構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

中日・堂上&京田のショート争いはチームを活性化する

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──いよいよプロ野球が開幕です。今回は新戦力や昨年不本意だった選手など、中畑さんが今シーズン注目している選手を挙げてほしいと思います。やはり、セ・リーグがメインになると思いますが、そのなかでもDeNAと巨人の選手に目がいくものですか?

中畑 そうだな。オレにとって、巨人は“我が家”、DeNAは“我が母校”のようなものだから。どうしてもそうなるね。ただ、今季は駒澤大学時代に後輩として一緒にプレーしていた森繁和が中日の監督になったから、中日も昨年以上に注目しているよ。

──では、その中日で良いと思った選手は?

中畑 新人でショートの京田(陽太)だな。

──日本大からドラフト2位で入団した快足選手です。

中畑 スピードはもちろんだけど、攻守に切れ味がある。もしかすると、レギュラーに定着するかもしれないぞ。そういう雰囲気を持っている。

──かなり高評価ですね。

中畑 中日のショートは、昨年、堂上(直倫)が成長してきて、ようやくレギュラーをつかんだ。しかし、そこにすかさず同じポジションにこういう新しい戦力が現れるというは、言ってみればダブルブッキングだよな。それって、オレが現役のときに巨人でサードのレギュラーを取った直後に原(辰徳)が入ってきたときも同じだったのよ。

──はい、はい。1981年のシーズンですね。

中畑 あのときの感じにちょっと似ているところがあるな。当時を思い返して照らし合わせてみると、このふたりのショート争い次第で中日という低迷しているチームに新しい風を呼び起こしてくれる予感がする。お互いに意識しまくってギラギラとした競争をしてほしい。

DeNAは素材型の細川と網谷の“これから”を見てほしい

──中畑さんが2年前まで監督として指揮していたDeNAには、新たに期待できる選手がいますか?

中畑 右の大砲候補で……えーと、なんていったっけ……。そう、細川だ!

──細川成也ですね。昨年ドラフト5位で茨城・明秀日立高校から入団した19歳の選手です。高卒ルーキですが、181センチ、85キロ。体格は申し分ありません。

中畑 細川は、将来は本物のホームランアーティストになれる可能性があるよ。そのくらいの雰囲気がある。キャンプのときに、プロとして初の他球団と対する阪神との練習試合で、アウトハイのボールをいきなりバックスクリーンに放り込んだからな。思わず唸ったよ。むろん、これからプロの厳しさとか難しさを学びながら成長していかなくてはならないけれども、逆方向の右中間にひっぱたいてスタンドにぶち込める素材なんて、簡単には見つからないぞ。

──将来的には、筒香(嘉智)と左右の大砲コンビを組んでほしいですね。

中畑 それと、DeNAはもうひとりいるんだ。2年目の網谷(圭将)という育成のキャッチャーなんだけれども、この選手も将来が楽しみだよ。

──背番号100番ですね。この選手も183センチ、83キロといい体格をしています。

中畑 キャッチャーとしては、正直、厳しいかもしれないけど、やはりバッティング。当たったときの飛距離がすごい。細川と網谷。このふたりに注目してほしい。

──昨年、中畑さんは、ソフトバンクの三軍を視察して、「欠点は多いかもしれないけれど、速い球を投げたり、遠くへ飛ばす素材型の選手が多い。DeNAなら即レギュラーだ!」と驚いていました。DeNAも、高田繁GMがそういうタイプを重要視して獲得するようになっているのでしょうか?

中畑 そういうこと。オレが監督に就任したばかりの頃はチームが弱かったから即戦力重視だったけど、チームが少しずつ形になってきたことで、将来性を見据えた選手を獲ろうという考え方にシフトしてきたんだ。しかも、年々獲得する選手の質は高くなってきている。編成部門がうまく機能しつつあるよ。

──ちなみに、キャンプでラミレス監督と話はしましたか?

中畑 ああ、したよ。昨年の頑張りを称えながら挨拶をしたら、「中畑さんが作ってくださったチームですから」と、言ってくれたんだ。

──それは、うれしいですねえ。

中畑 以前から、マスコミを通して耳には入っていたんだけれども、今回、初めて本人の口からそのセリフを聞けたよ。お世辞かもしれないけど、ラミちゃんは昨年1年間やって結果を出したじゃない? だから、気持ちに余裕ができたんじゃないかな。自信をもって今シーズンに臨もうとしている表れだろうね。

今年は外国人投手の当たり年になるかも?

中畑 DeNAについては、もうひとつ。外国人選手の当たり年になりそうな感触があるんだよ。

──そうなんですか!?

中畑 特にピッチャー。ウィーランドとクラインのふたりが先発、パットンがリリーフだが、全員、仕事をしてくれそうなんでね。この3人が機能したら、DeNAが優勝争いする可能性が、いよいよ現実的になるぞ!

