パの下位3球団に「来季以降に懸ける」という発想はあるか
7月末のトレード期限日を前に、優勝が遠ざかったチームが優勝の可能性を残すチームに主力選手を差し出し、代わりに有望な若手選手を獲得する。MLBでは時折、そんなトレードを見ることができる。7月にしてそのシーズンを一旦あきらめ、翌年以降のチームの強化を優先する施策が普通に行われているのだ。
一方、下位に沈んだとしても、最後まで総力を挙げて戦うのが“建前”の日本では、なかなか受け入れにくいものだろう。ただ、優勝はおろかクライマックスシリーズ出場すらかなり難しくなっているパ・リーグの下位3球団などは、トレードとまではいかずとも、育成に重きを置いて戦うのはある程度の理解が得られるようにも感じる。
表向きには、「最下位だけは避けたい……」というファンの思いに応える必要はあるだろうし、来季以降の契約への影響を考えたコーチングスタッフが、最後まで結果だけを追求するケースもある。無論、親会社の意向もあるはずだし、観客動員への影響も無視できない。そのように思惑が複雑に絡み合ってチームの志向は決まってくることは承知の上で、日々の戦いぶりから透けて見える、下位球団の育成に対する意識を探ってみたい。
楽天はルーキーの活用目立つが方針は“結果優先”か
今シーズンの楽天は新戦力を積極的に起用しており、ショートの茂木英五郎、センターのオコエ瑠偉、キャッチャーの足立祐一、サードの内田靖人などがチームを盛り上げてきた。ここ最近は、高卒4年目の三好匠などもスタメンに名を連ねている。投手は野手に比べてやや控えめだが、濱矢廣大、横山貴明、そして安樂智大などの若手がチャンスを得てきた。
だが、3年連続の最下位は当然ながら避けたいのだろう、結果へのこだわりも強く見られる。7月には長打力を補うためにフェリックス・ペレス、カルロス・ペゲーロを獲得。彼らはいずれも外野手で、彼らの獲得によってオコエの出場は難しくなった。今シーズン巧打を見せてきた聖澤諒を控えに回してまで起用され首脳陣の期待が伺えたオコエも、ここにきて登録を抹消されている。
また、今シーズンより加入し、まもなく33歳の今江敏晃のサードでの起用も続いている。内田の出場も今江が故障したタイミングで実現したもので、内田に経験を積ませることの優先順位はそこまで高くなかったと言える。和製大砲候補として二軍で結果を出してきた内田だが、一軍戦力となるのは来シーズン以降となりそうだ。育成を進める上での停滞を感じざるを得ない。
まだ若手に含まれる哲朗からレギュラーを奪いショートで出場を重ねてきた茂木は事情が異なるとして、ベテランの出場を削ってまで出場機会を得ているのは、足立と先発のチャンスをつかんでいる安樂くらいだ。足立は嶋基宏の故障でチャンスをつかんだが、嶋の復帰後も出場している。リードへの評価が高いというのが要因だろうか。
こうやって例を挙げていくと、楽天の育成に対する意識は、そこまで高いとは言えないのかもしれない。昨シーズンのレギュラーのレベルがそこまで高くなかったこと、外国人選手が結果を出せなかったことで、フレッシュな顔ぶれに出場機会が回っただけという色合いが強い。
オリックスは開幕前のプランが崩壊……結果的に若手が経験を積む流れ
オリックスは、開幕戦からルーキーの吉田正尚がスタメンに名を連ねた以外は、ほぼベテランと外国人選手中心のラインナップで今シーズンに臨んだ。
しかし中島宏之、新外国人選手のブライアン・ボグセビッチが不振。小谷野栄一が左脚の肉離れで、前半戦にして離脱した。吉田正も故障で離脱したが、これで他の若手が出場する余地が生まれることになる。20歳の奥浪鏡、同じく20歳で育成から支配下登録選手に復帰した園部聡、その他にも大城滉二、伏見寅威、鈴木昂平などが主に内野手として出場機会を得た。また、伊藤光、山崎勝己の併用状態にあったキャッチャーは、高卒3年目で20歳の若月健矢がスタメンマスクを被るようになった。
首脳陣が描いた当初のプランが崩壊した結果ではあるが、かなりの若手たちにチャンスが訪れたと言える。136打席に立ち、打率.267(8月7日現在)とまずまずの成績を残している若月を除けば、劇的な活躍を見せている選手は出ていないものの、来季に向けて大きな経験になっていることだろう。
毎年補強に積極的で、なかなか自前の育成がうまくいっていないイメージのあるオリックスだが、シーズン終了まで若手を生かした戦いを続ければ、野手については新陳代謝が進む可能性もある。もちろん、フロントが今シーズンをどう総括し、どんなドラフト戦略を立てるかといったあたりも関わってくる。しばらく我慢できるのか、また補強によって結果を確保しにいくのか……といったところである。
