構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三
今年も広島は状態がいいぞ!

──ペナントレース序盤戦の戦いぶりを振り返るシリーズの初回は、5月下旬の段階でセ・リーグの上位を走る阪神、広島、巨人についてです。
中畑 開幕から一番順調なスタートが切れた広島からはじめようか。序盤戦は完全に主役だったからな。広島は開幕戦こそ落としたけど、2戦目から連勝街道に乗って10連勝。その後、何度かまとまった連敗をして崩れかかったけど、大崩れする前に踏みとどまって盛り返している。そういうところを見ていると、「地力がついてきたな」という気がするよ。去年の優勝はダテではないということだろう。若い選手には自信になっているし、チームとして勝つための裏付けみたいなものができたように思う。バタバタしていないよな。
──確かに自信にみなぎっていると感じます。
中畑 特に緒方監督がそうなったよ。昨年、ペナントを奪取したことで優勝監督の重さをいい形で受け止めたのだろう。どっしりした雰囲気が出てきている。
──凄いことですよね。監督2年目にして優勝して、もう、“どっしり感”とは。あと、広島は若いピッチャーが開幕直後から頑張っています。
中畑 うん、一気に出てきたな。ドラフト1位の加藤拓也がプロ初登板の先発であわやノーヒットノーランのピッチングをしたりしてな。加藤はその後、つまづいてファーム落ちしたけど、大瀬良(大地)や岡田(明丈)、九里(亜蓮)あたりを見ていると、1年を通して若い連中が助け合ったり、相乗効果を生んだりして、誰かが調子を崩せば誰かが上がってくるような形で、バランスの良いチーム状態を維持するのではないかと思うよ。だって、開幕戦以降、ジョンソンがいないんだよ!? 5月下旬には野村(祐輔)も一時戦線を離脱。真のエースがいなくてこの状態が続いているというのは大したものだよ。この先、ジョンソンと野村が戻ってきたら、さらにボーンと調子が上がっていく可能性がある。
──昨年はジョンソン、野村、それに引退した黒田(博樹)に続く先発投手は、どちらかというと「他にいないから」という感じで抜擢されていたように思いますが、今年は先ほど名前が挙がった選手以外にも中村祐太などが後から上がってきて勝ったりしています。質的にもだいぶ向上した気配です。
中畑 だから、もう乗っかってきているんだよ、チームの強さにさ。チームの強さが選手を育てているんだ。そういういい環境がいまの広島にはあるよ。風が吹いている。
──プラスαの力が働いていますね。
中畑 そう、そう、そう。勝負事というのは勢いだから。勝運に向かっていく勢いをどうつくっていくかということが、すごく大事になる。それが自然と生まれてくる環境にあるのが、いまの広島だな。選手は野球に熱中できるよ。
──そして、相変わらず広島ファンは熱いです。
中畑 ファンの後押しというのは大きいよ。しかも、広島の応援は本拠地だけじゃない。ビジターでも赤一色に染まる勢いがあるからな。あれだけ目立って応援されたら、選手は燃えるぞ。それに、広島は若い女性ファンが多い。あの「カープ女子」は、いいよなあ。12球団のなかでも“はしり”として最初にネーミングされたわけだけど、プレーしている側にしてみれば大きな力になる。もし、オレがまだ選手であの環境にいたら、ノリにノって“絶好調”どころか、“絶好調の調、調、チョー!”くらいまでいっちゃうよ(笑)。

──広島の話題が先に出ましたが、セ・リーグは5月に入って阪神が首位に立ちました。
中畑 阪神については上位争いをする予想していたから、これは驚かないぞ(笑)。勝てる要素が十分あるチームだよ。
──中畑さんが高く評価する選手は誰ですか?
中畑 エースのメッセンジャーの働きぶりが素晴らしい。毎回ゲームをつくって、安定した結果を残し続けている。完投能力も高い。これこそ、真のエースだよ。中5日でも平気で先発して勝ち続けてくれるし。チームが安心して戦える存在だよ。
──野手ではどうでしょうか?
