自律神経は屈強なプロ選手が引退するぐらい重度な問題を引き起こす
自律神経というのは、自動的に働く神経のことで、主に内臓の働きなどの自動運転を担います。自律神経には大きく分けて2種類あり、戦うモード用と回復モード用に分類されます。
戦うモード用:交感神経
回復モード用:副交感神経
両者は入れ替わる形式で働き、どちらかが強く作用している時はもう片方は働きが抑えられているのが正常です。自動操縦であるこの自律神経に問題が起こると、両者の入れ替わり作用がうまく機能しなくなり、戦わなければならない時に身体が動かない、逆に眠って休まなければならない時に眠れない、といった症状を引き起こしてしまいます。
そのような症状が起こってしまうと、なかなか自分では思うようにコントロールすることが難しくなり、場合によっては競技の継続が難しくなってしまうこともあります。冒頭の、「身体を動かすのを拒絶するようになってしまいました」というコメントがそれを顕著に表しています。
発症にはストレス・プレッシャーと選手のキャラクターが関与
自律神経の問題は一般的にストレスによって引き起こるとされています。スポーツでのストレスで最も大きいものがプレッシャー。結果を出さなければならない、周囲からの期待、失敗の繰り返しなどのプレッシャーがストレスとなっていることは非常によくあることです。
また、選手のキャラクターとの関係にも要注意。川崎選手のようにいつも明るく振る舞う選手、そしてキャプテンなど真面目で責任感のあるタイプの選手は特に注意が必要です。こういった選手は自分を抑え、「期待される役割」を演じている可能性があり、その行動が知らず知らずのうちに自分にストレスをかけていることがあります。
川崎選手も、上原浩治投手などの証言から実はとても繊細な性格であったことがわかります。底抜けに明るいキャラクターとのギャップを考えると、おそらくこのパターンに分類されます。
症状はまず背骨に現れる
自律神経の問題は、本人や周囲には急に出現したように感じられるかもしれません。しかし、実際にはもっと早くから身体にはサインが出されています。自律神経の問題で特にそれが出やすいのが背骨と内臓。(内臓への対処はここでは除外します)なぜなら自律神経の多くは背骨の中を通っているからです。
自律神経に問題が出てくると、この背骨が硬くなるという現象が起こります。実際、私が指導している日本代表選手たちは国際大会の後は揃って背骨が普段よりも硬くなっています。日の丸を背負うプレッシャーは相当なものなのだと思います。
硬くなりやすいのは特に胸椎。背中の上半分あたりです。また、同時に胸の骨も硬くなります。この辺りが硬くなると、呼吸が浅くなったりという症状も現れます。なので深呼吸が十分にできているかはとても重要な指標ですので、早期対処のためにも毎日チェックするといいですね。
背骨を柔らかくすることで、自律神経を良い状態に保つ
では実際に自律神経の問題が起こるのを防ぐための方法を1つご紹介します。
©︎中野崇四つ這いになり、写真のような姿勢になります。
©︎中野崇手を前に出し、顔を正面に向けたまま胸を地面に着けるようにおろしていきます。親指を上に向けておくと肩の負担は軽減します。この時、お尻が後ろや前に動かないようにキープします。
©︎中野崇右腕を身体の下を通して左側に出します。左腕はまっすぐに空を指します。その状態で一度キープ。首や肩をリラックスさせます。
©︎中野崇 胸の前で両手を合わせ、手のひらで軽く押し合います。そのまま深呼吸を2回行います。反対側も行い、最後にもう一度正面で胸を伸ばします。うまくできていればこの時にかなり変化が生まれます。もちろん呼吸の変化も要チェックです。
タイミングとしては、朝起き上がる前、寝る前に行うと効果的です。また、純粋に体幹の柔軟性向上のストレッチとしてもかなり有効なので、パフォーマンスアップのためにも使えます。
ちなみにスポーツ選手のストレスでなくとも、あらゆるストレスは同じようなプロセスを経て身体に影響を及ぼしますので、どなたでも有効活用していただけるストレッチです。
自律神経の問題を予防・改善する上で背骨の柔軟性を向上することは非常に有効ですが、もちろんこの運動だけで自律神経の問題は全ては解決しません。ストレスの根本的な問題を解決するのも忘れずに。
例えば弱音や愚痴を吐ける相手を作ったり、真面目や正論から解放される環境を作ったり。”人間性が素晴らしい”選手ほど、リスキーであることを知っておいてください。
また、大腰筋もストレスによって硬くなるというデータもあるので、みぞおちを柔らかく保つことも非常に重要です。以前ご紹介した、みぞおちの運動も合わせて行うと効果的です。
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