インタビュー・文/石塚隆
宮﨑の特性を見出したラミレス監督の慧眼
――現在、首位打者争いをしている宮﨑敏郎選手は中畑さんが監督時代の2012年のドラフトで入団していますが、当時はどのような印象を持っていたんですか?
中畑 バッティングには光るものはあったけど、ただ守備に難があって守るポジションがなかったと俺の中では決めつけているところがあった。打てるといっても代打というわけでもなく、あくまでも誰かがケガをして守備には目をつぶるから代役として使う選手だった。厳しい言い方になっちゃうけど、当時は守備に対する集中力が低い選手だと見ていたね。
――まさか今年のように大ブレイクするとは予期できなかった。
中畑 宮﨑には申し訳ないけど、まったく予想できなかったね。分かっていたら俺だってもっと使っていたよ(笑)。開幕前にラミちゃんと話をする機会があって、聞けば今シーズンは5番宮﨑で行くというじゃない。本当に大丈夫かと尋ねたら「守備は別にして打撃に関しては非常に評価が高く、可能性を感じさせるから使ってみようと思う」と言っていた。そういう意味では宮﨑の資質を見出したのはラミちゃんの功績だし、継続的に起用をして首位打者を争うような選手に育て上げたのもラミちゃんの英断があってこそ。また、そのラミちゃんの大きな期待に応えた宮﨑も素晴らしいよね。
――守備もかなり上達したように感じられるのですが。
中畑 いや、まだまだ。もともと守備が極端に悪いというわけじゃなかったし、継続的にゲームに起用してもらえれば、選手はそこそこの守備力を身につけることができる。とくにサードは守備範囲が狭くても大丈夫だし、とりあえず前後左右に反応ができればいい。これがセカンドになると連携が多くなり要求されるプレーが多くなるから、そういった部分で宮﨑はサードが合っていると思うよ。
――独特の間合いを持つバッティングに関してはいかがでしょうか。
中畑 とにかく(右脚の)軸回転がしっかりしているよね。脚を上げる非常に難しいタイミングの取り方をするんだけども、前の壁がしっかりとしていて体が開かない。どんなボールが来ても決して崩されることのない安定感と体の強さが宮﨑の良さだよ。しっかりと振り切ることができるので、逆方向への対応もできる。速いボールに差し込まれても右脚を中心に小回りが利くから、強い打球を打つことができる。あとは強く柔らかいリストを生かしたバットコントロール。こう見ると首位打者を争える技術を持っていることは間違いないよね。
勝負の9月の重圧に打ち勝てば大物になれる
――ただ気になるのは併殺打がリーグ1位だということです。似たタイプと思しき右打者の落合博満さんや中村紀洋さんも現役時代は併殺打が多かったですね。
中畑 まあ、そこは足が遅いからしょうがない。ただ5番を打つという意味ではゲッツーは仕方がないという部分もあるんだよ。ランナーが塁にいる場面でのバッティングも多くなるし、それに5番というのは基本的に小細工をしなくてもいいという立場。お前が凡打したならしょうがないというのが暗黙の了解。俺も監督時代、ロペスに5番を任せていたんだけど彼には「勝負を決めるバッティングをしてもらいたいから仮にゲッツーになってもそれは俺の責任だ」と伝えていたよ。その理屈が通らないと、あの打順で力を発揮するのは難しい。そういう点でも宮﨑には適任の打順じゃないかな。ゲッツーを取られても、もちろん内心悔しさはあるのだろうけど、いい意味で飄々とした表情でベンチに戻ってきて、気持ちが次へと向かっている。ふてぶてしさというのはプロ野球選手にはすごく大事な要素だし、その特性を見抜いたラミちゃんはさすがだね。
――悪い部分を見るのではなく、良い部分を最大限に生かし、伸ばす。
中畑 そういうことだね。本人の良さが消えてしまったら意味はない。
――よく宮﨑選手のような天才肌と言われる打者は一度スランプに陥ると調子を戻すのが難しいと聞きます。ラミレス監督もそこを懸念していました。
中畑 でも右打ちがしっかりとできるバッターだから長いスランプはないと思うな。逃げ道というのかな、ヒットを出すことのできる確率の高い打撃技術があるので、大崩れすることはないんじゃないかな。ただ気をつけなければいけないのはチャンスで打てなくなった場合においてメンタルの崩れというのはあるかもしれない。9月に入るとCSや首位打者争いで勝負に対する重圧が変わってくる。5番を打つ以上、責任はより重たくなる。けれどそこを乗り越えてこそ成長。厳しいプレッシャーの中で結果を出せる選手になると、2年3年、いや10年大丈夫だと言われる選手になっていく。そういった意味で宮﨑には粘りをもって終盤を乗り切ってもらいたい。新人時代に期待を寄せることのできなかった俺が言うのも何だけど、結果を出して大物になってくれるよう楽しみにしているよ。