一昨年、昨年のほぼ倍の貯金稼いだ今年

 交流戦終了時点でソフトバンクの貯金は、一昨年の15、昨年の13を大きく上回る27。勝率は両年よりも1割以上高い.721に達している。だいたい、「1週間に1回負ける週と、2回負ける週が交互にくる」ペースで戦っており、ここまで連敗は最長で2連敗。それもたった3回あっただけで、ほとんどの期間が“連勝期間”だったと言える。 (図1参照)

 特に下位に沈む楽天とオリックスから勝利を稼いでおり、この2球団を相手した試合だけで12の貯金をつくり出した。これに、今回の交流戦でまったく寄せ付けなかったセ・リーグの球団から9つ貯金を得て計21と貯金の大半を占める。叩ける相手を確実に叩く戦いができているのが、ソフトバンクが走ることができている直接的な理由だろう。(図2参照)

V9時代の巨人と黄金時代の西武のベストシーズンを超えるペース

 ここまでの.721という勝率は、歴史的に見てもかなり珍しいものだ。下のランキングはNPBが2リーグにわかれ、いまに近い試合数で行われるようになった1950年以降で、年間勝率上位10位をまとめたもの。そのデータを見ると、現在のソフトバンクを超える勝率でシーズンを戦い終えた例は僅か3例しかない。いずれも分立初年度とその翌年に記録された数字だ。4位から8位までも1950年代に記録されたもので、それより後の時代では、9位に1960年代の川上哲治が率いた巨人がV2を達成した際の記録が、10位に1980年代の広岡達郎が率いた西武による記録が出てくるのみだ。

 古い時代に高い勝率を記録したチームが出ているのは、2リーグ分立にともない新球団の創設が相次ぎ、プロのレベルに達する選手を十分に集められない球団が出たためとみられる。「樽募金」に支えられていた広島、そして近鉄などは、初年度など年間40勝ほどしか挙げられなかった。そうした“カモ”がいたため、強豪は勝率を著しく高めることができていたのである。ときが経ち飛び抜けて弱い球団が減っていくと、高い勝率は記録されなくなっていった。

 川上哲治、広岡達郎を名将と称える人は多いが、確かにプロ野球の黎明期だからこそ記録できた勝率に、後の時代に肉薄したという意味で、両者はやはり凄い監督なのだろう。そして、ここまでのソフトバンクは、両者が率いた巨人と西武のベストシーズンを、余裕で超えていく記録を残していることにもなる。(図3参照)

1980年以降に限ると前例のない圧倒的な勝率

 1950年代や1960年代の話になると、あまりにも古い記録では実感に乏しいかもしれない。そこで1980年以降における年間勝率上位10チームをまとめてみた。

 こうしてみると、戦力差が縮まっていった近年は、いくつかのチームのいわゆる「黄金時代」として記憶されるシーズンですら、7割を超える勝率は残せていない。20勝を挙げた斎藤雅樹を筆頭に、桑田真澄、宮本和知ら計5人の先発投手が2桁勝利を挙げた1990年の巨人でも.677。阿部慎之助が捕手を務め首位打者を獲得。坂本勇人や長野久義も打率3割をマークした2012年の巨人でも勝率は.667。どちらもソフトバンクの.721にはまるで及ばない。

 松中信彦が46本塁打し、杉内俊哉が18勝、斉藤和巳が16勝した2005年のソフトバンクでも、清原和博、秋山幸二、オレステス・デストラーデの3人が計97本塁打した1991年の西武でもまったく届かない未知なる勝率なのだ。 (図4参照)

 NPBよりもずっと長い歴史を持つMLBの年間勝率を見てみても、7割に達したことは数えるほどしかない。そしてそのほとんどが19世紀、もしくは20世紀初頭に達成されたものだ。かろうじて、10番目にイチローのメジャー挑戦1年目、2001年に所属したマリナーズが116勝を挙げて記録した勝率.716がランクインしているが、それ以外はもはや“歴史上”の記録である。 (図5参照)

ソフトバンクは伝説をつくりビッグクラブへの道を歩む?

 ここまで、ソフトバンクの成績を歴史的に見たときの“異常性”を確認してきた。その凄さに驚かざるを得ないが、だからこそ「これだけのペースで、シーズンの終わりまで勝ち続けることなどできない」と、今後のペースダウンを予想することもできる。オリックスや楽天はソフトバンクにかなりの勝ち星を献上してきたが、2球団がNPBやMLBの黎明期に、寄せ集めの選手で新規参入した球団と同じくらい弱いということは、恐らくないはずだ。 (図6参照)

 過去2年も、交流戦以降の約80試合の勝率は5割台に落ちており、ソフトバンクが失速する可能性はある程度見込んでおくべきものだろう。前半戦の投手陣を牽引したリック・バンデンハークの離脱など、ネガティブな要素もある。

 しかし、もしこのまま走り切るようなことがあれば、今年のソフトバンクは「川上巨人」や「広岡・森西武」を超える、後世に語り継がれるような存在に必ずなるだろう。

 球界の盟主として巨人や西武が君臨し人気を独占した時代が終わり、戦力的に均衡した地域に根ざした球団同士がぶつかりあう時代が、特にパ・リーグでは続いてきた。豊富な資金力と育成システムに代表されるスマートな運営戦略で、一気に他球団を引き離したソフトバンクの躍進は、そうした移り変わりに逆行するものに見えるかもしれない。

 しかし、広くスポーツ界を見渡せば、世界的なビジネスに成功した“ビッグクラブ”と、地域のファンに支えられた小規模なチームが、同じ土俵でぶつかりあうといったことも普通に起きている。誰でも知っている人気チームは、かつての巨人がそうであったように、ライトなファンを引きつける貴重な存在になる。さらなる高額年俸を支払える仕組みをうまくつくれれば、より優れた才能が野球界を目指すことにもつながり、競技レベルの維持も期待できる。MLBを模して、戦力の均衡化が理想として語られることは多いが、消化試合を減らすための施策をさらに整備したうえで、自由競争を是とすることで得られるメリットを球界は考えてもよいのではないかというスポーツ・マネジメント界からの声もある。

 ソフトバンクがこのまま突っ走り、歴史的な快挙を成し遂げることがあれば、NPBの次の時代の扉が開くような気がしてならない。

著者:山中潤


山中潤