構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

広島のこれからは若手先発投手陣次第だ

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──開幕直後の戦いぶりですが、広島は10連勝を記録するなど絶好調です。昨年優勝した流れをそのまま継続しているかのようですね。

中畑 いいな! エルドレッドあたりはオープン戦ではさっぱりだったけど、いざ開幕したら打ち出すしさ。昨年もそうだったけど、やはり打つことで乗っていくチームなんだよ。打線がいきなり好調であることが、好スタートにつながったと思う。ただ、打線の調子というのは、そう長くは続かない。落ちてきたときにも勝ちを拾って盤石にするには、昨年最多勝の野村(祐輔)がきちっと勝ち投手になって、今年も勝ち試合を作っていけるかが一番のポイントではないかな。昨年は野村の貯金だけで13もあったんだから(16勝3敗)。普通ならあり得ないことだよ。

──今年も淡々とゲームメイクしている印象です。

中畑 それを1年間通して、またできるかどうかということよ。

──なるほど。それに、野村も重要ですが、広島はそもそも先発投手陣に不安定な要素が多いですよね。新人としていきなりノーヒットノーラン目前までいった加藤(拓也)をはじめとして、大瀬良大地や九里亜蓮、岡田明丈といった若手の先発投手がシーズンを通してローテーションを維持できるかどうかも、まだわかりません。

中畑 そうだな。その点は現時点で不安はある。だから、広島の強さが本物かどうかはもう少し様子を見たほうがいいかもしれないぞ。

久しぶりに起きた大乱闘は嬉しかった

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中畑 オレはシーズンがはじまった直後の出来事で、なにが一番注目だったかというと、実は乱闘だったんだ。

──4月4日の阪神対ヤクルト戦ですね。畠山が怒って両軍の選手が入り乱れたところで、バレンティン(ヤクルト)が矢野コーチ(燿大/阪神)を手ではたいて、吹っ飛ばされた矢野コーチが飛び蹴りで応酬するという行為で両者が退場になるなど、久々に大きな乱闘劇になりました。

中畑 オレのなかでは、すごく嬉しかったよ。

──嬉しかったのですか!?

中畑 というのは、今年は開幕前にWBCがあっただろう? 各球団の精鋭たちが集まって、日の丸を背負ってひとつになって戦った。つまり、そのときは“仲間”だったわけ。それが、ペナントレースがはじまると、今度は一気に“敵”になったじゃない? そんなメンバー同士がこの乱闘に絡んでいるんだよ。ピッチャーは藤浪(晋太郎/阪神)。そして、乱闘の発端になる死球を与えた相手は畠山(和洋/ヤクルト)だったけれども、その前に藤浪は山田哲人(ヤクルト)にも危ないボールを投げていて、乱闘の伏線になっていた。

──藤浪はバレンティンにも投げていましたね。

中畑 それは、まさにWBCの延長戦なんだけどな(笑)。ただ、いずれにしても、オレは選手たちが頭を切り替えて「昨日の友は今日の敵」となって真剣勝負をしていたからこそ、乱闘になったと考えているのよ。「みんな命がけでやっているんだ! ダテじゃないんだよ!」というメッセージになったとオレは思うね。実際、硬球というのは、あたりどころが悪ければ、選手生命に影響するくらい危険なものだしな。真剣だからこそ、熱くなれ! ただし、乱闘になったからって、余計なケガだけはするなよ(苦笑)……という気持ちだよ。

──最近は乱闘になる前に止めに入る選手も多くて、むかしのような派手なものにはならないことのほうが多いですよね。「いまの選手はおとなしい」という意見も聞かれます。

中畑 人が倒されたというのは、最近では珍しいんじゃない? オレは監督のときに体当たりで審判を飛ばしたことがあるけどな。

──ちなみに、現役の頃の中畑さんは、乱闘になると熱くなるほうでしたか? あまり大暴れしている記憶がないですが。

中畑 オレはいつも止め役だったよ。中立の立場で「やめなさい!」と制していた。ただ、一度だけ、巨人のコーチ時代にヤクルトと乱闘になって、ハウエルに羽交い締めにしたことはある。

──思い出しました。ヘッドロックをかけるようにして引きずり回していましたね。

中畑 富山での北陸シリーズでさ。それまでに、キャッチャーの古田(敦也)のインコース攻めがどぎつくて、かなり当てられていたからな。積もり積もって「古田にぶつけろ!」となったんだ。

──その古田が死球になったときは両サイドから選手が出てきたもののなんとか収まりましたが、続く広澤(克実)の2ベースヒットで走者の古田が本塁で捕手の吉原(孝介)とクロスプレーになって、乱闘が勃発したんですよね。

