昨季までは固定できなかったセンターライン
強いチームに備わっている条件はいくつもあるが、そのひとつにセンターラインの重要性が挙げられる。バッテリー、セカンド・ショートの二遊間、センターとグラウンドの中心に位置するポジションが役割を果たしているチームは“強い”というものだ。
事実、今季日本一になった日本ハムは、キャッチャーこそ大野奨大と市川友也の併用だったが、セカンド・田中賢介、ショート・中嶋卓也、センター・陽岱鋼はほぼ不動で、中島はフルイニング出場を記録している。
セ・リーグ優勝の広島も、キャッチャーは石原慶幸と會澤翼の併用だったが、菊池涼介と田中広輔の二遊間コンビに、センターの丸佳浩はほぼ固定されただけではなく、打順でも1~3番に座り、打線をけん引した。
昨季までのDeNAは、このセンターラインをなかなか固定できなかった。昨季、キャッチャーは3人、セカンドとセンターは7人、ショートは5人の選手をスタメンで起用した。キャッチャーでスタメン出場が最も多かったのが嶺井博希の61試合、セカンドは石川雄洋の83試合、ショートは倉本寿彦の65試合、センターは荒波翔の44試合が最多。多くの若手選手が出場機会を与えられながらも、チャンスをものにする選手がいなかった。
セカンド以外は若手選手が一気に台頭

それが一転、今季はセンターラインでポジションをつかむ選手が次々と台頭してきた。
キャッチャーは、新人の戸柱恭孝が110試合でスタメン出場。髙城を山口俊の専属捕手として起用し、それ以外の先発投手が投げる試合ではほとんど戸柱がスタメンマスクを被った。キャッチングをはじめとして戸柱の持つ優れた技量が前提にあるが、ラミレス監督が辛抱しながら起用したことで扇の要にメドが立ったことは来季以降を考えても意味あるものだ。
ショートでは倉本が138試合にスタメン出場。昨季の打率.208、2本塁打、20打点から今季は打率.294、1本塁打、38打点と成績を伸ばした。ショートの守りでも失策は6個。守備範囲も広く、十分にショートを任せられる選手になった。
センターでは桑原将志が92試合にスタメン出場。昨季は60試合の出場で打率.184、1本塁打だったが、今季は自身初の規定打席に到達し打率.284、11本塁打。7月以降は1番センターとしてほぼ全試合に出場した。センターの守備も安定しており、攻守において大きく飛躍したシーズンだった。
セカンドは石川が73試合にスタメン出場と昨季より減った。宮崎敏郎が打力でスタメンをつかむかに見えたが、自分のものにするまでには至っていない。
セカンドのポジションこそまだ絶対的なレギュラー選手がいないものの、課題だったセンターラインが大きく改善されたことで2016年の躍進につながったことは間違いない。もちろん、来季以降にも期待を抱かせる布陣だ。

固定できなかった2番打者とタイプ別に使い分けた代打陣
センターラインはほぼ決まり、4番も筒香嘉智が本塁打と打点の二冠に輝き、名実ともに球界を代表する4番打者となった。チームの核が形成されつつあるなかで、2番打者の固定ができなかったことは課題として残る。
今季、DeNAが2番打者として最も多くスタメン起用した選手は石川で55試合。計13人の選手が2番でスタメン出場している。2番打者の成績は打率.201、10本塁打、出塁率.256で、本塁打以外はリーグワーストで。1番打者がリーグ4位の出塁率.327を記録したが、2番打者がクリーンアップにうまくつなぐことができなかった。
当初、ラミレス監督には2番・梶谷という構想があったようだが、8試合しかそれは実現できなかった。ただ、レギュラーシーズン最後の4試合は2番・梶谷で挑み、梶谷は16打数7安打3本塁打6打点と、“攻撃型2番打者”として申し分ない結果を残した。クライマックスシリーズでも2番・梶谷の試合があり、来季に向けてひとつの形を見出せたことは明るい材料だ。

攻撃面では、目立たないがDeNAの代打成績の良さも付け加えておきたい。今季、DeNAは代打を299回起用し、266打数66安打、打率.248。34打点とともにリーグトップの成績である。

イニングの先頭や走者がいないときは、出塁能力の高い乙坂や山下を起用し、得点圏など走者がいるときは下園や後藤を起用と、状況によって代打を使い分けたことも特徴だ。選手が自分の出番を想像しやすい起用法だったことも、好結果につながったのではないだろうか。

近年ドラフトで獲得した選手が投手陣の中心に
投手陣は、リーグ5位のチーム防御率3.76。昨季の3.80と大差ないが、一時期の投壊状態からは脱した感がある。
ルーキーの今永昇太が8勝9敗、防御率2.93。2014年ドラフト2位の石田健大が9勝4敗、防御率3.12。2012年ドラフト3位の井納翔一が7勝11敗、防御率3.50。近年のドラフト上位で獲得した選手が、ローテーションにしっかりと入り結果を残している。投手陣に人材が不足していたチーム事情もあるが、結果を残せる選手を獲得してきたフロントも含めた再建策がうまくいっている。
リリーフ陣に目を移しても、2013年ドラフト3位の三上朋也がセットアッパーとしてチーム最多の32ホールド。2014年ドラフト1位の山崎康晃はクローザーとしてチームに欠かせない存在となった。
山崎は8月に4試合連続失点を喫するなど、1カ月で計14失点。月間防御率は15.12と調子を大きく落としたが、9月は12試合に登板し2失点。月間防御率も1.50。山崎にとってプロ入り初めての挫折とも言える8月を乗り越え、9月に調子を取り戻したことはかけがえのない経験となるはずだ。
山崎が不調に陥っても、多少のことではクローザーから外さなかったラミレス監督だが、ルーキーの今永が調子を落とし、疲れが見えはじめた6月にスパッと二軍に落とした。多少無理して一軍で起用する方法もあったが、こういった使い分けがラミレス監督は絶妙だ。
中畑清前監督の下で鍛えられた若手選手の才能が、ラミレス監督によって花を開きつつある。投打ともに力をもうワンランク上げて、選手層も厚くなってくれば優勝争いも夢ではない。順調にステップアップしてきているDeNAが来季に向けて好材料を見せてくれた2016年シーズンだった。
(プロフィール)
京都純典
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。