文=生島淳

トランプに寄付をしたオーナーがフランス大使候補に

 2月中旬、メジャーリーグをめぐる報道で、「マーリンズ」「売却」「トランプ一族」「寄付」「フランス大使」という単語が並んだ。

 ニューヨークの新聞が、イチローと田澤純一がプレーするマーリンズが、球団の売却に動いているということを報じたのだ。

 そこからの展開が「トランプ劇場」と関連してくるところが面白い。

 まず、マーリンズのオーナーであるジェフリー・ローリア氏は、昨年の大統領選でトランプ陣営に12万5000ドル(約1425万円)を寄付したのだが、このたびフランス大使の候補に名前が挙がっていると報道された。そして彼が所有するマーリンズの売却先として挙がったのが、ニューヨークの不動産開発業者。報道によれば、売却額は16億ドル(約1805億円)にのぼるという。

 ところが『ニューヨーク・タイムズ』は、マーリンズの交渉相手が、トランプ大統領の親戚だと報じた。その交渉相手が、娘イヴァンカさんの婿にして、大統領上級顧問のジャレッド・クシュナーの弟、ジョシュア氏が中心を担っていると伝えたから、話がややこしくなってきた。要は、トランプ大統領の娘婿の弟が、マーリンズとの交渉の窓口だったというのだ。

 フランス大使としての噂もある大口の寄付者と、トランプ陣営の親戚がビジネスをしようとしている――。怪しい。アメリカのメディアが、こうしたグレーな取引が行われようとしているのを見逃すはずはない。特に、メジャーリーグの球団は公共性が高いから、こうした情報に敏感なのだ。政治とカネの結びつきが匂ってしまっては、取引は"OUT"だ。

マーリンズの売却意思に変わりなし

©Getty Images

 2月17日、マーリンズのサムソン球団社長は、クシュナー一族への球団売却は破談になったことを明かしつつ、いまだにマーリンズを売却する意志があることを明らかにした。

 このニュースで気になったのは、球団の買収に関して、トランプ大統領の意志が反映されたかどうかということ。

 大統領は高校時代、強打者として鳴らした一塁手だったし、野球は好きなはず。しかも、アメリカン・フットボールのチームのオーナーだったこともあるから、スポーツ・ビジネスに興味があるのも間違いない(プロレスも)。果たして、親戚に耳打ちしたのかどうか……。

 そしてもうひとつ、マーリンズの今後も気になる。もし球団が売却されるとなると、経営陣の刷新、さらには監督人事や、補強方針にも影響が出てくる。そうなれば、2年契約の田澤はともかく、単年契約のイチローにとっては微妙な状況が出来(しゅったい)する可能性もゼロではない。今後とも、マーリンズ売却についてのニュースからは目が離せなくなる。

 それにしても、トランプ政権は、いろいろな意味でびっくりさせられっぱなしだ。政権を担当するようになっても、なかなかディール(取引)を進めるクセが、大統領だけでなく、周りのスタッフも抜けないのだろう。とにかく、マーリンズがトランプ一族と関わりを持つことがなくて、ホッとした気分である。


生島淳

1967年、宮城県気仙沼生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務のかたわら、取材・執筆活動に携わる。1999年に独立。NBAやMLBなど海外ものから、国内のラグビー、駅伝、野球など、オールジャンルでスポーツを追う。小林信彦とD・ハルバースタムを愛する米国大統領マニアにして、カーリングが趣味。最近は歌舞伎と講談に夢中。