構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三
同い年の梨田監督がダジャレ全開なのが悔しい!?

──パ・リーグの調子のいいチームから寸評をいただけますか?
中畑 調子がいいチームとなれば、なんといっても楽天だろう。この快進撃はちょっと考えられなかったんじゃないかな。
──中畑さんにも予想できませんでしたか?
中畑 予想はまったくしていなかった。ここまでいいというところまではね。「今年は面白いよ」とは言っていたけど、まさか首位に立ってしまうとは。そこまで自信を持って予想できるほどの情報は得られていなかったからな。それにしても、オレのなかでは、梨田のダジャレが全開なのがうれしくもあるけれども、ちょっとうらやましいし、悔しい。アイツ、きっと有頂天になっているよ(笑)。
──梨田監督は同い年なんですよね。それにしても、乗りに乗っているという感じです。
中畑 オレがDeNAの監督だったときは、最高で11まで貯金をしたことがあったんだ。でも、梨田はいまの時点でとっくにそれ以上だから(5月27日現在、貯金17)。新しい若手選手がたくさん出てきてくれて、毎試合いい流れがつくれて。気分的に最高潮なのが、現在の楽天だよ。実際、いい試合をすることができている。接戦にも勝てるし、点の取り合いでも勝てる。ゲームの流れのなかに、常に勝ちパターンをつくれているからな。投手陣もエースの則本(昂大)や、西武から移籍してきた岸(孝之)が柱になっていて、そこに若い投手を抜擢したリリーフ陣がうまく機能しているよ。それにしても、則本は「WBC疲れ」はなかったようだな。
──当初、WBCで主力として投げる予定でしたが、予選の1次ラウンド、2次ラウンドでリリーフに失敗してからは、起用されなくなってしまいましたからね。
中畑 そうだったな。途中からあまり使われなくなってしまったから、かえっていい状態でシーズンに入ることができたのだろう。
──クローザーの松井裕樹も順調に最後を締めて機能しています。
中畑 あと、“大ヒット”となった2番のペゲーロをはじめとする外国人選手の活躍がやはり目立つな。
監督2年目は必ず優勝している梨田監督
──楽天は打線が話題になりがちですが、守備についてはどうでしょう? 梨田監督は、経験豊富なベテラン監督ということもあってか、ドカッと構えているように見えます。細かいことはあまり気にしないようなイメージにも感じられますが。
中畑 いやいや、キャッチャー出身だから、そんなことはないよ。特に、バッテリーの整備については長けている。今回の「2番・ペゲーロ」については、いままでにない色を出しながらチームを改革しよう、という狙いがあったと思うけどね。リリーフは若い投手が多いのに継投が機能しているところには、梨田の手腕が影響していると思うよ。守備面もちゃんとしていることで、いいチームバランスを保てているから、新しく打ち出した“梨田色”もうまく機能して波に乗れたのだろう。
──すっかり知られた事実になりましたが、梨田監督は近鉄監督時代、日本ハム監督時代とも、就任2年目でチームが優勝しているんですよね。
中畑 そうなんだよなー。だからアイツ「今回もそうなる」と、開幕前から宣言していたんだよ。やたら、そのことを強調していた。まあ、それは、自分から言うことで自分自身をも乗らせようとしているところがあっただろう。選手がそれを聞いて、同じように「今年は優勝できる」という意識が生まれてくるという利点があるからな。いい意味の暗示効果だよ。「オレが監督2年目のときは絶対に優勝できる。だから、頑張れ!」って、すごくいいキャッチフレーズだよな。
──確かに、そう言われればその気になりますよね。
中畑 それも今年の楽天のひとつの武器になっていると思うよ。
低迷するロッテはいまからでも補強を

──続いては、当初から優勝候補に挙げられながら開幕はやや出遅れ、5月になってようやくエンジンがかかってきた感じのソフトバンクについてお願いします。
中畑 4月は「なぜ、これほどまでに投手力が弱くなってしまったのか?」と、目を疑ってしまったよ。本来ならダントツの戦力があったはずだから。打線についてもデスパイネを獲得したわけだし、力量を考えれば、4月は明らかに“低迷”していたと言うべきだろうな。5月の時点で楽天との位置が逆になっていてしかるべきだよ。
──とはいえ、その楽天の背中が見えるくらいの位置まで追い上げてきていますね。
中畑 なにを言っているの! それは、当然のことなんだよ! オレはそこを強調したい。むしろ、上がってくるのが遅いくらいなんだから。
──一方で、序盤は散々だったのが……?
中畑 ロッテだな! 昨年までは、補強がない、戦力がないなかでやりくりが上手いという評価だったけど、さすがに今年はやりくりのしようがないところまできてしまった。だって、一時期は4番が鈴木大地だぜ。もちろん、いい選手だけど、4番を打つようなタイプではないだろう。そんな彼に4番を打たせなくてはいけないチーム状況、戦力のなさということだよな。限度にもほどがある。
──昨年、首位打者の角中勝也が4月に一度戦線離脱してしまいましたしね。伊東勤監督も、「もはや打つ手なし」という感じでした。
中畑 「本気で補強を考えて欲しい」と訴えていたくらいだったからな。あれは本音だよ。いままでは言えなかったというか、言わなくても選手をうまく切り盛りして結果を出してきたから。しかし、今年の連敗続きは、どう考えても戦力不足が招いたものだから。そういう現状を露呈しているだけに、思わず本音が出てしまったのだろう。
──先ほど、鈴木の話が出ましたが、今年のロッテは打線の核になる打者がいません。
中畑 デスパイネの移籍は大打撃だった。一発屋がひとりもいないというのは、流石にキツイ。いくらつなぎの打線が身上だとしても、爆発力が生まれてこないよ。
──投手陣は質が高いんですけどね。
中畑 野球は“点取りゲーム”だからさ。点が取れない状況では、勝ちゲームをつくる
のは難しいよ。
──点が取れないという先入観があると、投手陣も「1点もやれない」という気持ちでマウンドに上がるので、慎重になりすぎたり、固くなって腕が振れなかったりという悪循環につながっていきますよね。
中畑 そう、そう。オレもDeNAの監督1年目がいまのロッテに近かったからさ(2012年のDeNAはチーム打率セ・リーグ最下位)。伊東監督の気持ちがすごくよくわかるよ。まずは、あまり先々のことは考えすぎずに、ひとつひとつの試合に集中していき、そのなかで“勝ちパターン”を見つけるしかないだろう。それと、いまからでも遅くはないから、戦力の補強だな。もう少し戦力が整えばやりようが出てくると思うよ。
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。