構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

筒香ならいますぐ社会に出ても通用する

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──現在の現役プロ野球選手が、いますぐ実社会に入っていくとしたら、普通に通じるのはどれくらいの割合だと感じていますか?
 
中畑 うーん、半分もいないんじゃない?

──半分もいないですか……。

中畑 まあ、どこまでのラインを「通用する」と判断するかは状況にもよるけどな。でも、「絶対に大丈夫だろう」という裏付けを感じさせてくれるのは、最近ならやはり筒香だよ。ジャパンのユニフォームを着て、そこで結果を出して、自分が置かれている立場というものを理解できるようになってきている。いまのアイツを見てみろよ。なにかこう、責任感を背負っているようになってきたよな。以前までは、自分だけが満足できればよかったけれども、いまはそうではない。野球界を代表し、「日本を代表する選手なんだ」という雰囲気がにじみ出ている。それはまさに、オレの師にあたる太田(誠)さんの座右の銘でもある「姿即心」だな。この言葉どおり、立ち姿に出てくるわけよ。

──たしかに、最近の筒香選手には威厳と風格を感じます。

中畑 髪の毛を茶髪にしたりすることもないだろう? アイツは、そういうところにこだわってはいないから、考え方がどんどんシンプルになっていっている。一番大事なのは結果であり、みんなを引っ張っていく代表選手にならなくてはいけない。そういう考え方に集約されてきているわけ。そんな思いに満ちあふれている姿を見せつけられれば、みんなが憧れるぜ。オレはそれでいいと思う。ファンは茶髪に惚れるわけじゃないだろ?

──はい、プレーに惚れますからね。

中畑 その人の魅力はなんなの? となれば、遠くへ飛ばしてくれる、ホームランを打ってくれる、チャンスで打ってくれる……そういうところに惹かれてついてきてくれるわけじゃない? 筒香はそこにしっかりと気がついているから、いますぐ実社会に出ても通用すると思う。そして、その筒香に、いまは山﨑(康晃)がくっついているらしい。よくつるんでいるらしいよ、このふたりは。

──山﨑選手のTwitterで筒香の写真を公開していたのを見たことがあります。

中畑 このふたりは、徐々に人から尊敬されるような雰囲気になりつつあるからね。これからも、常にそうあってほしい。

──逆に髪の毛の話題が出たとなると、たとえば中田翔選手などはどうでしょうか?

中畑 オレは変わらなくてはいけないと思う。WBCの開幕前には、ひょっとしたら髪の毛の色を黒に戻すかもしれないけれど、本音を言えば普段からそうあってほしいな。もうそういうポジションにいる選手だよ。地に足が着いた姿に変わって、成長してくれたらうれしいな。

人に頭を下げられれば、良き“第二の人生”を送れる

中畑 でも、考えてみたらさ。別に野球界に限らず、いまはどの社会でもあるんじゃないの、セカンドキャリアって?

──あると思います。

中畑 大学を出て有名な企業に入っても、簡単に辞めてしまったりするしさ。仕事の業種が増え過ぎてしまって、自分のキャリアを生かす場所をどこにしていいかわからない悩ましい世界になっている感じがするよ。自分に合う生き方というのは一体なんなのか? それを見つけるのが大変だと思う。それこそ、君だってそうだろう?

──わたしは30歳を過ぎてから、いまのライター業をするようになりました。

中畑 いや、それでも、いまの職業がベストなのかどうかなんてわからない。(同席していたカメラマンに向かって)カメラマンにしたって、カメラだけで食える人生なんて、この先ないかもしれないよ。それは、いい意味での潜在能力というのかな。自分が持っている能力というのは、計り知れないものがあるから。「これでいい」ということはないんだよ。そうやって追い求める人生も、また、楽しいんじゃないか?

──そうですね。

中畑 それがセカンドキャリアにつながればいいよな。あるいは、セカンドどころかサードキャリアになろうといいんだ。いまの時代、何回でもトライすることが可能じゃない? むかしは辞めたらすぐに、「あいつは根性のねえ野郎だ」とか、後ろ指をさされてなんだかんだ言われたけど。

──たしかに、いまはそういう風潮はだいぶ影を潜めましたね。

中畑 逆に言えば、セカンドキャリアの話で悩むことそのものがおかしいと思う。前向きにいかなくてはダメよ。「僕らは、“野球バカ”です! でも、いろいろ体験したいんで、よろしくお願いします!」という感じでさ。頭を何度も下げられる人生になったらいいよな。そこが一番大きいかもしれない。なにしろ、プロ野球選手はプライドが高いから、頭を下げることできない。野球ではずっとお山の大将だったからな(笑)。

──ずっと、チヤホヤされて生きてしまっている部分もあるのですね。

中畑 そうそう。オレなんて、いまとなってはいくらでも頭を下げるし、頭自体もすごく軽いぞ! 脳ミソも軽いし、頭蓋骨も小さくまとめているから(笑)。

──頭を下げるということは、「社会のなかで生きていく」という意味では大事なことですね。

中畑 そうだな。そして、できればそれを選手でいるうちに学んでほしい。そうしたら、いい方向に行くんじゃない? 受け皿はいっぱい出てくると思うよ。すべては己自身だよ!

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