「出塁」に偏り気味の現行のタイトル

現在、NPBで表彰されている野手のタイトルを眺めたとき、評価対象に対するある偏りに気づく。首位打者、最高出塁率、最多安打といった「出塁系」で3つのタイトルがあるのに対し、「長打系」のタイトルは最多本塁打しかないことだ。最多打点については、結果的にパワー系の打者が獲得することが多いが、あくまで打点という数字を評価するものである。これは、長打力に主眼を置いたものではない。
このアンバランスを正すには、長打力に関するタイトルを加えて設けるべきだろう。もし加えるのではあれば、長打率やISO(Isolated Power)と呼ばれる数字がふさわしい。
長打率は、記録した塁打数(単打は1、二塁打は2……といった具合)を打数で割った数字。二塁打を単打の2倍、三塁打は3倍、本塁打は4倍の価値で評価しているので「確実性(打率)は低いが、安打に占める長打の割合が高い打者」の数字が伸びやすい。
ISOはこの長打率から打率を引いた数字。これは単打に0、二塁打に1、三塁打に2、本塁打に3という価値を置いて評価するのと同じことで、つまり打ったヒットの全てが単打だと.000となる。純粋に長打を生み出す力だけを切り出した数字ということになる。

規定打席に達した選手について、これらの数字を見ていくと、長打率ではパは柳田悠岐(ソフトバンク)が、ISOではエルネスト・メヒア(西武)が1位となる。セは本塁打と打点でトップだった筒香がいずれの数字でも1位。
本塁打や打点と似通った選手を評価する面はある。だが、打率と出塁率が重複する部分がありながら別々のタイトルが設けられていることを考えれば、これら長打系の数字をタイトルに加えてもよいはずだ。
出塁できて長打も打てる「バランス」を評価したい柳田
現行のタイトルでカバーできていない面としてもうひとつ挙げたいのは、「バランス型」の選手に対する評価である。安打を量産できる確実性のある選手や、本塁打を打つパワーを備える選手というのは一芸に秀でた選手とも言える。場合によっては、両方をバランスよく兼ね備えた選手のほうが、実際のチームへの貢献は大きいこともある。そうした選手も評価されるべきではないか。これはトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)のような記録に対する評価の延長線上にあるもので、そこまで突飛なものではない。
そうした選手を浮かび上がらせるのに適しているのは、出塁率と長打率をそのまま足したOPS(On-Base Plus Slugging percentage)や、同じ考え方だが出塁力と長打力を少し違う比率でミックスしたwOBA(weighted On-Base Average)などである。

いずれの数字でも、パは柳田が、セは筒香嘉智(DeNA)がトップで、特に柳田は2位以下を大きく引き離している。柳田は離脱期間がありチームもV逸。またトリプルスリーを記録した昨シーズンの成績に比べインパクトに欠けたからか、今シーズンの柳田を評価する声はそこまで聞こえてこないが、バランスで評価した場合、柳田は打撃でリーグ最高レベルの貢献を果たした選手だったということができる。
今シーズンのベストナインの選出は妥当か
このような「長打力」と「バランス」を加えた評価で、先日発表されたベストナインが妥当だったかを考えてみたい。

まず気になったのはパ・リーグの外野だ。最高出塁率を記録し、パワーを評価するISO、バランスを考慮したwOBAでもほかの外野手を上回る数字を残した柳田が、角中勝也(ロッテ)、糸井嘉男(オリックス)、西川遥輝(日本ハム)よりも得票できずベストナインを逃した。

4選手のなかでも最も多い18本塁打、31二塁打を打ったものの、120試合、536打席という数字の低さが響いた見られる。守備でのパフォーマンスを考慮して投票している記者も多くいたのだろうが、角中、糸井、西川と柳田の間に、打撃での貢献でつけた差を覆す明確な差はあったとは考えにくい。糸井か西川に代わって柳田が選ばれるべきだった。

次に気になったのは捕手である。パは大野奨太(日本ハム)と田村龍弘(ロッテ)が7票差の接戦となり田村が選手された。ふたりは成績も僅差だが、出塁率、本塁打、ISOで大野が若干上回っている。にもかかわらず田村が選出されたのは、田村が130試合に出場した一方で、大野が109試合に終わったからか。
セでは一塁や代打としての出場もあったが、原口文仁(阪神)が突出。その後に石原慶幸(広島)、小林誠司(巨人)、戸柱恭孝(DeNA)の3人が、やや低めの成績で並んだ。石原が選出されたが、同僚の會澤翼と出場機会を分けたため、106試合、289打席に終わっておりこれは4捕手のなかで最も少ない。チームを優勝に導いたことや、数字では計れないリードなどの印象が影響している見られる。パで大野が選出されなかったのとは対照的な結果だ。
パの大野と田村の争いはどちらに転んでもおかしくないレベルだったと思うが、セについては原口という選択もあったのではないか。出場機会は多くはないとはいえ、それでも捕手として立った打席数は石原を超えている。


パでのみ選出される指名打者(DH)は、190票を獲得し大谷翔平(日本ハム)が選ばれた。DHとして200打席以上に立った選手のなかでは突出した成績であり妥当だろう。wOBAをリーグ平均値と比較した値に打席数を掛け、量として評価するwRAA(weighted Runs Above Average)でも、600打席近く打席に立ったアルフレド・デスパイネ(ロッテ)やゼラス・ウィーラー(楽天)を上回る数字を残している。大谷は、少ない打席数で密度の高い活躍を見せていた。
なお、大谷が382打席で残した37.7というwRAAはパの全ての野手のなかでも5本の指に入る。これに加えて投手としてもあれだけの活躍をしたのだから、MVP選出はまったくもって妥当だろう。

なお、そのまま等倍し600打席に換算してみると59.2となりトップの数字となる。仮に打者に専念して起用されても、今シーズンはMVPがうかがえるものだったと推測される。
打点が評価されたと見られる新井のMVP
セの一塁手のベストナインとMVPに選ばれた新井貴浩(広島)は、リーグで10番目程度の成績だった。筒香、山田哲人(ヤクルト)、坂本勇人(巨人)らからかなり引き離されており、データ視点だとMVPへの選出が妥当とは言いにくい。優勝したチームからの選出という慣習に従うにしても、同僚の鈴木誠也がほとんどの指標で上回っており、こちらのほうがふさわしいと言わざるをえない。

新井が優勝に不可欠な戦力だったのは間違いないが、数字を伸ばしていた打点、また積み重ねてきたキャリアなどが記者の印象に影響を与えたと思われる。打点について言えば、前を打つ選手の出塁がなければ増えないものであり、個人の力だけでは伸ばせない数字でもある。
数字だけではとらえきれない選手の活躍を評価するために、記者投票が実施されていると考えれば、数字での評価と異なる結果になるのは当然である。それでもある程度見解を統一したほうが、ファンの納得度は上がるのではないか。
・長打力やバランスの評価
・過去の働きや、前年と比べての印象
・守備の評価
・捕手のリードの評価
・出場機会の評価
・優勝への貢献の評価
・打点の評価
・チームに対する精神的な貢献の評価
こういったものについては、記者それぞれの主観にまかされており、いわばフィギュアスケートのような競技で存在する「芸術点」のような評価が行われていると考えられる。
さまざまな評価指標が登場し、記者による評価の基準が多様化しつつある現状もある。なんらかの目線合わせを行い、データが示す客観と記者の主観を、どういった割合でミックスして評価を行うべきかなど、改めて指針を設けてもよいはずだ。