構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

菅野(巨人)が普通の投手に見えた楽天打線の破壊力に驚愕

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──今年も交流戦が3週間に渡って開催されました。結果をふり返ってみて、各チームの戦いぶりをどう評価しますか?

中畑 まず、滑り出しとしては、各球団の現状がそのまま結果に現れたな。セ・リーグは首位争いをしていた広島と阪神、パ・リーグは楽天が好スタートを切った。

──いままでの交流戦では、どちらかというと直前の状況はあてにならないという印象が強かったですが、波乱がないという意味では穏やかなスタートだったと?

中畑 うん。大荒れという雰囲気ではなかっただけにね。ただ、そのなかで、より印象が悪くなったのは巨人だよ。

──交流戦前までに4連敗。そして、交流戦開始から9連敗の合計13連敗でした。

中畑 点のとられかたが悪すぎるということは基本的なこととしてあるんだけれども、それ以上に衝撃的だったのは、出だしの楽天戦での菅野(智之)のノックアウトだよ。あの試合、オレもKoboパーク宮城で見ていたんだが、あれほどマウンドで苦労している菅野は記憶にない。あの菅野がそこらへんにいる“普通のピッチャー”に見えたからな。そのくらい、楽天の打線の凄さを感じた。

──楽天の打線はどういったところが凄いのですか?

中畑 誰が見てもわかるように、強さと積極性がまずあること。そして、さらに粘りがあるのがいい。ピッチャーが追い込んでいても、粘られた末に根負けしてしまうんだ。すべての持ち球を決め球にできるあの菅野ですら、打ち取れる球種がひとつも見えてこなかった。そのことに不安を感じてマウンドでオドオドしていた。ここ数年はなかった姿だよ。今年の楽天打線の破壊力を物語っていた。

──開幕当初から楽天打線の核となっていると評判の「2番・ペゲーロ」は、相変わらず好調ととらえていますか?

中畑 そうだな。ペゲーロの存在はいまだに大きいと思う。ただ、ずっとトップで引っ張ってきた茂木(栄五郎)が故障離脱したから、その影響はこれから出てくるかもしれないぞ。なにせ、相手の勢いを“もぎ”取っていたからな。

──まさに(笑)。

中畑 ただ、いまとなっては、この二人だけということではなくて全体が凄いよ! ウィーラーに岡島(豪郎)、銀次、藤田(一也)と下位打線までつながりがある。左打者が多いけど、左投手をまったく苦にしないし。茂木の一時離脱はかなり痛いはずだけれども、打線の勢いはまだキープできているというあたりに、全体の良さが感じられるな。

セ・リーグは五分五分なら最高……というくらい実力差がある

──毎年、話題となるセ・リーグとパ・リーグのリーグによる対戦成績は、パ・リーグが56勝51敗1分けで勝ち越しました。これで、交流戦がスタートした2005年以来、今年までの13年間でパ・リーグが12度の勝ち越しと圧倒的です。セ・リーグが勝ち越したのは2009年の1度だけ。それ以来、8年連続でのパ・リーグの勝ち越しが更新されました。

中畑 オレは今年の状態からすると、交流戦前にセ・リーグ上位だった広島、阪神がそのままの勢いでうまく勝ち続けることができれば、リーグ同士の星勘定を五分にできる可能性が十分あると思っていたんだが……。今年もダメだったな。

──いまの話からすると、中畑さんは、広島、阪神がうまく勝ったとしても、セ・リーグとパ・リーグの勝敗はようやく五分五分と見ていたわけですか?

