インタビュー=岩本義弘、撮影=新井賢一

【第一回】川淵三郎×池田純。2人の革命児が語るスポーツエンターテイメントの経営と未来

日本のスポーツ界に革新をもたらした、川淵三郎氏と池田純氏。Jリーグ、Bリーグの発足にたずさわり日本のスポーツ界に革命的なインパクトを与えた川淵氏。横浜DeNAベイスターズを5年経営し、横浜スタジアムを買収し黒字転換を達成した池田純氏。分野こそ違えど、両者は共通の視点を持つ。2人が危惧する、日本スポーツ界の未来とは。(取材:岩本義弘 写真:新井賢一)

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スタジアム買収は野球界変革のきっかけ

川淵 自分たちのアリーナとかも持たないとね。全体の経営という視点から見た場合、現状ではやはり大きな利益を上げられないよ。読売ジャイアンツも東京ドームから離れたいというのも、そういうことがあるわけだからね。DeNAになる前のベイスターズもなかなか利益が上げられなくてね。前に優勝したのは何年前だったかな?

池田 1998年です。

川淵 その時にね、当時の社長と話をさせてもらった。ちょうどJリーグのチェアマン時代で、どんな経営の内容なんだというのをつぶさに見せてもらった。その時に初めて売上が100億円を越えたくらい。優勝してだよ! それで、ようやく15億円くらいの黒字になったとのことだった。それまでは悲惨な売上で利益なんて上がらなかったという話を聞いて、そんなものかってビックリした覚えがある。その前に、マルハニチロがチーム名から企業名を外すということで、横浜という都市名を付けたのはベイスターズが初めてでね。それで野球界全体が変わるなって、僕はすごく期待したんだけど全然変わらなかった。そういった中で、黒字経営をするのは結構きついだろうなと思っていた。親会社がどういう形で応援していたのかは知らないんだけどさ。今度はDeNAに経営権が変わり池田さんになって、スタジアムも自分のものにしないと変わらないし黒字化しないと言って、全体の経営を考えてそれを当然のこととして動いていると聞いていた。けれど、そんな苦労があるとは知らなかった。もっとも株主が3人とか、4人くらいだと思っていた。横浜市とどこかくらいかなと……。それにしても、割合安くスタジアムも買収できたなって、すごく驚きだった。だけど、そんなに株主の数がいたら余計に大変だったでしょう。普通はできないよね。諦めるよ。

池田 ベイスターズが友好的TOBで買収をするとなったときにも、株式会社横浜スタジアムにある100億円超くらいの現預金について横浜中で侃々諤々(かんかんがくがく)ありました。仮に、全部の株式が買い取れたとしても100億円くらい。それで、買った会社に買収で使う全額以上の100億円位のお金があるのだから、それを今後どう投資していくのかということもみなさん興味がありました。だから、未来のスタジアムの絵を見せながら買収したんです。それは、壁をぶち抜いて、街を見えるようにして、メジャーリーグみたいな格好いい球場にしていくので、我々に経営を任せてくださいって説明をしました。

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横浜スタジアムの活用事例

川淵 あそこのそばには、僕がサラリーマン時代に出向したことのある問屋があってね。そこを2年間で立て直したんだよ。毎日、あの横を通って出勤していた。横浜スタジアム周辺には、すごくスペースがあるだろ? どの辺りのスペースまでスタジアムの権利として認められているのかなって思っていた。たぶん、スタジアムの敷地内だけなんだろうけどさ。それにしてもずいぶんスペースがあるから、ものすごく使いようがあるなって思いながら、いつも通っていたんだよ。あんなにいい立地条件のところは、めったにないからね。

池田 そうですね。野球に興味のない普通の人にはお金を払ってから横浜スタジアムのコンクリートの壁の中に入ってもらって、野球場を楽しんでくださいっていう形。けれども、僕らにはそういった野球に興味のない人たちと接点がなかったので、横浜スタジアムのコンクリの壁の外でもいろいろと無料で楽しんでもらおうと考えました。公園だから横浜市民に無料で楽しんでもらおうと。あそこは公園なんですよ。

川淵 公園なんだよなあ。

池田 横浜公園っていう在横浜市の公園なんです。公園なので市民が求める形を作れば、あまねく万人に楽しんでもらえるようにすれば使えるというか、許諾されやすいんです。そこで、大阪城の周りの公園とかで先行事例を早めに作っていました。行政も先行事例があると認めやすい。いろんな行政の人たちと話をし勉強して、横浜スタジアムの周りの横浜公園内に市民のためのビアガーデンとか、動物を持ってきて動物園をやったこともありました。そういうのを行政に認めてもらいながら広めていきました。それで2年前かな、さらに後ろの横浜の歴史物の建物があるんですけど、旧関東財務局といって、それの指定管理もさせてもらうことになりました。物理的なものとメンタル的なもので、球場のスペースをどんどん大きくしていったんですよ。

川淵 メジャーリーグはほとんどのスタジアムで、中に入ってからではなくスタジアムの外側からエンジョイできる雰囲気になっている。そこで、子どもたちと1時間くらい遊んだ後に試合を見て、終わった後もそこでエンジョイしている。日本でいうと、ようやく広島カープがやり始めたボールパークなのかな? 僕は見ていないからわからないんだけど、どちらかというと甲子園などの他の球場は中だけ。そのように外側から変えていくということは、日本のプロ野球界が大きく変わりつつある部分かなと思って見ていたんだよね。そういう意味では、横浜の公園の活用っていうのは市がどの程度を認めるのかなと思っていた。

池田 今見ていただくとわかると思いますが、かなり認めてもらっています。野球をやっている日もやっていない日もカフェとか出させてもらって、そこでベイスターズオリジナルのビールも作って販売も始めたんですよ。それがインターナショナル・ビアカップで銀賞を取りました。そういうのも野球のない普段から公園で提供させてもらって、だいぶにぎわいができました。

川淵 僕もJリーグがスタートする時にいろいろなことをやったけども、それを考えているのが楽しいんだよね(笑)。

池田 人を楽しませる前に、まず自分が楽しいじゃないですか。

川淵 そう。結局、そうなんだよね。

池田 こんなことをやったら、みんなに喜んでもらえるかもって思いながらずっと考えていました。僕は、すでにあるものを出すのは嫌なんですよ。ビールもラベルだけを貼り替えて出すとかが、もう嫌でした。どうせ楽しんでもらうんだったら自分らでビールを作りたいし、選手にも味見させたいし、そうやって作ったビールを出したい。それを野球のない日でも、公園中でみんながピクニックをしてキャッチボールしながら飲んでもらったら楽しいじゃないですか。

川淵 そうだよね。

【第三回】川淵三郎×池田純 スポーツエンターテイメントの経営と未来

川淵三郎氏と池田純氏の対談も第3回目を迎え、いよいよスポーツの未来を語り出す。2人が体験したアメリカでの事例から、日本スポーツ界への提言が始まる。

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岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。