中畑 結局、その試合は9対0で負けたよ。乱闘をしたあげく、負けちゃだめだわな。ただ、オレはプロ野球に乱闘があってもいいと思うよ。危険球があれば、本気になって抗議する。その結果として乱闘になるのは、いいんじゃない? のほほんと見過ごしているよりは、むしろあるべき姿だよ。


──ただ、「乱闘は推奨できない」という声は多いですよね。野球少年への影響などもありますし。

中畑 もちろん、オレだって絶対的な乱闘推奨派というわけではないよ。それはよくわかっている。あくまでスポーツだから。でも、真剣勝負をしているということの表れであるならば、ということだよ。

両軍合わせて27四球なんて二度とゴメンだよ

──広島対阪神戦については、開幕2戦目の4月1日に両軍合わせて27四球という日本記録が生まれました。

中畑 これは最悪の試合ですよ。けしからんね。

──見ているファンにとってはよくわからないところなのですが、ピッチャーは単純にストライクを入れたくても入らなかったのでしょうか。あるいは、ギリギリを攻めすぎてそうなったのか? 中畑さんはどう考えていますか?

中畑 最近の投手を見ていて思うのは、フォアボールに対する意識が薄いということだよ。いとも簡単にフォアボールで歩かせてしまう。打たれることをものすごく怖がっている。でも、フォアボールのほうがダメージは大きいのよ。野手の立場からすると長い時間守っていることになるから、ダレちゃうんだよ。打たれて出塁を許すほうが集中力を持続できるから、野手はまだ救われる。ヒットを打たれて走者を出すのとフォアボールで出すは結果が一緒なのだから、「同じ出すなら打たれろ!」オレはそう意識を持って投げてほしい。だいたい、1試合に20を越えるフォアボールが出たら、選手だけじゃなくてお客さんだってたまらないよ。中継するほうもたまらない! とにかく、野球が長くなってたまらない! たまらないことだらけだ。

──DeNAの監督時代にも、投手陣にはよくそう話していたのですか?

中畑 もちろんよ! だって、よーく考えれば当たり前のことなんだから。でも、横浜スタジアムは狭いだろう? だから、余計にコースや高さを意識して、フォアボールを出してしまうわけ。たしかに条件は厳しいかもしれないけれど、そのことばかり恐れていたら野球にならないよ。「勝負して打たれたのなら、仕方がない」という開き直った気持ちをどこかに持っていないと。こういう試合はプロ野球として本当に醜い。二度とないようにしてほしいね。

各チームのスタイルが見えるのはこれからだ!

──さて、開幕直後から数多くの話題が発生しましたが、今後のペナントレースの展開はどう読みますか?

中畑 ペナントレースははじまったばかりだから、それはまだわからないよ。各チームとの対戦が最低ひと回りはしないと、どんなチーム状態なのかも見えてこないしな。

──それまでの星勘定は、まだ気にしなくていいということですね。

中畑 そうそう。展開が読めるようになるのは、「今年はこういうスタイルで戦っていく感じかな?」というチームのスタイルが固まっていく様子を見極めてからだろう。あとは故障などによる離脱者が出た場合に、予備軍としてどういうメンバーをベンチの控えやファームで待機させているかも重要だな。現在、十分揃っているのが巨人。あと、DeNAも結構控えのメンバーには、いい選手が増えてきているぞ。

──DeNAはキャッチャーの戸柱恭孝、ショートの倉本寿彦、センターの桑原将志とセンターラインが固まって、筒香嘉智、梶谷隆幸、ロペスが盤石なので、それ以外にかつて試合に出ていた経験のある選手が控えに回っていますよね。セカンドくらいですかね? 誰にすべきか手探りで起用しているように見えるのは。

中畑 オレは開幕戦で抜擢されたヤクルトから移籍の田中浩康でいいと思うけどなあ。いまは宮﨑(敏郎)がスタメンになることが多いが、オレのなかでは少なくとも5番を打つイメージはないよ。

──昨年の終盤あたりから、5番を打つことが増えましたよね。実際、いいところで打っていましたし。

中畑 バッティングはいいときは本当に素晴らしいよ。でも、どうしても波が激しいから。アイツが7番あたりにいればいいんだけどな。ま、そういった事情だよな。各チームの対戦がひと回りすると、見えてくるものがあるよ。

──その時点で、早くも大崩れ……というチーム事情でなければ、どのチームも希望が持てるということですか?

中畑 もちろん! 待っているのは希望ではなく、絶望かもしれないけどな。ふっふっふ。いや、冗談冗談(笑)。とにかく、まだはじまったばかりだから、ファンの人たちはあくまで前向きに、そして、どんどん球場に来てもらって、ぜひプロ野球を盛り上げてよ!

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