──昨年のことですが、DeNAに入団したロマックについて、中畑さんはシーズン前から「あの選手は難しいぞ……」と話していました。そして、実際にそのとおりとなってロマックは活躍できませんでした。

中畑 オレの外国人選手の活躍予想は的中率が高いぞ(笑)。

──では、期待できますね。
中畑 今年はDeNAに限らず、どこの球団も外国人投手が活躍しそうなんだ。昨年からいる選手も含めて、質がすごく高くなっている。むかしは助っ人外国人といえば打者がメインで、ガンガン打つかどうかがリーグ優勝のカギをも握ると言われた。でも、現在のプロ野球ではひとりの打者だけが際立つなんてことは、ほとんどないからね。数年前のバレンティン(ヤクルト)が最後じゃない? 

──シーズン本塁打の日本記録を樹立した2013年頃ですね?

中畑 そうそう。でも、そのときだって、ヤクルトは優勝しなかった。

──中畑さんが指揮していたDeNAと争った結果、最下位でしたからね。ちなみに、DeNAは5位でした。

中畑 それを言わないでくれよ(笑)! まあ、それはともかく、現代の外国人は野手よりも投手の活躍がペナントレースの行方を大きく左右する気がするよ。セ・リーグだけ見ても、広島はジョンソン、巨人はマイコラス、阪神はメッセンジャーといった面々がチームに欠かせない存在になっているし、ヤクルトと中日の新外国人もやりそうな雰囲気があるだけにね。ぜひ、助っ人投手たちの投げっぷりに注目してほしい。

阪神はベテラン・鳥谷が意地を見せてくれ!

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──DeNA以外のチームで、中畑さんが今季注目している選手はいますか?

中畑 中日のショートに対して、阪神がショートをどうするかも気になっているんだ。具体的にはベテランの鳥谷(敬)。基本的には、昨年定着した北條(史也)を押し出していくのだろうけれども、だからこそ北條と鳥谷のバランスをどういうふうにとって決着をつけるのか。それが、ここ数年、勝てそうで勝てない阪神というチームが変わっていくための重要な要素になると思うのよ。もちろん、鳥谷をセカンドかサードで使うという手もあるけど、内野は西岡(剛)や大和あたりもいる。それに、鳥谷自身、長年レギュラーを張ってきた意地があるだろうからな。

──昨シーズンは、特に守備のミスが目立つようになりました。ある年齢から急に衰えるということはあるものですか?

中畑 いや、ショートというのは大変な守備力が必要とされるポジションだから、体の状態によってすごく左右されるのよ。ほんのちょっとフットワークや肩の衰えが露呈されただけで、すごく守備範囲が狭くなったように見えてしまう。正直、その状態からショートに返り咲くというのはかなり厳しいだろうけど、そこで諦めてしまうのか? あるいは、生き残る術を見つけて選手寿命を伸ばすのか? そういうベテランの姿を、若い選手たちも当然見ているわけ。だからこそチームの浮き沈みに大きく影響するだろうと、オレは思うのよ。

巨人3年目の岡本は結果にこだわれ!

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──最後に古巣の巨人で注目の選手は誰でしょうか?

中畑 これはもう、3年目の岡本(和真)ですよ。

──どうやら、開幕から一軍に定着しそうな雰囲気です。

中畑 そうだね。少しずつだけどいい方向に変化してきている。実を言うと、オレがキャンプでアドバイスしたんだよ。だからじゃない? フフフ(笑)。バッティングコーチの存在を飛び越えてしまったんだけどさ。もちろん、そこに村田真一コーチもいたんだよ。一緒になって熱弁を振るった、という感じだった。

──具体的にはどのようなアドバイスをしたんですか。

中畑  スイングの軌道に関する考え方について。「いまのままだと、岡本の良さが失われている。ピッチャーはホームランを打たれそうな怖さを感じないだろう」とね。

──技術的な部分ですね。

中畑 要するに、最初からライトにしか打てないようなスイングを意識して取り組んでいたわけ。だから、「左中間にぶち込むんだっていうくらいの力強いスイングを練習からしていかないと、二軍では打てても一軍では難しいぞ」とね。

──本人の反応はどうでしたか?

中畑 「かなりいいものを感じました。ありがとうございます」とは言っていたけどな。そんなに簡単には変わらないものだけども、変えようとしなかったら変わらないことでもあるから……。まあ、開幕前のオープン戦では、ある程度結果を出していたから、本人も変えようとしているのだと思うよ。

──それが結局、変えきれずに諦めてしまうと……。

中畑 そこまでの選手だった、ということだよ。まさに一軍で活躍できるかどうかの分岐点。その意味で、今シーズンの岡本は結果にこだわってほしいね。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