文・写真/新川諒

ウィンターミーティングは球界関係者にとっての同窓会!?

野球界に限らずすべての業界に同様のことが言えるかもしれないが、特に内部に入ると非常に狭い世界であるのが野球界である。それでもこの業界に関わる人間は非常に多く、球団関係者、代理人、スポーツメーカー各社、そしてメディアなど多岐に渡る。その球界を舵取る人間の多くが一同に集う場所が、毎年12月1週目ごろに毎年ちがう街で開催されるウィンターミーティングだ。

 多くの人間が集うだけあって、ウィンターミーティングの開催地にとっては経済効果が見込まれる一大イベントである。どんなイベントでもそうだが、会場となるホテルだけでは賄うことのできないほどの宿泊先が必要となり、参加者のお腹を満たすレストランや娯楽施設など開催中は街全体が賑わいを見せる。

 ウィンターミーティング開催中は会場のホテルよりも、夜に地元のレストランやバーに行く方が有名代理人やGMなどと遭遇する可能性が多いかもしれない。なぜなら各球団はホテルの会議室にそれぞれが戦略室を設置しているため、隔離された空間でミーティングを行い代理人や他球団の関係者とも別室を使って話し合いをする。そのため、実際に会場となるホテルのロビーには、戦略室などには足を踏み入れることのできないメディアの人間の溜まり場となってしまうからだ。

ウィンターミーティングの存在価値

ウィンターミーティングは、選手の契約交渉を球団関係者同士や代理人が行う場として主に知られているかもしれないが、実はそれ以外にもさまざまな顔を持っている。

 会場にはメジャーリーグの30球団の関係者だけではなく、そこには100を超すマイナーリーグ球団の関係者も集っている。そしてMiLB(マイナーリーグベースボール機構)主催で新たに野球界の一員に加わることを夢見る者が集まる就職フェア、そして新たなトレンドや知識を学ぶことができるセミナーやワークショップ、業者が新たに野球界を盛り上げるアイテムやシステムを売り出すトレードショーなどが開催される。トレードショーに足を運ぶだけでも、今後、野球界進出を目指すメーカーの新技術や商品であったり、トレンドを知れるなど、多くの発見がそこには溢れている。なかには球場で販売を目指す新たなポテトチップスなどの商品を売り出す会社などもブースを持ち試食ができるなど、お試しやおまけを手に入れることも可能だ。

就職フェア参加者にとっては一大チャンスを掴めるかの試練の場

わたしはこのウィンターミーティングに2度就職希望者として参加したことがある。2009年のインディアナポリス、そして2015年のサンディエゴ開催の2回だ。クリーブランド・インディアンスで2シーズン間インターンを経験した後の2009年は、初めて足を踏み入れる空間に少し戸惑いはあった。狭い野球界みんなが知り合いや古い友人のようで、“新参者”が会場に足を踏み入れると行き場に困ってしまうのだ。スーツを着用し、どこに行って良いかわからずウロウロしている者の大抵は就職希望者と思っていい。

 なんのツテもなければロビーをウロウロして、関係者が首からぶら下げている名札を見てアプローチするのである。だが関係者にとっては、ただの“通り道”であるロビーだ。見知らぬ学生に声を掛けられ時間を割いてくれるかは未知数である。だが、実際ウィンターミーティングではお馴染みの光景。それに、現在球界にいる多くの者も通ってきた道であるため、声を掛ければ反応をしてくれる場合がほとんどだ。それでも新参者にとっては、精神力が鍛えられる場でもあり、何度も心が折れかけてしまうような厳しい場でもある。

 わたし自身はインターン時代のつながりから事前に会いたい人物に連絡を取り、アポイントを取ることができていた。メールや電話だけでは進まない話が、会場に訪れることで着々と進み、初めて参加した2009年のウィンターミーティングではある球団から“内定”を得ることができた。このウィンターミーティングに足を運んだことによって、わたしは米国野球界でのキャリアを本当の意味でスタートすることになった。

12月にも開催されるドラフトは選手にとって新たなチャンス

メジャーリーグでは6月にドラフトが開催されるが、実は12月にもうひとつのドラフトが開催される。「ルール5ドラフト」は、マイナーリーグに埋もれた選手を再発掘する制度で、メジャー40人枠から外れ、入団時に19歳以上だった選手は4年以上、18歳以下では5年以上が経過したマイナー選手が対象となる。

 ウィンターミーティングは多くの者の運命が左右される野球界の一大イベントではあるが、これまで所属チームで芽が出なかった選手にも新たなチャンスが生まれる場でもあるのだ。

 さまざまな者が喜び、悲しみ、無力さを感じるなどさまざまな感情が入り混じるウィンターミーティング。その最終日には、「ルール5ドラフト」が開催され多くの若手選手に新たな希望を与えてその幕を閉じる。

(著者プロフィール)
新川諒
1986年、大阪府生まれ。オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学時にクリーブランド・インディアンスで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者・ライターとして活動中。


新川諒

著者プロフィール 新川諒

1986年、大阪府生まれ。オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学時にクリーブランド・インディアンズで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者・ライターとして活動中。