『黄金』から『黒』へ

 僕の始めての球団との仕事は、美容院をキッカケとして繋がった西武ライオンズ(当時)でした。
※前回コラム参照

 オファーをいただいたのは、西武が26年振りのBクラスに転落した2007年のこと。80年代、90年代の黄金期が終わりを告げ、新たな歩みを進めようという年でした。チーム、そしてファンにとって、悔しいシーズンであったのは間違いありません。だからこそ、この躓きをデザインのテーマにしたら球団とファンが一つになるのではないか——。
 その考えのもと、球団と話し合い、盛り込んだコンセプトカラーは『黄金』とは真逆の『黒』。この年僕が制作した物は全て『黒』を入れています。全体として、“再び力強さを取り戻す”という這い上がるようなイメージの見た目に仕上げられたかなと思っています。

 いただいた依頼はいくつかあり、ひとつがセ・リーグチームとの交流戦時に着用するユニフォームのデザインでした。始めてのチームからのオファーということもあり鼻息荒く(笑)、デザインに取りかかりました。始まってからはけっこう冷静に、今も続く「シンプルに」「ユニフォームを街着に」というモットーを守ろうとしていました。
 ライオンズからのデザイン的な希望は「せっかくのお祭り用なので、印象深いものにしたい」というものでした。派手な色合いにするのは簡単なのですが、それはあまりしたくなかったので、ワンポイント何か入れて目立たせてみようと考え配置したのが、肩の白い“星”でした。

©︎大岩Larry正志

※黒をポイントに入れ込みました。

 この星は、交流戦という言葉から発想した “クロス”と、白星がベースです。そして、「昨年のライオンズとは違うんだ!」と、自らを否定する×(バツ)という意味も込めました。
 いま見ると、僕も若かったなと感じるデビュー作ですが、今でも多くの人に支持いただき、記憶に残るものになっていただいてよかったなと思います。だけど、もしこのチーム状況で今の僕にオファーをいただいたら、また全然違ったものになるでしょう。

もう一度強くなるという意味を込めて

 ファンクラブ会員募集のポスターも、依頼いただいたもののひとつです。4種類タイミングを変えて発行するという事で、起承転結になるようなストーリーを落とし込みました。1枚目にはBクラスに転落した2007年の成績を大きく表示し、そこに『Re:set』というステッカーを実際に貼ったデザインに。2枚目は『Re:born』というワードと共に、しびれを切らしたファンが「何なら俺たちがやろうか」と立ち上がろうとするもの。3枚目は渡辺久信監督の「いや俺たちがやる!」という激の意味で『Re:start』。そして、最後は選手達が、新たなライオンズを見てくれという意味で『Re:lions』という造語で締めました。
 “Lions”とは、強いチームであり、もう一度強くなるという意味を込めて制作した4枚でした。「Re:」は「再び」という意味と同時に、メールなどでの「返信する」の引用で、ファンの期待に応えるという意志も込めていたんです。

©︎大岩Larry正志

※全て黒で統一。今考えると、よくこのコンセプトが通ったなと思います(笑)

 チームを鼓舞する意味も込め、自虐なコンセプトで挑んだ2008年、西武ライオンズは見事日本一に返り咲きました。自分がやったことがどこまで、チームやファンに届いたのかは分かりませんが、「もう一度強くなってもらうため」に力を注ぎ、実際にそうなったことは本当に嬉しかったし、この仕事が楽しくてしょうがない、と感じることができたのは大きかったです。

 西武のデザインを担当してから10年。あの頃から変わらず、ずっと「デザインで野球を変えること」を目標として活動していますが、まだまだそれは達成できていません。野球のデザインというのは、単なるデザイン、とはまた別で、記録・歴史・文化などの特別な知識が必要な、もはや専門学だと思っています。少なからず、私はそのつもりで一枚に思いを込めているつもりです。

という、最後はちょっとクサいおはなし。

編集協力:ベースボール・タイムズ

■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。

また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。
http://www.oneman-show.com


大岩 Larry 正志