中畑 糸井(嘉男)だろうな。よく頑張っている。金本(知憲)監督もいい補強ができたと実感していると思うよ。やはり、このクラスの選手の獲得をして、初めて“補強”という言葉が使えるよな。実績があって、しかも、獲得後に結果がともなってさ。
──もはや、チームの柱になっています。
中畑 移籍してきた選手というのは、最初が肝心なのよ。怪我さえなければある程度の仕事はできるはずだけど、1年目にスタートから活躍しないと「遅れをとった」という焦りで、すべての歯車が狂うときがあるんだ。その意味で、糸井はいい滑り出しができたと思う。
──開幕戦の2打席目でタイムリー二塁打を打って、チームも勝ちましたからね。それと、ベテランの鳥谷(敬)もサードで出場を続けています。中畑さんは、開幕前から「このままでは終わられないはず」と奮起に期待していました。
中畑 デッドボールで鼻を骨折しながら、フェイスガードをつけて試合に出場したのは驚いたけどな。チームとしては、鳥谷の気持ちを腐らせることなく起用し続けて成績もいいということで、うまく機能していると思う。ただし、本来はショートの北條(史也)がもっといい成績を残してほしかった。そこは、なかなかうまくいかないところかもしれない。
巨人は菅野がワンランク覚醒した
──大型補強をしてシーズンに臨んだ巨人はいかがでしょうか?
中畑 序盤は(阿部)慎之助を中心とする打撃力で爆発的なスタートがきれたけれども、その後、連敗。その繰り返しという感じで勝率5割ちょっとのところにいるという感じだよな。ただ、負けが続きそうなときに、今年はエースの菅野(智之)が先発してすべて勝っている。これにより、踏みとどまれたのが大きかった。
──3試合連続完封というのもありました。
中畑 まさに、「出れば勝つ」というね。投球内容も少し変わったよ。いい意味で手抜きを覚えたというのかな。「すべてのバッターから三振を奪ってやる!」というような全力投球ではなくて、相手の力量と状況によって打たせてアウトをとるという投球術を覚えたよ。WBCで見せたような力勝負とは全然ちがう。
──今シーズンはコントロールへの意識も高いように思います。キャッチャーが構えたところにズバズバと行く印象です。
中畑 ただ、昨年までは、それを意識しすぎてボール球が多くなることがあったのよ。それが、今年は「多少、真ん中寄りに入っても、このバッターなら打たせてとれる」という計算をしているように見えるわけ。それにより、相手バッターが早いカウントから打ってくるから、野手に対してもすごくいいリズムを生み出している。そのリズムの良さが攻撃にもつながっていて、得点に結びついている気がするよ。
──ポイントは“力み”があまり感じられないリラックスした投球ということですね。
中畑 配球パターンも、状況に応じて3段階くらいに分けているような気がするな。小林(誠司)とのコミュニケーションもうまくいっていて、投球の幅をつくっているのだろう。「NEW菅野パターン」みたいなものだな。ただね。ひとつだけ心配なのは、常に一発を食らいそうなんだよ。そこは、紙一重の違いでね。カウントとりにいくときに甘く入ることもあるから、一発を打たれやすい投球でもあるんだ。そこを相手にうまく狙い打たれたときは、やられる可能性はある。
──連続完封については、5月9日の阪神戦で敗れたため、3で止まりましたが、もし、4連続までいっていたら、巨人V9初期の大エースだった城之内邦雄さんの記録に52年ぶりに並ぶところでした(日本記録は同じ巨人の藤本英雄が達成した6試合連続)。
中畑 「エースのジョー」の城之内さん? おお! 試合や練習が終わると、ユニホームを着替えもせずに一番最初に麻雀卓に座って「オレの場所だ」と確保していたという話を巨人軍の伝説として聞いたよ(笑)。当時は、麻雀が好きな人がたくさんいて、場所取りが競争だったらしいから。それにしても、他の人はさすがに風呂に入ってからくるのにさ。「ここは絶対に譲らないぞ」というくらい、麻雀が好きだった人だったそうだよ。
──城之内さんと一緒にプレーする機会は?
中畑 ない。オレが一緒に共演したのは、城之内さんの親戚関係でもある城之内早苗さんのほうだ。演歌歌手としてな。……冗談、冗談。わっははは
高橋由伸監督は明るくなった
中畑 話は戻るけど、巨人の勝率や順位は、現状ではこのくらいだろうと思うよ。いまは阪神と広島が良すぎるから。普通にいまのポジションでいいと思う。
──FAで補強しながら出遅れた山口俊や陽岱鋼が合流すると、状況が変わりそうです。
中畑 そう、そう。オレは多くのメディアに言っているけど、6月以降におそらく山口や陽が一軍に上がってくれば、巨人は大きく変わると見ているよ。彼らは場を明るくしてくれる存在。それゆえに、どういうパターンで復帰してくるかだな。
──山口は5月27日のイースタン・リーグで先発して5イニングを投げました。そろそろ、見ることができそうですね。
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。