金子侑司の戦力化という収穫のあった西武
本来であれば、ロッテとの3位争いくらいはしていそうな戦力を持っていたはずの西武もまた厳しいシーズンを戦っている。
固定されたポジションも多いが、サード、ショート、ライトなどで金子侑司、永江恭平、外崎修汰、森友哉、呉念庭ら若手勢と、坂田遼、渡辺直人、鬼崎裕司、木村昇吾ら中堅・ベテラン勢がせめぎ合ってきた。また、ファーストに山川穂高、キャッチャーに森を入れてテストする試合も見られた。
結果的にショートとライトを行き来した金子侑司がライトのレギュラーを獲るに至った。その他の若手にも一定の出場機会が回ったと言える。球団史上でも何番目かの低迷に陥っているチームだが、育成での収穫はあった。
ただ、金子侑の外野定着によって、西武伝統の打力のあるショートの育成は今シーズンも不発に終わったことになる。終盤に入りつつある現在も、鬼崎などベテランの出場が続くショートは、欲を言えば呉など若手にもう少し出場機会を与えても良いようにも見える。だが、最下位が目前に迫っている状況がそれを妨げている。
また、2年ぶりに実現した森のキャッチャーとしての起用は少々突発的で、しかもわずか2試合に終わっている。その起用から、明確な育成方針は感じにくかった。非凡な打撃センスゆえに1年目から一軍に必要とされてしまったが、二軍で入団から3シーズン続けてマスクを被らせ徹底的に経験を積ませていたら、今頃は「21歳の打てる捕手」という非常に魅力的な存在が生まれていたのではないかとも夢想してしまう。残念ながら、そうした育成ルートをたどる時間的はもうないだろう。残り試合で、ショートとキャッチャーの育成の足がかりをつくりにかかるかは、西武の育成意識を確認する上で注目したい部分である。
若手投手では高橋光成、多和田真三郎、野田昇吾らがチャンスを得ている。岸孝之、菊池雄星らが故障で離脱し、十亀剣の調子も上がらない。外国人投手も軒並み結果を残せない状況がもたらしたものだったが、若い投手が経験を積めたことは大きい。
2013年、最下位に沈みながらも戦力のベースを構築した日本ハム
下位に低迷したシーズンで育成を図り、飛躍につなげたケースとして思い当たるのは2013年の日本ハムだ。
前年リーグ優勝を成し遂げるも、田中賢介がFAでMLB挑戦を表明し、サンフランシスコ・ジャイアンツ(マイナー契約)へ移籍。さらにオリックスとの間で糸井嘉男、八木智哉と木佐貫洋、大引啓次、赤田将吾のトレードが成立。主力野手がふたり欠けた上にエースの吉川光夫の調子が上がらず、優勝から一転、最下位に沈んだ。
しかし、この苦しいシーズンを、日本ハムは若手を育てる機会としてうまく利用していた。田中の後継者として指名された西川遥輝(当時21歳)をセカンドとして開幕から起用。西川が故障すると中島卓也(当時22歳)などが代わって出場機会を得た。上位進出が苦しくなった後半戦は、ファーストを守っていたマイカ・ホフパワーを放出し、故障から復帰した西川をファーストなどで起用。さらにショートの大引啓次のコンディションが落ちると無理して起用せず、中島をショートに、西川をセカンドに配置しさらに経験を積ませた。日本ハムのショートに名手として君臨してきたベテラン・金子誠を起用することもほぼなく、金子は翌年をもって引退している。
また近藤健介(当時20歳)も主にライトで32試合に出場し80打席を消化。この年がルーキーイヤーの大谷翔平(当時19歳)も、投手として13試合に登板(先発11)、打者としては77試合、204打席に立った。日本ハムは翌年3位、翌々年2位、そして今年は1位をうかがうが、そのチームを支える選手たちは、最下位となった2013年に貴重な経験を積んでいた。
楽天は3位のロッテとの11ゲーム差をひっくり返し、クライマックスシリーズ出場を目指す姿勢をまだ見せているため、育成への大きなシフトはないだろう。オリックスと西武も互いに僅差での最下位争いを演じており、当面はこれまでと変わらない起用にとどまるはずだ。だが、日本ハムのような思い切った判断が数年後の若手の戦力化を早める可能性があることも事実である。
以前、選手の育成に携わるある球団関係者が、こんなことを言っていた。
「野球選手を一番早く成長させるのは、毎日試合に出続けられる環境だ」
これは球界に広がる三軍制度の背景にある発想と共通するものだろう。出場機会という、選手を成長させるための貴重な要素を、より可能性のある若手にいかに効率的に配分していくか。そんな“頭脳戦”での勝利も、これからのプロ野球における成功には不可欠になっていくように思う。