はじめての試み
昔からメジャーリーグのグッズでは、ボブルヘッドと呼ばれる人形や、その他にも選手をモチーフにしたフィギュアがいろいろあります。近年は日本の野球界でも流行りだし、販売や配布されています。多くは、人間のそのままの頭身スタイルというより、頭が体部分よりも大きめにディフォルメされていることが多いように思います。
楽天イーグルスも数年前からそういったフィギュアを製作していましたが、それらはずっと、選手にリアルに似せたものでした。2016年、新たな取り組みとして選手をオリジナルでキャラクター化し、それを立体にするという、これまでとは違ったアプローチを試みる企画を担当させていただきました。

※マイアミのマーリンズ・パーク内にある、ボブルヘッドミュージアム。
なによりもまずは元となる選手をキャラクター化するところからです。この作業は、イラストレーターの師岡とおる氏に依頼しました。師岡氏は、私の武蔵野美術大学時代の友人で、様々な分野で活躍されていて、氣志團万博の出演アーティストをキャラクター化するなど、実在の人物をかわいくディフォルメしてくれます。彼のイラストが私も気に入っていたので、この時もお願いしました。
最初にポーズや格好、どういう表情にするかを指定し、選手の顔の特徴などを伝えます。実際にいくつか描いてもらい、顔やタッチをどうするかを詰めていきました。そこから球団にもチェックしてもらい、上がって来たイラストを何度か修正をし、完成させます。
同時に、立体化するにあたって必要だということで、同じポーズの背後面のイラストも用意してもらいます。そこから私が図面的に左右の横からの絵も製作し、バットやヘルメットなど小物のバランスも分かるように指示素材を用意します。
この時は梨田監督を入れて全部で9種類製作する予定だったので、ポーズや格好は全て並べた時にバランスが良いように、同じ打者でも違う見え方となるように進めていきました。

※立体化するにあたって必要な物です。
作り手も感動する業
ここからは立体化に向けての作業になります。原型師の方がその図面を元に型を作りますが、イラストの雰囲気はちゃんとあるか、バランスはとれているかなど、多くのポイントを確認していきます。
この作業がやはり一番大変でした。平面であるイラストを立体にするということで、つじつまが合わない部分が出てきたり、厚みが出る事によってイメージが変わってしまったり。何度も修正していただきました。

※これを見た時にイラストが立体化したことに感動しました。
形がようやく完成し、ここまでくればほぼ終わり…かと思いきや、最後に塗装があり、これもなかなか大変でした。イラストだと輪郭や凹凸部分などは“線”で表現されますが、立体になるとそれらは無くなります。では“目”のフチはどうするのか。イラストでは線で描いてありますが、フィギュアではそれはなくすのか、それとも描くのかなど、確認事項はたくさんあり、何度かサンプルを製作してもらい、完成に向かいます。
最後に収納するボックスをそれぞれデザインしてようやく全ての作業が終了。

※かわいくでき、納得の仕上がり。
初めてのジャンルの仕事で、しかも行程が多かった分、大変でしたが、完成品を見た時には「これもらえるなんて嬉しいなー」と、このフィギュアを手にするファンの一人になってテンションが上がってしまうくらい仕上がりには大満足だったので、実際に喜んでもらえていたら嬉しいです。
配布ユニフォームもそうですが、“タダだからもらう”ではなく、“欲しくなるもの”を心掛けて制作している中で、このフィギュア作りもとても勉強になりました。
二次元のものが本当にちゃんと三次元になったという感動がすごく大きく、またやってみたくなった分野でした。
編集協力:ベースボール・タイムズ
■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。
また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com