14年振りに実現した外国人選手以外生え抜きのスタメン

期待の若手・陽川尚将の2ランで逆転し、守っては先発岩貞祐太から高橋聡文、ラファエル・ドリス、マルコス・マテオのリレーで逃げ切った4月29日のDeNA戦。この試合は、DeNAの新人・今永昇太に14三振を喫するなど、球団ワーストタイの1試合16三振(9イニング)を記録しながらの勝利だったが、その試合での阪神のスタメンを振り返ってみる。

7 高山俊
8 大和
9 江越大賀
3 マウロ・ゴメス
6 鳥谷敬
5 陽川尚将
2 原口文仁
4 北條史也
1 岩貞祐太
 一見、なにも特徴がないようだが、外国人のマウロ・ゴメスを除く選手はすべて生え抜きの選手である。阪神のスタメンが外国人選手以外すべて生え抜きで占めたのは、なんと2002年6月2日のヤクルト戦以来、実に14年ぶりのことだった。ちなみに、当時のスタメンは以下の選手たちが並ぶ。

4 今岡誠
6 藤本敦士
7 濱中治
3 ジョージ・アリアス
9 桧山進次郎
5 関本賢太郎
8 松田匡司
2 浅井良
1 安藤優也

 福留孝介や西岡剛といった移籍組の選手にケガが多いため、体調を考慮しながらの起用となっていることもあるが、それは昨季までもよくあったことだ。金本監督は、ベテランを休ませ、若手を抜擢することに迷いがない。スパッと切り替えることを厭わず、未知の若手をグラウンドに送り出している。

今季一軍初出場を果たした野手がすでに5人

近年、阪神の課題として野手の世代交代が挙げられてきた。理由は明確で、FAなどの補強に走ることが多く、生え抜きの野手がなかなか育ってこなかったからだ。1990年代のように、下位に低迷することは少なくなったものの、チーム全体にどこか“閉塞感”があり、2005年以降優勝から遠ざかっている一因にもなっていた。それが今季、若手が一気に台頭してきた。ここまで一軍初出場を果たした野手は以下の5名である。

この5人以外にも、2012年ドラフト2位の北條史也は昨季まで1試合1打席しか一軍での出場がなかったが、今季はここまで21試合43打席38打数8安打1本塁打、打率.211と一軍でのプレーが増えている。

 セ・リーグ他球団で今季一軍初出場を記録したのは、巨人が重信慎之介と山本泰寛の新人ふたり(計2打席)、広島は新人の西川龍馬ひとり(6打席)、DeNAは新人の戸柱恭孝(94打席)、柴田竜拓(46打席)、ソフトバンクから移籍してきた白根尚貴(3打席)の3人だ。ヤクルトと中日に至っては、一軍未出場野手の一軍出場はここまで0人である。人数、打席数ともに阪神が圧倒的に多いのが分かるだろう。

 なかでも原口は、4月27日に育成選手から支配下選手に移行され、即一軍登録。支配下選手としてのユニフォームが間に合わなかったため、2日間は山田勝彦二軍バッテリーコーチのユニフォームを借りて一軍でプレーしたほどだ。二軍からの推薦があればすぐに一軍へ上げ、積極的にチャンスを与えている。若手の選手は経験もないし、阪神ファンの迫力に押されてミスを犯す可能性だってある。しかし、金本監督に背中を思いっきり押されグラウンドを駆けまわる姿には、大きな希望を感じさせてくれるものがある。

犠飛の数がセ・リーグでダントツの17の理由

走塁面の意識改革も掲げた金本監督。今季の開幕戦となった対中日でいきなり“金本イズム”を感じる場面があった。5回、ピッチャーのランディ・メッセンジャーが盗塁を決めたのだ。相手バッテリーも無警戒だったが、昨季までは見られなかった積極的な走塁で、「今季の阪神は動いてくるぞ」と強く印象づけた場面だった。

 阪神のチーム盗塁数はセ・リーグ2位タイの17盗塁だが、盗塁以外の走塁でも常にひとつ先の塁を狙う姿勢がある。積極的な走塁は、数字の面からも見えてくる。セ・リーグ各球団の主な打撃成績は以下の通りだ。

チーム打率、出塁率はともにリーグ4位、長打率はリーグ5位だが、得点は広島に次いで多い147。試合数が多いこともあるが、ヤクルトとの打率、出塁率、長打率の差を見ても、阪神は効率よく得点していることが分かる。

 また、犠飛が17とダントツで多いのも阪神の特徴だ。ノーアウトかワンアウトで走者が三塁の場面は「一、三塁」、「二、三塁」、「三塁」、「満塁」の4つある。その4つの場面で阪神の野手が打席を迎えた回数は127でリーグ3位。長打力に劣るものの、ひとつ先の塁を積極的に狙うことで走者を三塁に置く場面を増やしている。

 若手の才能が伸びてきたタイミングと、金本監督の起用がうまくはまっていることもあるだろう。ただ、これほど多くの若手選手が次々と台頭し、結果を残すことはなかなかないことである。走塁に関しても、「ひとつでも先の塁を狙おう」とは誰でも言えることだ。ただ、実現するのは容易くない。それを短期間でチームに浸透させたことは、この先の戦いを考えても大きなプラスである。

 若手の抜擢と積極的な走塁で、阪神を生まれ変わらせようとしている金本新監督。いまのところ、“超変革”は成功していると言っていいのではないか。
※数字は5月5日終了時点

京都純典
1977年、愛知県生まれ。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。


京都純典(みやこすみのり)

著者プロフィール 京都純典(みやこすみのり)