構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三
巨人の開幕ダッシュは“四番”阿部慎之助の功績大

──セ・リーグは、巨人が開幕から5連勝。好スタートを切りました。
中畑 これは一にも二にも4番・阿部慎之助のバッティングですよ。「今年の打線は点がとれるのか?」という不安があったなかで、チームに勢いをつけた。4番打者としての派手さもあったし。というか、派手すぎるよ! 素晴らしかった。
──開幕戦では今シーズン最初の打席で体を泳がせながらもライトスタンドへ先制2ラン。2戦目は逆方向へ逆転のサヨナラ3ランですからね。
中畑 そのあとのDeNA戦でも、インハイの難しいコースをさばいて打球が切れることなく横浜スタジアムのライトスタンドへぶち込んだ。単純に4番というだけではなくて、一番打ってほしいときにホームランを打つところがいいね。逆に、DeNAが出だしの5試合で1勝4敗と出遅れたのは、筒香(嘉智)のバットが湿っていたからだった。その差がダイレクトに表れたわけだ。
──DeNAについては後ほど詳しくうかがいますが、確かに筒香はWBC疲れもあってか、やや精細を欠いている印象です。
中畑 筒香に本来の勝負強いバッティングが戻ってくれば、DeNAは勝ち出すと思うよ。ああ、中日もビシエドがそうだよな。改めて言うまでもないが、やはり4番の仕事というのはチームのカギを握るということだよ。
最悪のスタートとなった中日も内容は悪くない

──いま話題に出た中日ですが、中畑さんの駒澤大学時代の後輩である森繁和監督によるチームの立て直しが期待されながら、開幕から引き分けをひとつ挟んで5連敗という最悪のスタートになりました。
中畑 でも、試合内容は悪くないよ。すべて接戦のなかで星を落としただけだから。クローザーの田島(慎二)の状態があまり良くないけれども、投手陣の編成というのはモリシゲ(森監督)にとって得意中の得意のはずだから。出先のつまずきをどう修正していくか。元来、あいつは一度抜擢すると、結構そのポジションで信頼して使い続けるほうなんだ。だから、今頃、どうしようか頭をかいているかもしれないけど、まだはじまったばかりだから巻き返せるよ。そもそも、去年は最下位だったんだから! オレがDeNAでやったときと同じ。そのほうが、気持ちはラクだよ。
──失うものはなにもない?
中畑 そうよ! 思い切ってやっていけばいい。
──戦い方としては、いままでの中日と変わらないと見ていいですか? 投手力を前面に出した守りを中心とする野球ですよね。
中畑 そうだな。ただ、新人の京田(陽太)や、昨年、チャンスをものにできなかった遠藤(一星)のような若い野手をどう育てていくかが楽しみだよ。特に京田は、将来三番を打つ選手になるんじゃないかな。中日を背負う選手になれると思うよ。
澤村はゆっくり治療している場合じゃないぞ!
──一方で、DeNAは開幕から負けが先行する出だしになりましたね?
中畑 うん。さっき話した筒香がつまずいたこと以外に、中継ぎ投手もいまひとつだな。ゲームを作っていかなくてはならない場面で踏ん張りがきいていない。開幕前にイメージしていた期待には沿っていないという感じだな。ただ、後ろを締めるパットンと山﨑(康晃)の調子はいいからね。彼らにつなぐ形を作って勝ちパターンが見えてくれば、安定した野球になっていくよ。
──その点、巨人はマシソン、カミネロにうまくつなげていますね。
中畑 カミネロは開幕前から「どうなんだろう?」と思いながら見ていたけど、投げるたびに良くなっている。澤村(拓一)がいなくて、かえって良かったんじゃないか(笑)。
──それは、そのまま書いてもいいんですか?
中畑 いいよ! だって、いまのリリーフのほうがはるかに安定しているのは事実なんだから。澤村には「ゆっくり治療している場合じゃない。居場所がなくなるぞ!」と、直接アドバイスしたいくらいだよ。
──高橋由伸監督についてはどうでしょう? 昨年、中畑さんが「もっと笑顔を出してほしい」と再三求めていましたが、今シーズンもクールな雰囲気のように見えます。
中畑 いやいや、昨年にくらべたらだいぶ明るくなったよ。亀井(善行)がヒーローインタビューで「(「監督が手を叩いて喜んでいました」というアナウンサーの振りに対して)それが一番嬉しいです」と言っていたじゃないか。ああいうのが話題になるんだから。
──開幕3戦目のときですね。たしかに、ベンチでコーチと明るく話している姿は見られるようになりました。ただ、勝利後に選手とハイタッチをするときは、口を真一文字に結んでいることが多い気がします。
中畑 そのへんは徐々に、徐々にだな(笑)。これからも、本人に言っていくよ。
スキをつくプレーは一日して成らず
──そういえば、その開幕3戦目の亀井ですが、中畑さんはスポーツニッポン紙上の記事で高評価していました。走者一三塁で投手・大竹(寛)がバント。一塁走者だけ進めて二三塁にすればいい、というケースでしたが、三塁走者の亀井が一塁への送球のスキをついてホームインしました。「今年の巨人は走塁に対する意識も高い」と。
中畑 うん。ああいうプレーは常に集中して準備していないとできないから。野球という勝負にのめり込めている。その結果の表れだよ。その日暮らしで結果オーライの野球では、ああいう形で1点を“もぎ取る”ことはできない。
──むかしから疑問に思っていたのですが、プロ野球の選手というのは、ああいう絶妙のタイミングでスタートをきる走塁プレーをいつ練習しているのかなと。試合前の練習はバッティングとシートノックくらいしかしていませんよね。
中畑 キャンプのときよ。どこのチームでも、みなやっていますよ。
──場面設定をしてのノックや、ゲーム形式でのシートバッティングなどですかね?
