相手打者に考える時間を与えない投球テンポ

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 平成国際大学、日本通運を経て、2011年にプロ入りした牧田。ルーキーイヤーはシーズン終盤から抑え投手として活躍し新人王にも輝いた。昨季も故障者続出のチームにあって先発21試合、救援13試合とフル回転登板。チームは4位に甘んじたが、自身は9勝11敗3セーブ、防御率3.66の成績を残している。

 過去5年間で平均156イニング数を投げ、リーグの好打者たちを幻惑してきた牧田。ストレートの平均球速は130キロにも満たないが、スライダー、カーブ、シュート、チェンジアップを巧みに操り凡打の山を築いていく。

 投球テンポがとても速いことでも知られ、捕手からの返球を受け取ると打者に考える時間を与えずすぐさま投球動作に入る。近年、プロ野球界は試合のスピードアップに力を入れており、パ・リーグも2013年から「スピードアップ賞」を新設。牧田は昨季、同賞を受賞し、今季もランキング形式の中間発表では、両リーグ通じてダントツ1位のタイムを叩き出している。

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ロングリリーフも苦にせず絶大なる信頼を得る牧田

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 今季はすべてリリーフで14試合に登板している牧田。だが、その投球イニング数は登板数を大きく上回る29回1/3もあるから驚きだ。“役回り”もリード時の8回、9回を任される勝ちパターンではなく、先発が崩れた場合のロングリリーフがメイン。田辺徳雄監督はこの起用法について、「牧田しかできない」と絶大なる信頼を寄せている。

 今季初登板の3月26日のオリックス戦が、牧田の役回りを象徴していた。西武はこの試合、先発の十亀剣が初回から大荒れ。3回5失点でマウンドを降りると、1対5の4回から西武ベンチは牧田を投入した。最初のイニングを無失点に抑えると、その後もテンポ良く結局6イニングを1安打無失点の好リリーフ。その間、強力打線が小刻みに得点を奪い、終わってみれば9対5の大逆転勝利だった。その後も2度の4イニング、1度の3イニングとロングリリーフが続き、3、4月だけで3つの白星を手繰り寄せた。

貴重な完封勝利でチームの5連勝の立役者に

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 もうひとりのアンダースロー投手、ソフトバンクからトレードでヤクルトに移籍してきた山中は、加入3年目の今季も先発で貴重な働きを見せている。昨季は6月12日の西武戦でプロ初勝利を挙げ、そこから破竹の6連勝。後半戦は故障もあり失速したが、それでも6勝2敗、防御率3.24の成績でリーグ優勝に貢献した。ちなみにプロ初勝利で投げ合った相手こそ、「尊敬している」と語る牧田だった。

 山中も牧田と同様、ストレートの最速は130キロにも満たないが、テンポ良い投球で打者を牛耳る。イニング数が足らず前述のランキングからは漏れたが、今後も登板を重ねていけば上位に食い込むことは間違いない。今季初登板となった4月20日の阪神では、6回を1失点にまとめ勝利投手に。試合後には地震被害に遭った出身地・熊本へ熱いメッセージを送った。続く広島戦は打ち込まれたが、5月3日のDeNA戦では9回を無失点に抑えプロ初完封勝利をマーク。105球とペース配分も抜群で、チームを今季初の5連勝へと導いた。

フォームは似ていても特徴は異なる両右腕

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 ここまで好投を続けている両右腕だが、数字を見ていくと長所と短所が明確に表れている。牧田は「侍ジャパン」でのワンポイント起用に象徴されるように、右打者に対し無類の強さを誇る投手だ。今季の左右打者別被打率を見ると、右打者に対しては.103と圧倒するが、左打者に対しては.283と苦戦している。この傾向は昨季も同様で、右の.249に対し左は.291。予告がある先発では、左打者を並べられるリスクもあるので、牧田の特性を最大限に活かすなら、やはりリリーフでの投入がベストだと言える。

 一方の山中は、大きく沈むシンカーを得意としているため、牧田ほど左打者を苦にしてはいない。しかし逆に、スライダー、カーブの質がやや劣るため、今季の右打者被打率は.314。昨季も左打者の.266に対し右は.301と、右打者に苦戦している。

 山中のストロングポイントは制球力だ。今季も20イニングで3四死球しか与えておらず、昨季も与四死球率は2.16だった。これは50イニング以上登板した投手のなかでは石川雅規に次ぐチーム2位の好成績。よって山中という投手は、制球力に優れゲームメイクが望める投手だという見方ができる。フォーム的には同じに見える両右腕だが、数字から見える強みはまったく異なるという点も興味深い。

 これまでの球史を振り返っても、山田久志(元阪急)や渡辺俊介(元ロッテ)など、いつの時代にもサブマリン投手は存在してきた。スタイルはそれぞれ違うが、そのフォルムは共通して美しく、見る者を惹き付ける。そして、多くのアンダースロー投手が抱える「スピードボールがない」というハンデを覆していくその“生き残り術”もまた、ファンを魅了し続ける要因なのである。
※数字は5月9日終了時点


Baseball Crix編集部


BBCrix編集部