両親は日本人だが、本人はカリフォルニア生まれのカリフォルニア育ち。2つのアイデンティティを持つ彼は、「両親が喜ぶから」という理由で、日本人として東京オリンピックに挑戦することを決めた。まだ21歳と経験がモノを言うサーフィンにおいてはキャリアが長いとはいえないが、その実力は世界が認めている。目指すはもちろん金メダルだと、彼自身が公言する。

「僕が金メダルをとりたいと願うのは、決してメダルがほしいからではありません。僕は子どものころから試合や練習のために世界を回ってきましたが、そのなかですべての国や人がハッピーなわけではないという現実を目にしてきました。貧困のためにビジネスが優先され、そのために海が汚されていたり、国や民族の間に争い事が絶えなかったり。僕はずっと海の中で過ごしてきて、そこには国境や差別がないことを知っています。もし金メダルをとることができたら、僕にもメッセージを発する機会が与えられるはず。そのときに僕がサーフィンを通して学んだ大切なことを世界中に伝えていきたいんです」

自分のことを語るときは、少しシャイな印象だった。だが、金メダルの“価値”については、しっかりと前をむいて力強く話す。その胸に秘めた思いがかなり熱いことが伝わってきた。もちろん金メダルをとることがそれほど容易でないことは、彼がいちばんわかっているだろう。

「すばらしい選手がたくさんいるし、自分自身の力だけでなく、その日、その海の波との相性もあります。どんなに実力があっても絶対がないのが、サーフィンなんです。だからこそ、僕はいま自分の人生のすべてをサーフィンに捧げています。トレーニングはもちろん、食事も睡眠もすべてサーフィンのため。海にいないときも常にサーフィンのことを考えています。ただそれはそんなにつらいことではありあせん。僕にとって、サーフィンはいちばんリラックスできる“遊び”なんです。ゴルフもドライブもスケートボードも好きだけど、サーフィンをやっているときがいちばん楽しいと感じられる。こんなに楽しいことばかりやっていていいのかなと不安になるときもあるくらいですから(笑)」

サーフィンのどこがそれほど楽しいのか? そう質問すると、まったく視界のない深夜の海でサーフィンをしたときのことを語ってくれた。

「海のなかも上も、ほとんど光がないなかで波を捕まえようと思うと、全身の感覚だけが頼りになります。そのなかでサーフィンをしていたら、普段以上に自分と海がつながったような感覚になりました。サーフィンのいちばんの魅力は、そうやって海と一体化できることだと思います」

そういって、まるで子供のような笑顔を見せる五十嵐カノア。それだけではないと、さらにサーフィンの魅力を語り続ける。

「サーフィンのおかげで世界を旅して、たくさんの友だちができた。世界中に海があって、友だちがいる。大好きな海のなかで、自分の成長を感じることもできる。サーフィンがこんなに楽しく、すばらしいスポーツだということをオリンピックを通して、日本の人、世界の人に知ってほしい。そしていつかは、伝説のサーファー、僕にとっても憧れのケリー・スレーターのような存在になれればと思っています」

チャンピオンシップツアーの開幕戦は、残念ながら準々決勝での敗退となった。だが、東京オリンピックへの道はまだ始まったばかりだ。金メダルのその先へ――。五十嵐カノアの挑戦に注目していきたい。

ケリー・スレーター(C)Getty Images


「サーフィンのおかげで世界を旅して、たくさんの友だちができた。世界中に海があって、友だちがいる。大好きな海のなかで、自分の成長を感じることもできる。サーフィンがこんなに楽しく、すばらしいスポーツだということをオリンピックを通して、日本の人、世界の人に知ってほしい。そしていつかは、伝説のサーファー、僕にとっても憧れのケリー・スレーターのような存在になれればと思っています」

チャンピオンシップツアーの開幕戦は、残念ながら準々決勝での敗退となった。だが、東京オリンピックへの道はまだ始まったばかりだ。金メダルのその先へ――。五十嵐カノアの挑戦に注目していきたい。


VictorySportsNews編集部