ワールドツアーでは選手と審査員は別のホテルに宿泊。基本的には大会期間中の会話も禁止されている。進行役を務めるMC(マスター・オブ・セレモニー)も主催者側から余計なことを話さないようにクギを刺されることも多い。一方のUndisputed Mastersには細かい制約はなく、選手、審査員、MCはフレンドリー。クラブの延長線上のような、良い意味での緩い雰囲気が漂っている。

日本ダンススポーツ連盟の石川勝之ブレイクダンス本部長(ダンサー名KATSU ONE)は「Undisputedはダンススポーツの文脈ではなく、カルチャーの文脈で最高峰の大会。必要以上にMCもしゃべるし、けっこう緩い雰囲気がある。フェアネスを重視するスポーツとは違い良い意味のラフさがある。選手もスポーツの大会には気を張って出場するが、Undisputedには楽しんで出る感じです。この大会で選手が見せた技やDJのかける音のタイミングがスポーツも含めたブレイキン全体のトレンドになったりもしますと語る。

競技は1対1、またはチームでDJ(ディスクジョッキー)がランダムに流すヒップホップ調の音楽に即興で踊りを合わせて、アクロバチックな動きを披露し合い、技術や創造性を競う。ラウンド(ダンサーが交互に踊り合う回数)はイベントによって異なる。

1回に踊る時間は自由だが、通常は30秒から最大でも1分以内。基本技は(1)立って踊る「トップロック」(2)かがんだ状態で足技を繰り出す「フットワーク」(3)頭や肩など全身を使って回ったり跳ねたりする「パワームーブ」(4)ピタッと止まる「フリーズ」の4要素がある。技の難易度、構成、音との調和、独創性などをジャッジする。

「FUJIFILM INSTAX Undisputed Masters Tokyo」はパリ五輪で採用されるソロ(1対1)に加え、団体戦のクルーバトルも実施。世界トップクラスのダンサーが集い、熱戦が繰り広げられた。男子ソロは2022年世界選手権覇者のフィル・ウィザード(カナダ=ダンサー名WIZARD)が優勝し、女子ソロはドミニカ・ベネビッチ(リトアニア=NICKA)が制覇。クルーバトルは 2021年世界選手権覇者の福島あゆみ(39=AYUMI)や2023年全日本選手権準Vの菱川一心(17=ISSIN) が所属する BODY CARNIVALが頂点に立った。

WIZARDは「優勝できたのはうれしいが、正直今回の大会ではバトル中に考えすぎてしまい、自由に表現できない部分があったので、悔しい気持ちも残っています」と心境を吐露。「ブレイキンには2つの顔があり、1つはスポーツ、1つは文化。今回は文化の方のイベントだが、両方に出場することが大事だと思う。(スポーツ側の)五輪関連のイベントでは流される音楽が限られるが、こういうイベントでは幅広い曲が使われる」と説明した。

BODY CARNIVALのAYUMIは非五輪種目でソロに比べて注目を浴びていないクルーバトルに強い思い入れがあることを強調。「今の私があるのはクルーバトルがあるから。今回のイベントでクルーが実施されると聞いて〝絶対に出たい〟という気持ちだった。いろいろな人にクルーバトルの面白さを見てほしい」と実感を込めた。 

日本の第一人者で2022年世界選手権銀メダルの半井重幸(21=SHIGEKIX)は出場を見送ったが、大会アンバサダーとしてバトルに熱視線を送った。即興で音楽にダンスをシンクロさせるミュージカリティーが最大の武器。描画を趣味にするなど日常生活から芸術への感度が高いだけに「今回は勉強するために見させていただいた。自分と違うタイプのダンサーと当たった時に、その人に勝ち進むにはどういうダンスをすればいいのか?勝ち進むにはどういう戦い方をしているのだろう?というバトルの運び方を見させていただきました。今大会のようにパリ五輪の出場権に繋がらない大会も含めて、ダンサーとして色んな刺激に触れていきたい」と収穫を口にした。

Undisputed Masters Tokyoは来年も開催予定。本来のブレイキンの魅力が詰まったカルチャーの面からダンスシーンを盛り上げていく。


VictorySportsNews編集部