[CLOSE UP]太田敦也(三遠ネオフェニックス)地味な役割を一手に引き受けチームを輝かせる『黒子のバスケ』の誇り
外国籍選手とのマッチアップに「NBA出身とか関係ない」 206cm112kg、太田敦也はその日本人離れした体格を武器に、主戦場となるペイントエリアで存在感を示し続ける数少ないセンタープレーヤーだ。Bリーグ第25節、サンロッカーズ渋谷との対戦では元NBAプレーヤーのロバート・サクレと激しいマッチアップを繰り広げた。 「1戦目は結構取られました」と言うようにサクレに22得点を許した。だが、第2戦では20得点を許しながらも、マッチアップとしては『完勝』し、チームも勝利。「右フックやシュートはうまかったですが、分かりやすい特徴もあったので『やりたいことをやらせないように』との意識でプレーしました」と語る。 『元NBA』との対戦に気合が入ったかと尋ねると、食い気味に「全然ありましたね、NBA出身とか関係ないですよ」と笑みをこぼす。 外国籍選手が3人まで同時に出場できた旧bjリーグで8シーズンを過ごしてきた太田にとって、外国籍選手とマッチアップすることは日常茶飯事だ。その背景もあり「いい加減、日本人とやらしてくれよと思います」という言葉が飛び出す。 Bリーグの『オン・ザ・コート』ルールによって外国籍選手の出場機会は減ったが、その分、個々のレベルは高くなった。「Bリーグになってから、外から中までいろいろなことができる多彩な選手や、デカい選手が多くなったので、bjの時よりは数段上のレベルの選手が来ています」というのが直接戦いを繰り広げる太田の実感だ。 それと同時に、オフェンス時に日本人選手とマッチアップする機会も増えた。「相手より身長で勝っている分、自分のアドバンテージで点数を取っていかないと」と得点への意識は高くなったという。その結果、平均得点はキャリアの中で一番高い数字(7.2)を残している。 日本代表に必要となる純粋なセンタープレーヤー 不動のセンターとして日本代表を背負ってきた太田は2020年の東京オリンピック出場に意欲を燃やしている。「オリンピック出場はバスケットを始めた時の夢だったので、どうしても出たいです。出たいだけではいけない。結果を残して、できれば自国開催の枠ではなく自分たちの力で出たい」 2020年には36歳となるが、「オッサンですけど若いものに負けちゃいけないと思ってます」と代表を牽引してきたプライドをのぞかせた。 太田とともに日本のセンターポジションを長年支えてきた竹内公輔や竹内譲次のように、外角のシュートに長けた日本人ビッグマンが増えてきている。その中でペイントエリアで身体を当てて泥臭い仕事を一手に引き受ける純粋な5番の存在はなかなか出てこない。 太田はそんな選手の登場を望んでいる。「地味ですけど、裏から影から支える精神を持っていて、当たり負けしない体重があるガッチリした体格を持った選手が出てきてくれるとうれしいですね。それでいて仲間のために気を遣えるやつが一番いいかなと」 それはまさに太田なのだが、その『後継者』となると難しい。むしろ今の若いビッグマンは、器用さを生かした幅広いプレーを武器にしようと考え、場合によっては4番、3番とポジションを下げようとする。『ペイントエリアが主戦場』という覚悟を持った選手がいないのが日本の現状だ。 「スポットは大貴とか比江島あたりに当てておけばいい」 センターの役割が重要であることは誰もが理解しているが、地味で注目を浴びることの少ないポジションでもある。太田はいつものくだけた感じでこう言う。「スポットが当たるのは2番と3番で、(田中)大貴とか比江島(慎)あたりに当てておけばいいんです」 それと同時に、太田には純粋なセンタープレーヤーとしての誇りと喜びがある。「昔からそれが必要だと思っていて、むしろ喜びを見いだしています。自分が点を取るより、誰かが『このスクリーンのおかげで得点が入った』とか言ってくれる方がうれしいです」 『アシストのアシスト』としてスタッツには残らない貢献が太田の魅力であることは間違いない。「スタッツを見て『何もしてないじゃん』って怒られますけどね。だけど『良い仕事してるね』って一言もらえるようなプレーがやれた時はうれしいです」 スポットライトを当ててほしくはないかと尋ねると、「僕はないです、むしろ当てないでほしいです。モザイクかけてください(笑)」という自虐コメントで爆笑を誘った。 そしていつもの柔和な表情に戻り、「黒子の方がいいです」と言う。その言葉は彼の『縁の下の力持ち』の人間性を表現していた。 3ポイントシュートやダンクシュートといった派手で目立つプレーが、観客にとって一番楽しめる要素であることは間違いない。だが、太田のような地味ながら重要なプレーの数々にも注目してもらいたい。そして渋い活躍を見せた時には「良い仕事をしたね」と一言投げかけてみてはどうだろうか。
文=丸山素行 写真=足立雅史、野口岳彦、B.LEAGUE