中畑 そうそう。走塁コーチが脇にいてさ。「いまはもっと出られるよ!」とか、みんなが見ているなかでやって、タイミングを覚えさせる。ただ、そういうプレーを披露するチャンスというのは、なかなかないからな。一発で決められるかどうかが大事だよ。
──強いチームというのは、総じてできますよね。
中畑 ああいうプレーが好きな選手もいるからな。DeNAなら梶谷(隆幸)がそうだよ。アイツは抜けているところもあるけど、スキをつくプレーが好きでよく狙っている。亀井もそういうタイプだから、決められたわけよ。
──ただ、DeNAについては、中畑さんが監督に就任された当初は、細かい走塁プレーはむしろ不得手でした。したくてもできなかったように思います。それが、4年目の2015年のシーズンは、積極的に仕掛けられる程にレベルアップしていました。
中畑 だって、最初は下手だったんだもん。だから、自分たちの攻撃では仕掛けられなかったし、相手にはよくやられたよ。そもそも、どうしてそういうプレーになるのかという理屈もわかっていなかったから、やられて当然。お手上げというレベルだった。それだけに、別にオレのなかでは悔しさはなかったよ。まずは、選手たちが「あれをどう防げばいいのか?」と、自分たちで考えはじめるのを待った。そうなれば、しめたものよ。防ぐことができるようになれば、自然と攻めるときのプレーもできるようになるから。
──では、選手たちが考えはじめるようになってからは、徹底して指導したんですね?
中畑 あくまで“徐々に”だよ。そりゃ、選手やチームの質に応じて段階というものがあるからさ。一度に全部頭のなかに詰め込もうとしたって無理だよ。本当に少しずつステップアップさせていったんだ。だから、いまのDeNAなら、巨人に負けないくらいきめ細かなスキをつくプレーができるレベルになっているんじゃないかな。……いや、巨人に比べたら、まだもうちょっと達していないかな? でも、もうちょいまではきているよ。
──徐々にというのは、具体的にどういう練習をしているのでしょうか。
中畑 一番は、現場でプレーが起きたことに対しての反省だよ。いままで起きたことのない、経験のなかったプレーに対して、ミーティングで振り返りながら修正していく。だから、実戦が練習だな。「なんでウチはできないのか? お前らがまだそのレベルに達していないからだ。あそこまでできないと戦えるチームにならないぞ」と認識させて、プレーそのものにも興味をもたせていく。
──では、その都度、言い続けるわけですね。
中畑 そういう時期がなかったら、変わっていかないよ。
──最高峰のプロでも、チームによってそのあたりの差があるんですね……。
中畑 むしろ、試合が終わったあとにチェックするのはそういうことだけよ。しっかり投げたり、打ったり、守ったりするのは、プロなんだから当たり前だろう? そのレベルは……まあ、プロでも選手によって差は出るけれども、勝ち負けの結果に到達するのになにが差になるのか? というのは、守備や走塁の細かいプレーを一発で決められるかどうかの“プラスα”によることが多々ある。それを選手に理解させないと成長していかない。だから、常にゲームを見ているなかで起きたことについて、コーチに「おい、いまのプレー。あっさりやられてしまったけど、みんな意味がわかっているだろうな? あとでチェックしておいてくれな」と言ったりさ。「逆にあれをウチでも簡単にやれるようでないとダメだぞ!」「わかりました!」という会話をして、どこかの時間でやらせようにする。現実にプレーが起こって失敗して、悔しがって……。そういう時間帯を経ないと覚えない。キャンプでやるにしても、単に口で言ってやったところで、「絵に描いた餅」で終わっちゃうからな。実戦で鍛えるのが一番だよ。
──なるほど。そうした積み重ねがスキをつくプレーにつながるのですね。深いです!
中畑 だろう!? だから、野球は面白いんだよ。速い球を投げて空振りを奪ったり、ホームランが何本も出るのも、もちろん楽しい。でも、そういう奥深いところを知れば、もっと楽しめる。ファンの人たちも、それこそ“徐々に”でいいから、そういうところを意識して観戦してくれたら嬉しいな。
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。