ハードルを上げる“優良助っ人”たちの記憶
NPBの歴史に名を残すような活躍を見せた外国人打者たちは、その多くが、初年度からある程度の成績を残している。2度の三冠王に輝いた伝説的存在の筆頭、ランディ・バース(阪神)は打率こそ2割台だったものの35本の本塁打を打っていたし、1579安打を放ち通算打率.320を記録しているレロン・リー(ロッテ)は打率.317、34本塁打という文句なしの成績で日本でのデビューイヤーを飾った。オレステス・デストラーデ(西武)はわずか83試合の出場で32本塁打。現行の143試合に換算すれば55本にもなる。
彼らは日本にやってくるなり格の違いを見せつけ、そのうえで翌年以降にさらなる成績を残すことで、ファンの記憶に深く刻まれる揺るぎない存在となった。背景にあったのは日米間のレベルの差、特に投手の力の差だろう。当時の球場の狭さや弱点分析技術の未発達に助けられていた部分もありそうだ。
そうした打者が理想像として現在にも引き継がれているからか、はたまた単に年俸が高額であることが多いからか、外国人打者に対する視線はいつも厳しい。デビューから数試合結果が出ないだけでも疑念の眼差しが向けられ、我慢が効くのはいいところ1カ月。それぐらい経って目立った結果が残せていなければ“ハズレ”や“補強失敗”といったレッテルが貼られ、「○○○を呼び戻せ」「日本人の若手を出したほうがマシ」といったような声が飛ぶようになる。かつてより外国人選手枠が広がり、球団が数多くの外国人選手と契約できるようになっている状況も、ベンチやファンが痺れを切らすのを早めているようにも感じる。
我慢の末に力を発揮したレアード、ウィーラー、エルドレッド
しかし、今シーズン活躍を見せている外国人打者は、当初はあまり打てなかったものの、批判の声にもめげずベンチが我慢強く起用し、それに応え日本への適応を果たした選手が多い。
ここまですでに35本塁打を放っているブランドン・レアード(日本ハム)は、来日1年目の昨シーズン、最終的に34本塁打を打ったものの.231と低打率に終わった。特にシーズン序盤は非常に苦労し、6月終了時点では.183(12本塁打)という低空飛行。しかし、徐々に適応に要した時間を取り返す働きを見せ、7月~10月は打率.278、22本塁打と持ち直した。今シーズンの活躍は、この延長線上にあるものといっていいだろう。
日本ハムベンチはよく起用し続けたものだと感心する。毎年のように獲得する外国人リリーフ投手を除けば、かなり吟味して選手獲得を行うチーム方針があったから実現したのかもしれない。
同じく昨シーズン日本にやってきたゼラス・ウィーラー(楽天)もこれに近い。一部の報道では、獲得にあたっての経緯を「楽天首脳陣が観戦した試合で働きを見せた」「元楽天でニューヨーク・ヤンキースに所属する田中将大が推薦した」といった、少々いきあたりばったりにも聞こえるエピソードとともに紹介され、さらにウェイトコントロールに失敗した状態でキャンプにやってきたこともあって、風当たりはかなり強かった。
明るいキャラクターが中和していた部分はあったものの、8月末時点の打率は.204。打席数が195と少なかったこともあるが本塁打も6本のみ。通常であれば再契約はなさそうな状況だった。
しかし、打線に力強さを欠く楽天の状況に救われその後も出場機会を得ると、成績は急上昇。9月~10月は118打席に立ち107打数36安打、打率は.336に達し本塁打も8本。再契約が結ばれ、今シーズン年間を通して起用されると、打率.273、24本塁打と安定感を見せている。
ケガでの離脱も長かったが、出場している期間は結果を残しよく働いているブラッド・エルドレッド(広島/83試合/打率.302/19本塁打)も、日本初年度の2012年は、シーズン途中で来日し65試合、251打席に立ち打率.262、本塁打11本(143試合換算で24本)と長打を期待された選手としては微妙な成績だった。翌年も66試合で260打席に立ち打率.247、13本塁打と代わり映えしなかったが契約更新。37本塁打を打ってベンチの期待にようやく応えたのはその翌年だった。
外国人選手のメンタリティを問う前に必要なもの
もちろん、来日初年度から成績を残してきたホセ・ロペス(DeNA)やアルフレド・デスパイネ(ロッテ)、ウラディミール・バレンティン(ヤクルト)、エルネスト・メヒア(西武)など、早々に適応を見せてきた“手のかからない”外国人打者も多く活躍している。
しかし、それ以外の“手のかかる”外国人選手に対して、積極的に戦力にしていこうとするか、しないかという姿勢や蓄積されたノウハウの差が、球団間で広がっているようにも見える。
「日本の野球を理解し、それに合わせる努力をしない外国人はダメだ」という指摘はよく聞く。だが、実力を備えそのうえでそうした殊勝なメンタリティを持った選手はそうそういるものではない。そんな選手をつかむ幸運に期待するよりも、球団側が日本の野球を理解、適応させるための方法論、サポート体制を構築し、アメリカなどで見せた能力を日本の環境でも再現できる確率を高める方が効果は大きいはずだ。それがなされたうえで初めて、外国人選手のメンタリティをとやかく言うことができるのではないだろうか。
球団全体で外国人選手をサポートし活躍させるための努力を怠らない球団と、不振の責任を外国人選手本人やスカウトにのみに負わせ続ける球団の間には、今後大きな力の差が生まれていくにちがいない。
※今シーズンの成績はすべて9月4日終了時点。