MLB発祥のルールがNPBでも今年から導入

 コリジョンルールは、MLBが2015年から導入しているものを模倣したものだ。きっかけとなったのは2011年。サンフランシスコ・ジャイアンツの若手捕手、バスター・ポージーが走者のスライディングを受けて、靭帯断裂と骨折の大ケガを負ったことに端を発する。

 当時のMLBは、本塁上でのタックルやブロック、二塁ベース上での併殺崩しなど、過度なフィジカルコンタクトが容認されていたが、「有望な若者が野球人生を脅かされるような重傷を負ってはいけない」との議論が沸き起こり、現在では上記すべてのプレーが原則禁止となっている。

 日本では2013年5月に、当時阪神に在籍していたマット・マートンが、ブロックを試みたヤクルト捕手・田中雅彦に猛タックル。このプレーで田中は左鎖骨を骨折し、長期離脱を強いられた。ただ、この類のプレーは体当たりする走者が一方的に悪いというわけではなく、「本塁の一角を空けなければならない」とのルールを無視し、完全にブロックする捕手にも非はある。

 これらを踏まえ誕生したのが、コリジョンルールだ。以前より走者有利となったが、これは野球が本来的に「より得点を奪ったチームが勝利」というスポーツであるためと見ていい。NPBでは同ルール導入から約3カ月が経過したが、本塁クロスプレーでの故障者は把握する限り出ていない。この点は、正当に評価すべきだろう。

審判の判断基準が曖昧……困惑する選手、首脳陣

 故障者は抑制されているが、同ルールに関する適用基準は非常に曖昧だ。5月11日の阪神-巨人戦(甲子園)の3回、阪神の中堅手・大和が、本塁生還を狙った二塁走者を刺そうと、見事な好返球を見せた。

 捕手の原口文仁は、返球のバウンドに合わせ本塁ベースのやや後方で捕球。そのまま前方の走者にタッチし、最初のジャッジはアウト。だが、巨人の高橋由伸監督は走路妨害をアピール。検証の結果、判定はセーフに覆った。このケースは、捕球の流れで走路をふさいだとみなされたものだ。

 だが、6月15日のヤクルト-ソフトバンク戦(神宮)では、内野ゴロの間に本塁生還を狙った三塁走者・荒木貴裕を一塁手・内川聖一が好送球で阻止。このとき、捕手・鶴岡慎也の左足が走路に入っていたため、真中満監督はコリジョンルールの適用をアピール。だが、こちらの判定は覆らなかった。

 真中監督は試合後、「あれでコリジョンを取らないのはおかしい」と激怒。“衝突禁止”の新ルールには、「本塁上で走者が捕手(または本塁カバーの野手)に意図的に体当たりすることや、捕手(同)がボールを持たずに走者の走路をふさぐことを禁止する」と明記されている。原口の場合は上記に準ずる形となったが、鶴岡の場合は不問。この2ケースを比較しても、基準の曖昧さが伺い知れる。

検証時間10分……広島では“コリジョンサヨナラ”が成立

 6月14日の広島-西武戦(マツダ)では、コリジョンルールがサヨナラゲームに直結した。2対2の9回裏、広島・赤松真人が中前打で、二塁走者・菊池涼介が本塁へ突入。返球を受けた西武の捕手・上本達之は菊池にタッチ。木内九二生球審はアウト判定を下したが、ベンチから飛び出してきた緒方孝市監督の抗議を受け、審判団はリプレー検証に入った。

 セーフなら広島のサヨナラ勝ちとなるだけに、球場内は異様な雰囲気に。約10分間に渡る長い検証の結果、杉永政信責任審判から「コリジョンルールを適用してセーフとします」と説明がなされた。マツダスタジアムは時間差での歓喜に沸き上がったが、今度は西武の田邊徳雄監督が審判団へ猛抗議。指揮官は「あれじゃ野球にならない」と憤った。

衝突なしでもVTR検証 本塁塁上はいまや無法地帯!?

 改めて同ルールを簡単に説明すると、「捕手を含めた守備側の選手が走者の走路をふさいでブロックすればセーフ、走者が故意に守備側の選手へ接触した場合にはアウトが宣告され、当該の選手に警告が与えられる」となる。だが、審判はそれ以外のプレーにも目配りが必要なため、そう単純な話ではないのが実情だ。

 広島のサヨナラゲームのように、プレーによって検証時間がかなり長くなれば、選手のパフォーマンスにも影響を与えかねない。NPBは近年、「投手の投球間隔ランキング」を公表するなど試合時間の短縮に力を入れているが、リプレー検証では試合が中断し、よりロスを生じてしまう。これでは本末転倒と言わざるを得ない。

 また、走者優先となったため、外野手の見せ場である捕殺も少なくなり、攻撃面ではスクイズが増えるなど、全体的にダイナミックなプレーが減少傾向にある。さらに、明らかに接触がなかったにもかかわらず、本来は認められていないはずのVTR検証へ入り、判定が覆るケースもある。もはや“アピールした者勝ち”なのだ。

 コリジョンルール適用に関し、ヤクルト、阪神、西武などがNPB側に意見書を提出したが、その後、基準が明確化されたという続報はない。現場で戦う首脳陣、選手もそうだが、なによりファンが置き去りにされている感は否めない。

 物議を醸し続ける新ルール、混乱が収まる日はくるのだろうか。


BBCrix編集部