競合必至!!

 今ドラフトでは創価大学のスラッガー・立石正広と健大高崎の剛腕・石垣元気。投打の主役に注目が集まる。既にメディアでは大きく取り上げられている両選手。複数球団の競合は避けられないとの報道も。また“人材の宝庫”、外野手にも平川蓮(仙台大学)、秋山俊(中京大学)といった逸材が揃う。

 立石は三塁、二塁、一塁を守れる右の大砲。逆方向にも本塁打が打てる規格外のパワーを誇る。ライトスタンドへの一撃は左打者が引っ張ったかのような打球を飛ばす。状況次第ではノーステップで打つなど“対応力”の高さにもプロのスカウトは舌を巻く。脚も速く走攻守三拍子揃ったオールラウンドプレイヤー。8月の右足首靭帯損傷に続き、復帰後の10月4日の試合中に腰を傷めるアクシデントに見舞われた。ドラフト直前でやや不安視されたが、2試合の欠場を挟んで10月18日の対共栄大学戦に3番二塁でスタメン復帰。5打数2安打2打点1盗塁。フルイニング出場で懸念を払拭した。既に広島が10月13日に1位指名を公言している。

 石垣は長身(180cm)から投げ下ろすMAX158km/hのストレートが魅力。スライダー、カーブ、チェンジアップ、フォーク、カットボールと球種も豊富。ピッチトンネルが狭く球種の見極めが難しい。剛速球の“質”を物語るエピソードを耳にした。9月に沖縄で開催されたU-18W杯。バッテリーを組んだ捕手の横山悠(山梨学院高校)は左手親指の付け根にシリコンを当て、その上からテーピングで固定していた。ボールの威力で痛みを感じたため、緩衝材で和らげるのがその理由だった。将来のエース候補にスカウトも太鼓判を押す。しかし、即戦力投手獲得が喫緊の課題というチームは、大学生、社会人主体の指名も考えなければならない。

 外野手で注目度の高い平川蓮はスイッチヒッター。両打席で本塁打を量産したミッキー・マントルやエディ・マレー、チッパー・ジョーンズのようなパワーとテクニックを併せ持つ。左は大谷翔平(ドジャース)、右はアーロン・ジャッジ(ヤンキース)が目標と語る。50m5秒8の俊足を活かして守備範囲は広い。中堅の他、右翼、一塁、三塁でもプレー可能。

 安打製造機タイプの秋山俊は中堅と三塁をこなす。大学4年間の通算安打は115本(愛知大学野球連盟の通算最多安打は神野純一さんの125:愛知工業大学―中日)コンタクト能力に優れ広角に打ち分ける。秋のシーズンは前半スランプに苦しむも徐々に復調傾向。両選手とも7月の日米大学野球選手権に出場。

外れ1位か?一本釣りか?

 強打の内野手・立石正広の指名を見送った場合。法政大学の松下歩叶、明治大学の小島大河(捕手になる前は内野手)、青山学院大学の小田康一郎、東海大学の大塚瑠晏、城西大学の松川玲央、日本大学の谷端将伍らが候補となる。いずれも俊足・好打で勝負強い。コンタクト力に優れシュアな打撃が持ち味。内野を複数守れるといった共通点がある。中でも松下、小島、小田は立石回避の球団が1位で指名する可能性も指摘される即戦力内野手。そして6人中5人が7月の日米大学野球選手権に出場(松下は打率.318 1HR、5打点 1盗塁でMVP、小島、小田、大塚、谷端)。松川(右ひじを傷めて秋はDH専任)も代表候補に入るなど世代でもトップクラスに位置している。この他では近畿大学の勝田成(二塁、三塁、遊撃)、中央大学の繁永晟(二塁、三塁:フォームの変更で一時期スランプも10月8日の国学院大戦で2安打と復調の兆し)もリストの上位にとの一部報道がある。

 社会人ではJR東日本の髙橋隆慶(一塁、三塁、DH)、ENEOSの松浦佑星(遊撃)、ヤマハの相羽寛太(遊撃)、NTT西日本の成瀬脩人(遊撃、二塁)、トヨタ自動車の熊田任洋(遊撃)といった名前が挙がっている。また強肩強打の捕手・パナソニックの萩原義輝も要のポジションだけにスカウトの関心を惹きつけている。

 外野手補強を進める上で強打のスイッチヒッター平川蓮、好打者タイプの秋山俊は獲得が熱望されるピースになる。抽選回避を採れば山形球道(立教大学)、杉山諒(愛知学院大学)といったところが選択肢になってくる。山形は4年春のシーズンで初の規定打席に到達し打率.444、5本塁打、17打点で戦後18人目の三冠王を獲得した。秋のシーズンも好調をキープしている。杉山は50mを5秒7、一塁到達タイムは4秒を切る韋駄天。目標は福岡ソフトバンクの周東佑京。快足を飛ばして安打を稼ぎ秋のリーグ戦で通算100安打を達成、最終的に104安打まで記録を伸ばした。両名とも左打ちで7月の日米大学野球選手権に出場。

 更に。ロマン砲として将来の主軸を担える実力を秘めるエドポロ・ケイン(大阪学院大学)、広角打法で安打量産タイプの阪上翔也(近畿大学)にもスカウトの目が光る。

 社会人では豪快なアーチを架ける右の大砲・村上裕一郎(ENEOS)、その強肩は“エビーム”とも評される海老根優大(SUBARU)、50m6秒0の俊足と広角に打ち分けるバットコントロールが武器の田中多聞(JFE西日本)らが高評価を得ている。

