【第二回】川淵三郎×池田純。2人の革命児が語るスポーツエンターテイメントの経営と未来

日本のスポーツ界に革新をもたらした、川淵三郎氏と池田純氏。Jリーグ、Bリーグの発足にたずさわり日本のスポーツ界に革命的なインパクトを与えた川淵氏。横浜DeNAベイスターズを5年経営し、横浜スタジアムを買収し黒字転換を達成した池田純氏。分野こそ違えど、両者は共通の視点を持つ。第二回のテーマは「スタジアムとアリーナ」。(取材:岩本義弘 写真:新井賢一)

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インタビュー=岩本義弘、撮影=新井賢一

スポーツエンターテインメントは地域の絆

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池田 僕はスポーツはエンターテインメントビジネスだと思っています。

川淵 うん。全くもって、そうなんだよ。これからの世界のことも考えているだろうけど、やっぱりAI(人工知能)が進んでいくと、これからの20年先というのは余暇の時間が、メチャクチャ増えるわけだよね。機械でカバーする、人工知能でカバーする範囲って、今の仕事の半分くらいになるだろうって言われている。

そうなってくると余暇をどう過ごすかっていうのは、これから一番考えるべきことになるんだよ。スタジアムに行ったらスポーツを見るだけではなくて、みんなと、あるいは年代を超えて楽しめるとかね。その辺りをもっと日本人は考えないといけない。そういう意味では、アメリカに勝てないんだよね。エンターテインメントという意味では、本当にアメリカが進んでいる。ヨーロッパもアメリカには勝てない。先取りしてアメリカのエンターテインメント、みんなを喜ばせる風土というのを学ぶ必要がある。そこはJリーグに足りないところ。

今の時代は池田さんのほうがよく知っていて変わっていくかもしれない。僕の昔の知識で言うと、アメリカの労働者、特にブルーカラーは早朝勤務を反対しないと言う。例えば、7時だったのが6時あるいは5時にすると言っても反対しない。というのも、早く仕事を終えられるから。退社後の時間を地域の中でボーリング大会とか、クラブとかを作って毎日を楽しんでいる。こういう文化は日本にないもんね。

早朝勤務で8時間労働というならば、1時か2時くらいに仕事がだいたい終わっちゃうわけだからね。残業は日本みたいにメチャクチャやるわけじゃないからさ。だから、アメリカでは地域社会の中でみんなが人生をエンジョイしている。日本人とは根本的に違うんだよね。その延長線上でのスポーツ愛好家の多さが際立つ。スポーツの持つ価値をアメリカほどわかっている国はない。わかっているというか、多くの人がその喜びを享受している。そういう意味で日本は全然ダメとしか言いようがない。だけど、これから変わっていくに違いないんだから、余暇をどう潰すのって話題になる。

池田 その余暇もそうですが、働き方も変わってくるじゃないですか。これからは通勤も少なくなっていく時代だと思います。だとすると、その住んでいる地域で過ごす時間が多くなることになります。地域の人たちが心を1つにして遊べる集える絆って、スポーツやエンターテインメントだと思うんです。そこで、スポーツは見せるだけじゃなくて、人が集う場所にもならないといけない。そこで会話が育まれ、地域のみんながスポーツに興味を持ち、さらには子どもたちがスポーツにずっと接しながら育つ。そうすると結果、野球やサッカーがもっと地域に根付いていくと思うんですよ。だから、僕はずっと地域の絆になりたかった。横浜スタジアムはあんなにいい立地にあったのに、閑古鳥が鳴いていたんですよ。

川淵 そうなんだよね。だいたいは、そういう視点がないからなんだよ。試合の時だけ来てくれればいいという考えでは、来ないということがわかってないんだからさ。

池田 ベイスターズでの仕事の最初の頃に、私より前に株式会社横浜スタジアムの社長を退任された鶴岡博社長と野球の独立リーグを見に、アメリカへ行ったんですよ。本当に地域に根づいた数千人規模のちょうどいいサイズの球場で、みんな家族で来て夕飯を食べたり、楽しむために来ていました。野球を見ないで夕飯を食べたりしていて、みんなが集うコミュニティになっていました。しかも試合をやっているのに、監督が「こんにちは」ってあいさつに来るんですよ。試合中の真っ最中ですよ。誰が采配をやっているんだって(笑)。これがスポーツエンターテインメントであって、スポーツの絆であって、みんなが普段からそのチームのことを気にするきっかけになる。ああいう文化にならないといけない。

川淵 日本はそういう面でのエンターテインメント性というのが、ほとんどゼロに等しいと言ってもいいんじゃないの? もっと可能性があることに気づかないといけない。今度の有明アリーナ問題でも、ただ単に横浜アリーナをオリンピックのバレーボール競技に使用すれば、有明にかかる予算が削減できる。将来のスポーツの発展、未来への投資というのをまるで考えていない。東京都にとって、大型集客施設が一番必要だということをわかってない。僕はそれを言っているわけだ。本当にわかってないんだよ。

有明アリーナ問題に対する提言

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(写真=2012年7月に開催されたバスケットボールの国際親善試合で、キスカムに映し出されたオバマ前大統領夫妻)

池田 僕はスポーツでも、ライトや音はすごく大切だと思うんですよ。リオデジャネイロオリンピックも見に行き、いろんなものを見ました。オリンピックって、もっと厳かなものかと思っていたんですよ。そしたらキスカムがあって、ボクシングの試合中にラウンド間でキスをしている。オリンピックって、こんなことをやっていいんだって思いましたね(笑)。それに、すごい音量で音楽を鳴らして、みんなが踊っている。日本のオリンピックのときにもせっかく施設に大きなお金をかけるなら、音とかライトとかにも思い切って新たな視点で投資をしていけば、その先のスポーツの見せ方、楽しませ方も変わってくると思います。すごくいいタイミングだと思うんですよ。その辺りのエンターテインメント性がもっと欲しいですよね。

川淵 今回の有明アリーナ問題を考えたとき、結局スポーツ界だけでペイするのは、現状では難しい。音楽業界と絡めば、黒字になることは絶対に間違いない。それで、関係者を探せってことで、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会に行き着いたんだ。「100億円、200億円を投資していいですよ」って関係者が言っているので、僕はビックリしちゃったんだよね。それだけ大型の集客施設が東京にはないということなんだよ。

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(写真=「有明アリーナ」の建設について記者会見する日本トップリーグ連携機構の川淵三郎会長(中央)ら)

池田 オリンピックとして混ぜこぜで議論されてしまうと、箱物投資の是非になってしまうので、私は別の議論が必要だと思うのですが、エンターテイメントのための箱が足りないんですよね。

川淵 そう。箱がない。日本では箱を作ることがいかにも悪であるかのように、マスコミも世間も反応する。ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンみたいな、あるいはロンドンにあるような大型の集客施設がないことが、文化交流という意味で世界一流の都市と比べて東京は低迷しているんだよね。オリンピックを機会にそういうものができることで、その施設だけが発展するのではなく、その周辺にレストランやホテルができて世界中の人が来るようになる。そういう背景を元にニューヨークのブロードウェイみたいなものが出てきたらいい。日本にはないもんね。

【第四回】川淵三郎×池田純 スポーツエンターテイメントの経営と未来

第4回となった川淵三郎氏と池田純氏の対談では、日本スポーツ界への具体案を提示。スポーツ経営を引っ張る2人の具体案とは——

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岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。