両親の影響で3歳からサーフィンを始めた彼は、14歳でUSA Championship U-18を史上最年少優勝。2016年からは、史上最年少、アジア人として初めてWSL チャンピオンシップツアー2016に参戦すると、徐々にランキングをあげていき、優勝も果たした昨年の世界ランキングは10位。いうまでもなく、日本人がトップ10に入るのは史上初めての快挙だ。

驚異的なのは、まだ21歳ということ。20歳代後半から30歳代がピークといわれるサーフィン界において、この年齢で上位にいて、年々着実に成績を上げている。多くのサーフィン関係者が彼を「いずれ世界チャンピオンになる男」と言うのも当然と言えるだろう。彼自身も目標として公言しているが、1年後の東京オリンピックで初めて競技種目となったサーフィンの初代ゴールドメダリストになるというのも決して夢のような話ではない。

昨年彼にインタビューする機会があった。身長は180センチで胸板は厚い。だが世界レベルのアスリートとしては、決して大きいとはいえない体格。やさしげでさわやかな顔立ちとあいまって、カリフォルニア育ちとはいえ、やはり日本人だということを感じた。彼に日本人としてのアイデンティティについてきいてみた。

「僕の意識としては、日本人であり、アメリカ人。2つのアイデンティティを持っています。カリフォルニアで生活していると、誰がどこの国の出身ななんて気にすることはありません。僕の場合、家族と話すときはいつも日本語だし、ご飯は日本食が中心。玄関では靴を脱ぎますよ(笑)。でも外に出たら、言葉も習慣もアメリカ流。本当は、オリンピックも2つの国旗を持ちたいけど、2020年は日本人として出場します。両親も喜んでくれますから」

日本語は少したどたどしい。年齢より若く見えるのも日本人ならではといえるだろう。彼と話していると、日本で生活しているわれわれよりも日本人であることに誇りを持っているのではないかと思えてくる。

「サーフィンをやるうえで、日本人であることにハンディはありません。むしろいいことのほうが多い。クイックネスはあるし、サーフィンに対して、論理的に考えられるのも、日本人だからだと思っています。肉体的なことをハンディだというのは、言い訳だと思う。そんなふうに言い訳を用意するから自信がなくなって結果も出ない。テニスの錦織圭選手もメジャーリーグの大谷翔平選手も当たり前に世界で戦っているじゃないですか。日本人だからとか関係なく、しっかり練習すれば世界と戦えるようになる。僕らを見て育つ日本の子どもたちが自信を持てるような存在になりたい。それが僕のモチベーションになっています」

日本におけるサーフィンは、ながらくレジャーとして存在してきた。それがスポーツとして、どんな魅力を伝えることができるのか。サーフィン界にとってもオリンピックは大きな挑戦になる。その起爆剤として注目を集める五十嵐カノアには、オリンピック後の夢もある。21歳の彼にとって、東京オリンピックはあくまでも通過点に過ぎないのだ。


VictorySportsNews編集部