中畑 そう。正直に言うと、むしろ五分に渡り合えたなら最高……というくらいだよ。それには、勢いのある楽天や、実力のあるソフトバンクを広島と阪神が直接対決で止めなくてはならない。そうでないと、五分も難しいと思っていた。

──そこはまさにポイントになりましたね。楽天、ソフトバンクとも、阪神、広島に対してともに2勝1敗と勝ち越しました。合計で8勝4敗。もし、この数字が逆転していたら、セ・リーグが総合で勝ち越していた計算になります。

中畑 とはいえ、広島も阪神も単独チームとしての総合成績は良かったんだけどな。

──広島はソフトバンクと交流戦の首位争いを最後まで演じての2位。12勝6敗ですからね。確かに十分な奮闘ぶりでした。阪神にしても10勝8敗で勝ち越しての4位です。

中畑 オレが監督だったときにも、一度だけ勝ち越したことがあったんだよ。

──あ、はい! 中畑さんがDeNAの監督を務めていたときの交流戦では、2014年に13勝11敗で勝ち越しして5位に食い込んだことがあります。

中畑 あとは惨敗だったけどな(笑)。

──ちなみに、その2014年はパ・リーグが勝ち越ししましたが、71勝70敗3分けと五分五分まであと一歩だったんですよね。また、2012年もパ・リーグが67勝66敗11分けと、同じく1勝差だったことがありました。今年の4勝差というのもセ・リーグが頑張った側に入ると思います。

中畑 そこで、今年、一番の問題だった球団として巨人に戻るわけよ。ヤクルトはある程度状況を考えたら予想できたことかもしれないけど、巨人の6勝12敗は戦力を考えたらやはり不甲斐なかった。

低迷する巨人で巻き返せる人材がいるとしたら、あの男?

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──その巨人ですが、このままだとペナントレースそのものの成績もBクラスという可能性が出てきます。いまの状況を中畑さんはどうとらえていますか?

中畑 菅野が打たれて落とした楽天戦のカード3試合目に、ルーキーの池田(駿)が先発しただろう? あのときは、「(高橋)由伸は3連敗でも仕方ないと考えているのか?」と疑ったよ。池田は将来性のある左腕だけれども、すでに楽天に2連敗していた状態だぞ。しかも、先発は則本(昂大)だった。そこに池田をプロ入り初先発させるというのは、意表を突くということよりも酷過ぎる。結果として池田は好投したけど、巨人のローテーション投手の層の薄さを考えさせられたよ。「どうなってるの!?」というね。先行きが怖いよ。打線も打てないし、負の流れががっちり出来てしまっている。

──死神にでも取り憑かれてしまいましたかね……。

中畑 それはオレか? ワハハハ! いやいや。でも、そのくらい深刻だよ。

──流れを変えるにはどうすればいいですか?

中畑 先発については、ようやく一軍で投げはじめた山口俊、野手なら陽岱鋼。この二人がどれだけ新しい風を吹き込んでくれるかだろう。それに期待するくらいしかないよ。生え抜きの現有戦力ではちょっと厳しい。そのくらいまで深刻になっている。もう、黄色信号どころじゃない。レッドよ、レッド!

──山口俊については、DeNA時代に中畑さんがリリーフから先発に転向させて成功しました。その後も、昨年まで安定して結果を出しています。

中畑 うん。移籍早々に故障してしまったのでケチがついたけど、アイツは期待できるよ。実は、先発転向させて最初に起用しはじめたのは交流戦だった。忘れもしないロッテ戦。6回まで無失点で抑えてくれて、継投でつないで1対0で勝ったよ。単なる偶然だけど、今年もそのときとほぼ同じ時期一軍に上がってきているから、流れとしても期待していい。夏に強い選手だしね。それに、いまの巨人の大きな“負”の流れを食い止めて良い方向に変えられるほどの力量があるのは、もはや俊くらいしかいないだろう。

──高橋由伸監督も厳しい状況が続きますね。

中畑 監督2年目。つらいことばかりだと思う。だけども、これからやりくりをしてしのいでいけば、巻き返すだけの地力はあるチーム。信念をもって動けるかどうかだな。交流戦でははまってしまったが、対戦相手がセ・リーグの球団の戻れば、またやりようが出てくるはずなので、逆境での由伸の好采配をぜひ見てみたいね。あきらめるのは早いぞ!

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ

著者プロフィール キビタ キビオ