リーグトップの防御率0.65&55奪三振!
大卒3年目左腕、阪神・岩貞祐太の勢いが止まらない。
今季初登板となった4月2日のDeNA戦(横浜)で7回4安打無失点、計12奪三振の好投を披露して今季1勝目を手にした岩貞祐太は、そこから同9日の広島戦(甲子園)、同16日の中日戦(ナゴヤドーム)と、左腕では史上初という開幕3戦連続2桁奪三振を記録。味方の援護を欠いて勝ち星に恵まれない試合が続いたが、同29日のDeNA戦(甲子園)で2勝目を飾ると、月が変わった5月6日のヤクルト戦(甲子園)では7回4安打無失点、9奪三振で今季3勝目をマーク。QS率100%の安定感とともに、41回1/3イニングを上回る55奪三振を記録し、一躍スターダムにのし上がった。
必由館高校から横浜商科大学を経て、ドラフト1位で阪神に入団した岩貞祐太。即戦力の期待を受けながらも、プロ2年間は11試合で2勝5敗、防御率4.50と“期待外れ”だった男が、今季は6試合で3勝1敗、防御率0.65と、まさに“超変革”。本拠地で3勝目を挙げた直後のお立ち台では、三振を多く奪える理由について「キャッチャーがいいからだと思います」と語り、無失点に関しては「守備がいいからです」とニンマリ。虎ファンを沸かせる“余裕”も見せながら目下、防御率、奪三振数のリーグ2冠を突っ走っている。
12球団先発投手No.1の被打率.171
プロ入り前から腕の振りの良さは目立っていた。加えて今季は、投球フォームの安定による制球力の向上、精神面での安定が、岩貞祐太“覚醒”の理由に挙げられるだろう。その上でピッチングの内容を細かく注視すると、なによりもストレートの質の高さが目を引く。
今季、岩貞祐太が計6試合で投げた全638球の球種別内訳を見ると、ストレートが44.3%で、以下カットボール(18.4%)、チェンジアップ(14.2%)、スライダー(13.9%)と続く。この割合を見てもストレートが投球の軸になっていることが分かる。そして、そのストレートの被打率は.171(70打数12安打)を誇る。これは今季、12球団の先発投手のなかで№1の数字だ。
他の面々を見ると、ソフトバンク・バンデンハーグが被打率.174(86打数15安打)で、巨人・菅野智之も被打率.196(56打数11安打)と優秀な数字を残している。チームメイトの藤浪晋太郎も被打率.226(84打数19安打)と悪くはないが、いずれも岩貞祐太の数字には及ばない。
さらに160キロ超の剛腕、日本ハム・大谷翔平と比べても、今季の大谷のストレートの被打率は.262(103打数27安打)で、投手2冠に輝いた昨季でさえも被打率.206(286打数59安打)だった。右投げと左投げの有利不利はあるにせよ、岩貞祐太のストレートが日本球界トップクラスであることは間違いない。
“大谷級”の空振りを奪えるストレート
岩貞祐太の“打てないストレート”について、もう少し詳しく見ていく。
最速は148キロで、平均球速は140キロ前半。現代野球においては、決して突出したスピードではない。いわゆる、スピードガンよりもボールの切れ味で勝負するタイプだ。ストレート以外には130キロ台のカットボール、鋭いスライダーとチェンジアップ、さらにカーブ、シュートなどを投げるが、今季の岩貞祐太が最も三振を奪っている“決め球”はストレート。55奪三振のうち、最多となる計28個の三振を奪っている。
ストレートの空振り率10.71%も素晴らしい。バンデンハーグの4.35%、藤浪晋太郎の6.09%を大きく上回り、菅野智之の12.29%、大谷翔平の11.06%に匹敵する数字を残している。ちなみに昨季の大谷翔平のストレートの空振り率は10.24%。このままの調子で三振を奪い続ければ、まさに“大谷級”と言っても過言ではない。数字上でも、岩貞祐太のストレートは、“打てない”と同時に“空振りを奪える”ストレートだと言える。
日本球界待望の先発左腕としてのこれから
左腕・岩貞祐太の成長は、阪神だけでなく「侍ジャパン」においても大きな意味を持つ。
3位に終わった昨年11月の「プレミア12」において、小久保裕紀監督が選んだ13人の投手のうち、左腕はふたりのみだった。一次候補の時点では8人(大野雄大、松井裕樹、宮西尚生、吉川光夫、?橋朋己、菊池雄星、松葉貴大、岩田稔)を選び、自ら「左腕が強化ポイント」と明かしていたが、実際に最終メンバー入りしたのは大野と松井のふたりのみ。その歪みは、満足できない大会結果にも少なからず繋がった。
事実、過去のWBCメンバーの左腕勢を見ると、2006年の第1回大会(藤田宗一、和田毅、杉内俊哉、石井弘寿は1次リーグ後に負傷離脱)、2009年の第2回大会(岩田稔、内海哲也、山口鉄也、杉内俊哉)と4人ずつ選ばれ、2013年の第3回大会では6人(能見篤史、杉内俊哉、森福允彦、内海哲也、大隣憲司、山口鉄也)が名を連ねている。次回2017年のWBCを見据えると、代表レベルの左腕、特に先発左腕の出現は必須条件だろう。
野球というスポーツにおいて、左投げ投手の必要性と優位性はいまさら言うまでもない。内海、杉内、能見ら日本を代表する先発左腕の高齢化が顕著となった現在、岩貞祐太にかかる期待は非常に大きい。今季、このまま3年目の覚醒が続けば、甲子園だけでなく日本球界の未来をも明るく照らしてくれるはずだ。
※数字は2016年5月9日終了時点