大学生投手豊作の年

 投手では青山学院大学の中西聖輝、早稲田大学の伊藤樹がスカウトの耳目を集めた。中西のストレートはMAX152km/h、スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップを自在に操る。伊藤は東京六大学リーグ現役最多の21勝(10月20日現在)を誇る最速152km/hの右腕。特に“投手としての総合力の高さ”が際立つ。駆け引きに優れ相手の狙いを見抜いて投球を組み立てる。カーブ、スライダー、カットボール、スプリット、チェンジアップ、ツーシームと球種も多彩で全てを制球良く投げ込む。中西、伊藤はともに7月の日米大学野球選手権に出場。この両名以外にも亜細亜大学の齊藤汰直、山城京平、東北福祉大学の櫻井頼之介、明治大学の毛利海大、160km/h到達が目標の東洋大学・島田舜也、大阪商業大学の鈴木豪太、花園大学の藤原聡大、仙台大学の渡邉一生らは、ほぼ全員が150km/hを越える(鈴木豪太はサイドから147km/h)。完成度が高い中西、伊藤を筆頭に、即戦力候補が目白押し。大学生投手豊作の年となり各球団の駆け引きは今ドラフトの見どころの一つとなる。

 社会人ではMAX150km/hの速球と抜群の制球力で勝負する左腕・竹丸和幸(鷺宮製作所)、切れ味鋭いスライダーと152km/hのストレートが武器の谷脇弘起(日本生命)、MAX155km/hの剛腕・冨士隼斗(日本通運)、安定感抜群の大卒3年目左腕・増井翔太(トヨタ自動車)、そして今夏の都市対抗野球で橋戸賞を受賞した九谷瑠(王子)らの動向もファンの関心事となっている。

 上記いずれの選手も交渉権を獲得するのは簡単ではないが“誰に何球団が競合”するかで展開は大きく変わる。“機を見るに敏”が体現できるかが成否を分けるカギとなる。

あの2人の指名はあるか?

 佐々木麟太郎(スタンフォード大学)、渡辺向輝(東京大学)の指名はあるのか?まずは佐々木麟太郎。日米間で新たなルールの確認が行われ「その年度のMLBドラフトの指名対象となる選手は、MLBドラフトから遡って10ヶ月前のNPBドラフトで指名対象選手となる」事が制度化された。これにより今ドラフトでの指名が可能になった。渡辺向輝は父・俊介さん(元千葉ロッテ)譲りのアンダースローで昨年秋、リーグ戦初勝利を完投で飾った。6月の大学日本代表候補合宿に選出されるなど着実に力をつけている。指名されれば東大卒7人目のプロ野球選手となる。また昨年まで12年連続でプロ野球選手を輩出している徳島インディゴソックス(四国アイランドリーグplus)。13年連続となるかにも注目が集まる。

宝の山

 石垣元気の他にも素晴らしいポテンシャルを持った高校生たちが指名の時を待つ。早瀬朔(神村学園)はMAX151km/hのストレートで押すパワーピッチャー。左腕の江藤蓮(未来富山)は投げては最速145km/h、打っては4番の活躍で同校の春夏通じて甲子園初出場に貢献。MAX150km/hの速球を磨き“火の玉ストレート”への昇華を目指す中野大虎(大阪桐蔭)。打者では大型ショートとして“坂本2世”の呼び声高い今岡拓夢(神村学園)、強肩強打で世代を代表する捕手の大栄利哉(学法石川)、捕手登録ながら内外野を器用にこなすユーティリティープレイヤーの藤森海斗(明徳義塾)。そして投打二刀流の活躍で高校球界を席巻した奥村頼人(横浜)と枚挙に暇がない。高校生には将来性豊かな原石がひしめく。正に宝の山である。

“DH元年”に備える

 2027年からセントラルリーグでの導入が決まったDH制で、打撃に特化した選手の獲得が検討されるなど、野手の指名数が増える可能性もある。が支配下登録人数や外国人補強の“お家事情”も念頭に入れねばならず、例年以上にセ・リーグ球団にとっては悩ましいドラフトとなるかもしれない。

 運命の日。10月23日は刻一刻と近づいている。プロ志望届を出したプレイヤー全てに吉報が届く訳ではない。しかし、彼らの想いや候補と呼ばれるまでに至ったプロセスを知れば、皆に幸あれと思うのは、それが人情というものだから。尽くされた人事の数だけ主役は存在し、ドラマの結末たる天命に自らの未来を委ねる。自分でコントロール出来るものと、そうでないものが混在する。人生の縮図ともいえるドラフト会議。それは承知と覚悟を決めても厳しい現実に打ちのめされることもある。過去に翻弄された経験があればなおさらその痛みの意味を知る。ただ老婆心ながらに願う。自身の決断に悔いを残さず、日々自らを律し続けてきたことに誇りを持って欲しい。一人でも多くの若武者が希望の未来へ踏み出せるような天命を望んで止まない。(文中敬称略)


渡邉直樹

著者プロフィール 渡邉直樹

1967年4月8日生まれ 東京都出身  1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV) /1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当 /琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中 /スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA) /他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり /MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)