしかに、2年目だった2016年のシーズンは、途中、続けて打ち込まれた時期がありました。

中畑 2年目の方が打たれたときの内容が悪かった。やはり、1年目よりも2年目、2年目よりも3年目とステップアップしていくために、中身がどういう成長をしていくかというのは、選手にとってものすごく大事になるんだ。

DeNAの先発陣は新戦力がカギ

──DeNAでは、ほかにも山口俊がFA宣言をして巨人に移籍しました。投手陣の精神的な柱だった三浦大輔が引退して、さらに山口が抜ける。しかも、同一リーグである巨人の戦力となることで二重のダメージになると思います。

中畑 それはそうなんだけれども、外国人で先発とリリーフの投手をひとりずつ獲得したしな。

──ジョー・ウィーランド投手とスペンサー・パットン投手ですね。ふたりとも20代後半と若いですが、メジャーリーグでの登板経験もあります。ただ、外国人選手は実際にプレーしてみないとわからないので、どこまでやれるかですよね。中畑さんが監督のときは、年間を通して成績を残したのはモスコーソ(2017年は契約しないと球団が発表)くらいで、ほかの外国人投手には苦労していた印象です。

中畑 でも、オレが監督のときには、年俸が1千万円そこそこくらいの選手ばかりだったからさ(苦笑)。今回はもう少しお金を出しているようだし、ある程度は期待できるだろう。逆にそういうチームバランスにならないと、1年間戦うのは厳しくなる。

──ただ、左腕の石田健大、今永昇太は若いですし、昨年以上の飛躍が期待できそうですよね。

中畑 それにドラフト1位で、また左が入っただろう? 神奈川大出身の……。

──濵口遥大ですね。石田、今永とはまたタイプが異なり、骨太でパンパンに張った四肢から力強いボールを威勢よく投げ込む気合系の左腕です。また、ドラフト2位で獲得した東海大北海道の水野滉也も、右サイドから切れのある球を投げる投手で期待が高いです。

中畑 そういった新人は、DeNAに限らず各チームともに楽しみではあるよ。

阪神は内野手・大山のドラ1獲得に意志を感じた

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中畑 新人といえば、阪神に1位指名された白鴎大の大山(悠輔)という選手も気になるな。

──1位での指名には多くの人が驚いたようです。村田修一のようにお尻から腿にかけての下半身がどっしりとしていて、長打力のある選手です。投手中心と言われた昨秋のドラフトにおいては、数少ない野手の有望選手ではありましたが。

中畑 ゴメスがいなくなったし、金本監督は内野の長距離砲を一から育てようと考えているのではないかな。昨年は髙山(俊)を固定して起用し、新人王を獲得するまでにしたけれども、同じような意志を感じたよ。

──その高山も、糸井嘉男がFAで移籍してきたことで、今年はレギュラーで出られるかどうかもわかりません。阪神の外野は大変そうですよね。

中畑 でも、高山は外さないだろう。すでに計算できる選手になっているよ。

──そうすると、外野の3ポジションはすべて埋まってしまいます。

中畑 あとは福留(孝介)か。ただ、江越(大賀)あたりは、レギュラーとなるとまだ及ばないところがあるから、選手層が厚くなって若い選手の競争が激しくなることでチームの雰囲気が変わってくるのではないかな。

──昨秋のドラフトといえば、もっとも注目されていた創価大の田中投手は、5球団が1位で指名し、抽選でソフトバンクが獲得しました。

中畑 (田中)正義な。いいピッチャーがいいところにいったなあ。

──しかも、パ・リーグの球団に行くことが多いですね。

中畑 夏の甲子園で日本一になった作新学院の今井(達也)が西武で、横浜の藤平(尚真)は楽天だし。外れ1位で指名が殺到した桜美林大の佐々木(千隼)だってロッテだもんな! セ・リーグはヤクルトに入った寺島(成輝)くらいじゃないのか?

──競合が予想されていた選手としてはそうかもしれません。

中畑 巨人が1位指名した吉川(尚輝)は、どういう評判だったんだ?

──ホームランバッターではないですが、身体能力が高く三拍子揃った選手です。大学生野手としては数少ない1位候補でした。

中畑 そうか。そういうことなら、それほど間違ってはいないのかもしれないけど、パ・リーグの方が華があるよな。

──先ほども「キャンプでは新人が楽しみ」と話していましたが、本当に新人選手について熱心ですね。

中畑 やはり、最初に見たいのは新戦力だから。移籍組や新外国人選手も含めてのことだけども、ドラフト1位は将来的にチームの顔になっていく可能性があるから気になるよ。

FAで巨人に移籍した山口へのエール

──巨人へ移籍した山口(俊)は、活躍しそうですか?

中畑 “ジャイアンツカラー”になじめるかどうかに尽きるよ。

──勝利が宿命づけられている名門チームだけに厳しい面も多々あるでしょうね。DeNAと巨人の両方の雰囲気をご存知の中畑さんから見て、実際になじめそうですか?

中畑 心配は心配だよ…。アイツは優しすぎるから。それが、どういう方向にいくか。

──厳しい物言いや結果重視の采配に戸惑い、ふさぎ込んでしまうかもしれない?

中畑 うん。でも、もうそういう立場ではないからな。即戦力として、チームのローテーションにしっかり食い込んで、結果を出さなくてはいけない。このオフの巨人の補強のなかでも、一番大きな期待を背負っているだけに、移籍1年目にその役割を果たすことが重要になる。そのプレッシャーを感じながらも、どう跳ね除けていくか。それが今シーズンの課題だよ。楽しみであり、心配だ。

──シーズン序盤で早々に勝ちがつけば、勢いに乗れますよね。

中畑 元々、力はあるから。ただ、そのひとつ目の勝ち星がなかなか……な。うまくはまってくれればいいけど。

──中畑さんがDeNAの監督だった頃は、本人と直接会話をする方でしたか?

中畑 うん。よく話をしたよ。風呂に入ったときとか。

──冗談話も交えて?

中畑 オレは冗談ばかりに決っているだろう(笑)! まあ、使い分けだな。ときには、「今年は2桁勝たないといかんぞ」と、真面目に話したりさ。あとは、「あの場面であきらめるから粘れないんだ」とかな。一時期、自分のピッチングに対して悪いイメージを持ってしまったことがあったときには、そんな話もしたよ。スタミナがあって完投能力はチーム一なのに、ゲームの後半に必ずポカがあったから。

──本人は神妙に聞いていましたか?

中畑 それはそうよ。

──冗談を冗談で返すような余裕は……?

中畑 それはなかった。でも、オレのことは結構好きだったんじゃない(笑)? 声をかければ、喜んでくれたいたみたいだったから。

──中畑さんからすると、かわいい選手のひとりですね。

中畑 うん、そうだな。だからこそ、チームが変わっても親父のような気持ちで応援するつもりだよ。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