構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

現役時代にオリジナル曲を制作したほど歌うのが好き!

──プロ野球選手にとって、趣味というのは案外大切ではないかと思います。

中畑 ああ、趣味ね。趣味がなぜ大切かというと、元気の源でもあるからだよ。気持ちが落ち込んでしまいそうなときに気分転換ができて、新しいエネルギーを与えてくれるよな。人間、落ち込んでいると体も弱ってくるものだから。逆に言うと、そういうものでなければいけないと思うんだよね。自分の人生において、実益を兼ねていないと。

──中畑さんの場合、それが“歌うこと”ですか?

中畑 そう。オレの場合、自分に力を与えて、周りにも幸せを与えられる能力を持っている人間だから。その歌唱力っていうかな? 天性の歌唱力を十分に生かしてね、みんなを幸せにし、そして自分自身が幸せになる。自分が幸せでなかったら、人を幸せにすることなどできないんだから。

──そうですね。

中畑 おい、突っ込んでくれよ!(笑)。いや、真面目な話としても、オレにとっては、趣味がそのまま自分の人生の糧となっているのは間違いないよ。

──現役時代には中畑さんオリジナルの、当時でいうシングルレコードも出しています。

中畑 それも2枚な、2枚!

──調べました。1984年に『十和田丸』、1988年に『港』。でも、あまり売上の方はかんばしくなかったとか……。

中畑 まあな。特に2曲目の『港』は、作詞・荒木とよひさ先生、作曲・浜圭介先生というゴールデンコンビだったんだ。演歌の大御所で、「このふたりが組んだら絶対売れる」と言われていた強力コンビで作ってくれたんだけども、売れなかったなあ……。

──いやいや、本業は野球ですから!

中畑 ただね、実はいま『港』は、みち乃く兄弟という歌い手がカバーしてくれているんだよ。20数年ぶりに世にまた流してくれている。それは、嬉しいよね。だから、この曲はカラオケで歌えるよ。

──いいですね。ご自身の持ち歌として、気持ちよく歌えますね。

嫌なことがあっても歌に熱中すれば忘れさせてくれる

──中畑さんの場合は、歌うことで当然ご自身もリフレッシュできますけれども、周りの人にも楽しんでもらえるという相乗効果もあります。

中畑 そこはほら、オレは人を楽しませる、なごませるっていう点では、まあ天才的なものを持っているからさ(笑)。歌いはじめた瞬間にみんな、「うおー!」となって、感動してしまうわけ。自分も歌って、そういうふうにして周りを元気づける。素晴らしいことじゃない?

──お店などに行って営業的に歌ったりもするのですか?

中畑 さすがに、そんなことはしていないよ! していないけれど、トークショーの最後には必ず歌う。

──トークショーで歌うんですか!?

中畑 なにを驚いているんだ? それはもう、当たり前になっていますよ。アカペラで歌い切れるのは、和田アキ子さんかオレくらいしかいないんじゃないか、というほどだぞ。

──しかも、アカペラなんですね。それは、すごい!

中畑 だから、才能だって! もう、生まれ持ったものだからさ、この歌唱力はどうしようもないんだよ(笑)。

──恐れ入りました。そこまでいくと、趣味というか、もはや中畑さんの一部ですね。

中畑 でも本質としては、生きていればどうしても嫌な思いをすることもあるなかで、それを一瞬忘れさせて歌に熱中できるというね。それが一番だと思う。なにかに熱中することによって、そういう嫌な思いとか悪いものが自分の体から飛び出してくれる。「明日から頑張ろう!」という気持ちにさせてくれることで、いままでのオレの人生は支えられてきたと思っているよ。

ゴルフも好きだが、いまは“絶不調”……

──続いては、もうひとつの趣味として、中畑さんのコメントに出ることがあるのがゴルフですが。

中畑 ゴルフはストレスが溜まる! 明日、行くんだけどさあ。もう、いまから行きたくないよ……。

──ええ!? そうなんですか?

中畑 だって、しょうがないじゃない! 特にゴルフは、いま状態が最悪なんだ……。

──ああ、そうなのですね。ちなみに、最近のスコアは?

中畑 “100叩き”なんてもんじゃない。110とか叩いちゃうんだから。それは楽しいと言えないだろう?

──ちなみに、ベストスコアはいくつですか?

中畑 73だよ。そのときは、ほぼパープレーでまわったんだよなあ。もはや、その頃の面影はどこにもない。

──なるほど。そこからの110でしたら、確かにストレスが溜まるかと。

中畑 ゴルフの楽しみというのは、困難を克服していいスコアを出したときの爽快感につきると思うよ。だから、苦しみに向かって、明日も頑張るつもりだけどな。

──いま不調の原因は、どこにあるんですか?

中畑 もう、全部だよ。ただ、ドライバーはまだいい方だ。この年齢になっても、以前より飛ぶようになってきたから。

──それはすごいです。

中畑 それはちょっと自慢できるかもしれない。その代わり、あとはもう全然ダメ。アイアンもアプローチもパターも全部悪い。

──アイアンやグリーン周りが厳しいと、プレーしていてもつらいですよね。

中畑 つらい。ゴルフ場、見たくない!

──でも、行くわけじゃないですか。

中畑 しかも、元気よくな(笑)。スタート前までは元気いいわけ。回り出したらトップは出るわシャンクは出るわで、もう、ゴルフのプレーになってない。

──実は私、15年以上前に中畑さんが横浜カントリークラブで行われたプロアマのチャリティーゴルフに参加したときに、現地のギャラリーのひとりとして中畑さんがゴルフする姿を見ました。

中畑 おお、ガン撲滅基金のチャリティーコンペな。覚えているよ。あのときは、飯合(肇)とかと回ったんだよな。

──飯合さん、駒澤大学野球部時代の同期ですよね。ただ中畑さん、ギャラリーが観戦できるホールでのティーショットで、電線のケーブルに当ててしまった記憶があります。

中畑 はい、はい。

──めったに見られない“珍プレー”に、会場は大ウケでしたが、別のホールで見たドライバーショットは、すごくパワフルだった印象があります。「プロ野球選手はやはりすごいなあ」と、改めて思いました。

中畑 いや、だって、オレを誰だと思ってんだよ? 中畑さんだぞ(笑)!?

──いやあ、でも、その頃すでに引退してから随分たっていましたから。

中畑 昔から飛距離は出ていたよ。いまでも、当たれば300ヤードはいきますよ。

──次の誕生日で63歳ですよね? 同じ年齢でそんなに飛ばせる人は、そういないと思います。

中畑 まあ、飛距離だけはな。でも、野球選手はみんな飛ばすよ。それにしても、今回はまったく違う世界のテーマだな。

──シーズンオフならではの企画です。たまには、こういう話も楽しいかと。明日もいいスコア出るように頑張ってください。

中畑 出るわけないだろう! 「絶好調!」とは名ばかりで、オレは自分のことになると、実はマイナス思考なんだよ。でも、それじゃいかんな。明日は元気に前向きにラウンドしてくるよ(笑)。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ

著者プロフィール キビタ キビオ