文=座間健司

ファンの91%はイスコ起用を支持

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「マドリーとユベントス、どっちだと思う?」

 バルセロナにいる僕の周りのスペイン人の返答は様々だ。

「ユベントスに勝って欲しい。だけど、チャンピオンズリーグを連覇できるとしたら、するのは世界でもレアル・マドリードくらいしかない」

「僕はバルセロニスタで予想というか、希望込みになってしまうけどユベントスだ。ただユベントスはメンバーは悪くないけど、ハメス・ロドリゲスやイスコがイタリアのチームのベンチに座るかと言えば、彼らは絶対スタメンだろうね」

「マドリーはユベントスに苦労するだろうけどさ・・・」

 バルセロナを応援するサポーターにとって、レアル・マドリードは憎きライバルだが、宿命の敵がゆえに、彼らは相手のチーム力を正確に把握している。だからこそ好き嫌いという理由だけで無邪気にユベントスの勝利を予想したりはしない。バルセロナがコパ・デル・レイを制覇した後は、知り合いとは挨拶と同時にチャンピオンズリーグ決勝予想を話すのがお決まりとなっており、彼らとの日常会話からはいつもバルセロニスタの複雑な心中が透けて見える。

「疑いなくレアル・マドリードが決勝の優勝候補だ」

 そうユベントスのアレグッリ監督は会見で公言したが、僕の周囲のバルセロニスタの大半もそう思っている。メンバー、選手の名前だけを並べれば、スペインのチームに分がある。バルセロナ寄りの地元メディアは昨シーズン、退団したダニエウ・アウヴェスの活躍を期待するよう記事を組むが、同時に「なぜあれだけすばらしいサイドバックを無料で放出したんだ?」という批評も忘れない。

 レアル・マドリードについての関心事はただひとつだ。

「イスコか、ベイルか」

 スペインの地元スポーツ紙だけでなく、一般紙もチャンピオンズリーグ決勝の報道はこの1点に集約される。ジダンが「イスコとベイルは一緒にプレーすることもできる」と会見でスタメンをはぐらかしても、ベイルが「僕は100パーセントではないし、90分プレーするのは難しいと思う」と話しても、彼らのコメントを取り上げるだけで、推測は続けられている。

 スペイン紙『アス』は2万9,131人のインターネットアンケートの結果を載せ、「ファンはイスコの方を望んでいる」と報じた。投票の91パーセントが「イスコが決勝でプレーすべき」という回答で、ベイルは9パーセントだった。地元メディアもイスコを推し、ジダンは負傷上がりのベイルを先発で起用するというリスクは犯さないはずだと伝える。

 イスコは今シーズン、リーガでローテーションによりロナウドら主力を温存したゲームで、得点を決めるなど決定的な仕事をこなすだけでなく、印象的なパフォーマンスも披露した。ベイルの負傷もあり、終盤はスタメンで出場し、ロナウドらにも劣らないプレーで、5シーズンぶりのリーガ制覇の立役者の1人となった。

 一方のベイルは負傷がちで、ロナウドの次のエースと呼ばれるポテンシャルも移籍金に見合うパフォーマンスも示していない。サポーターの投票結果が、2人の今シーズンの立ち位置を物語っている。

クラシコで負傷明けのベイルが起用された理由

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 このように普通であれば、先発で起用されるのはイスコのはずだ。しかし、レアル・マドリードにはフロレンティーノ・ペレス会長がいる。彼は高額の移籍金を払い獲得したベイルを、ロナウドの後継者、つまり次の時代のアイコンにしたいと考えている。今シーズン、サンティアゴ・ベルナベウで行われた“エル・クラシコ”では、好調だったイスコではなく、負傷上がりのベイルが先発に起用されたが、目立った活躍はできず。それだけでなく、負傷のため前半で交代した。そのゲームはメッシにラストプレーで決勝点を決められ、敗れている。マドリディスタにとっては、一刻も早く忘れたい“エル・クラシコ”となった。

 ベイルや同じく負傷上がりのベンゼマが先発で起用されたのは、フロレンティーノ・ペレス会長からの要請があったからと言われている。スペイン最大の建設グループを経営する敏腕のビジネスマンは、フットボールクラブの運営にも企業経営と同じやり方を持ち込んでいると度々批判される。なぜなら現場の意向ではなく、度々マーケティングを優先するからだ。遠い昔にベッカムを獲得すると同時にマケレレを放出し、ビセンテ・デルボスケが創り上げたバランスのいいチームは崩壊したのが、典型的な例だ。そんな会長の考え方を警戒するように地元メディアは、イスコの先発起用を盛んに訴えている。なぜならベイルよりもイスコがプレーした方が、レアル・マドリードの勝利の確率が上がると考えているからだ。

 今年のチャンピオンズリーグ決勝の舞台は、ベイルの生まれ故郷であるウェールズのカーディフだ。地元で開催される欧州の最高の舞台に地元出身者が立つ。ストーリーがあり、話題性がある。マーケティングとしては持ってこいの素材が揃っている。

 フロレンティーノ・ペレス会長は、どんな決断を下すのだろうか。


座間健司

1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中からバイトとして『フットサルマガジンピヴォ!』の編集を務め、卒業後、そのまま『フットサルマガジンピヴォ!』編集部に入社。2004年夏に渡西し、スペインを中心に世界のフットサルを追っている。2011年『フットサルマガジンピヴォ!』休刊。2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。