文=李リョウ

「テクニックがさらに進化した!」。世界中のサーファーが大騒ぎ

 今年もサーフィンの世界チャンピオンを決めるCT(チャンピオンズトーナメント)が3月よりサーフィン大国オーストラリアでスタートしました。ゴールドコースト、西オーストラリアそしてビクトリアと3つのエリアで毎年行われている3連戦は、オーストラリア・レッグとも呼ばれ、今後のタイトルレースの行方を占う上でも重要な戦いとなっています。

 さて、すでに消化された3連戦の結果を先にお伝えしましょう。第1戦のクイックシルバープロはオーウェン・ライト、そして第2戦のマーガレットリバープロでは現世界チャンピオンのジョンジョン・フローレンス。そして第3戦のリップカールプロでは世界ランク2位のジョディ・スミスがそれぞれ優勝しました。

 今年は3戦ともに波に恵まれたために世界最高クラスのパフォーマンスが次々に飛び出し、SNSなどではサーフィンのテクニックがさらに進化したと世界中のサーファーたちが大騒ぎしています。そのすばらしいハイパフォーマンスのいくつかをピックアップして分かりやすく解説してみたいと思います。ちなみにサーフィンのコンテストは選手がヒート時間内に波に乗り、ジャッジがその技を採点します。各選手は乗った波のうちの2本の波の合計で競われます。1本の波の最高得点は10ポイントです。

CT第1戦/優勝オーウェン・ライト

 ハワイのパイプランで頭部に怪我をして引退を危ぶまれたオーウェン・ライトが今シーズンの第1戦から復帰し、みごと優勝という快挙を達成しました。そのオーウェンが第3ラウンドのヒート8で披露したバックサイド・オフザリップ(波を背にしたスタンスで、崩れてくる波頭にサーフボードをヒットさせるテクニック)は彼の好調さを示すには十分でした。

 トップターンの一種であるオフザリップはそのターンの角度やスナップするときのキレとサーフボードがどのくらい波から突き出るかが採点の基準になります。オーウェンは映像では波にテイクオフしてからサーフボードを小刻みにターンして加速させ、ほぼ垂直のオフザリップを3発決めて8.10というエクセレントスコアを叩き出しました。ちなみにオーウェンは身長190cm体重が80kgというCT選手の中でも大男ですが、スモールウェーブのサーフィンでも定評があります。

 次は第3ラウンドのヒート7でハワイのイジキール・ラウによるパーフェクト10です。チューブのなかに消えたラウが再びチューブの外に現れて観客からの喝采を浴びています。

 チューブの採点はチューブの大きさと、チューブをサーフした深さや距離が基準になります。今回の試合のスナッパーロックスは、波は良かったのですがチューブを形成する波が少なかったためにこのラウのチューブライディングは貴重という意味からも高得点を得ることができました。

 次もパーフェクト10の技で、これはブラジルのイタロ・フェレイラが第2ラウンドのヒート7で披露したエアーです。バックサイド(波を背にしたスタンス)で空中に飛び出して360度水平に回転しノーグラブ(サーフボードを掴んでいない状態)で着地をみごとに成功させています。空中での高さもあり、技の完成度も高く文句なしのパーフェクト10ポイントと言えます。

 さて、以前のコラムでサーフィンのコンテストの採点基準の対象は大きく分けてターン、チューブ、エアーと申し上げましたが、これまで紹介した映像をご覧うただければその3つがご理解いただけたかと思います。ターンは波に乗って一度のターンだけでは10ポイントを得ることはまずないのですが、チューブとエアーでは一発の技で10ポイントを叩き出すことがあり、残りの数秒で逆転というドラマが起こるときがあります。

CT第2戦/優勝ジョンジョン・フローレンス

 昨年待望の世界王座を獲得したジョンジョン・フローレンス。世界タイトルを手にする以前から彼は実力世界一という評価を受けていました。どんな波でも自在に乗りこなすジョンジョンですが、その真骨頂は波のコンデションがタフになればなるほど真価を発揮するというところでしょう。

 昨冬のハワイでエディアイカウ・メモリアルというビッグウェーブの試合でも優勝していて、現在もっとも旬な選手と言えます。その彼がこの試合でその真価を発揮しました。試合中のマーガレットリバーはハワイのように波が大きく他のCT選手が乗りこなすだけで苦労しているなか、ジョンジョンはまるでスモールウェーブで遊んでいるかのようなサーフィンを披露しています。

 映像は第4ラウンドのヒート2で彼は9.73というほぼパーフェクトに近いポイントを出しています。でこぼこしたバンピーな波のフェイスをものともせずに鮮やかに披露するターンはもはや彼だけが別の次元でサーフィンをしているような印象を世界中に与え大きな話題になりました。ズームアップのスローモーションをご覧になればその高度な技が理解できると思います。

CT第3戦/優勝ジョディ・スミス

 昨年のCTランキングで第2位になった南アフリカのジョディ・スミスは最も世界タイトルを渇望している選手といえるかもしれません。彼の実力からすれば世界チャンピオンになっても不思議ではないのですが、怪我に泣いたシーズンもあり、いまだ無冠。でも昨シーズンはハワイでも勝ちその好調さをオーストラリアでも維持しているようです。そのジョディがファイナルで叩き出した9.77ポイントです。

CTウイメンズ第1戦/優勝ステファニー・ギルモア

 世界タイトル6度という驚異的な強さを誇る女王ギルモア。2014年を最後にタイトルからは遠ざかっていましたが、2017年シーズンは初戦から復活を証明するかのようにすばらしいパフォーマンスを披露して優勝を勝ち取りました。

 その彼女がクォーターファイナルのヒート4で披露したパーフェクト10です。その3発連続で成功したフロントサイド・オフザリップ(波と向かい合ったスタンス)はスピード、サーフボードの飛び出し角度とそのキレとどれをとっても完璧に見えます。そしてオフザリップ後に落下してボトムに着地しているのが映像でも分かります。それだけ彼女が波のクリティカルなポジション(波のぎりぎりな位置)でオフザリップを成功させているのからです。

 さてオーストラリア・レッグが終了し現在のランキングは1位がジョンジョン・フローレンス、2位はジョディ・スミス、3位オーウェン・ライトという順位です。2014年の世界チャンプ、ガブリエル・メディナは現在11位、そして世界タイトル11度という偉業を成し遂げているケリー・スレーターは13位。日本人の母を持つオーストラリアのルーキー、コナー・オレアリー13位、そして日本期待のカノア五十嵐は29位です。

 それでも今年のシーズンはまだ始まったばかりで残りは8戦残っていますからこれからも順位は大きく変動していくでしょう。ウイメンズは3戦で1位3位2位と好調を持続したステファニー・ギルモアがランキングトップ、昨年のチャンピオン、テイラー・ライトは3位につけています。

 次のCTは5月9日からブラジルのリオデジャネイロで開催されるオイ・リオプロです。その後はフィージーのタバルア、そして南アフリカのジェフリーズベイへと続いて行きます。

All video footage are used from worldsurfleague.com
出典ビデオ映像 worldsurfleague.com


李リョウ

サーフィンフォトジャーナリスト。世界の波を求めて行脚中に米国のカレッジにて写真を学ぶ。サーフィンの文化や歴史にも造詣が深く、サーファーズジャーナル日本版の編集者も務めている。日本の広告写真年鑑入選。キャノンギャラリー銀座、札幌で個展を開催。BS-Japan「写真家たちの日本紀行」出演。自主製作映画「factory life」がフランスの映画祭で最優秀撮影賞を受賞。