【プロ野球グッズは結婚式のDVDである】
子どもの頃に買った、「原辰徳300号本塁打記念テレホンカード」はどこへいってしまったのだろうか?
本サイト上で山下メロさんの連載『野球グッズ今昔物語集』のテレホンカードコラムを読みながら、ふと思った。その昔、必死に小遣いを貯めて買った野球グッズの数々はたまに実家へ帰ってもほとんど見かけることはない。でも、一方でそれでいい気もする。なぜなら、いつの時代もプロ野球グッズは瞬間風速的なものだから。目の前のプレーに興奮して、球場の熱に乗せられてつい買ってしまう。で、時間が経って冷静に見ちゃうと「コレ何なの…」状態が多い。俺はいったい何を思ってこれを買ったのだろう…なんて考え込むあの感じ。
以前、原稿で「プロ野球グッズは結婚式DVDみたいなものだ」と書いたことがある。台本通りに進むノーサプライズのキャンドルサービス。同級生の踊るEXILE。正直、当事者以外は何も楽しくない。下手したら新郎友人以外は失笑。そんなことは分かっている。でも、当日の映像や引き出物の「結婚式グッズ」は最高の記念品になる。もはやデザイン的にどうこうじゃないし、値段でもない。そこにあるのは過剰なほどの思い入れだ。
【ボール、リストバンド、桶…辿り着いたのはTシャツ】
今、仕事部屋にはそれなりの量のプロ野球グッズがある。2008年日本シリーズ公式試合球、2009年WBC公式試合球と一時期はビッグイベントごとにボールを買っていたけど持って帰るのに結構かさばり(価格も高いので)長続きしなかったし、選手の背番号入りのリストバンドを買ってもつける機会がないからどこかに紛れて紛失してしまう。巨人ファンクラブの入会特典「黒ひげ危機一発ジャイアンツバージョン」はクローゼットの奥底で眠ったままで、G-Po来場ポイントで交換したオレンジ色の巨桶は風呂場でハードに使い込んでいるけど、愛着があるかと言われたら微妙だ。
てな感じで、いつからか球場で買うグッズはTシャツになった。日常はもちろん、パジャマでもOK。書籍発売時の書店でのサイン会、イベントやラジオのゲストで呼ばれた際は衣装にも使える(スーツやジャケットだと逆に浮くケースも多い)。アンダーアーマーの「TOKYO」Tシャツは着心地もいいしね…って、いやプロ野球グッズに実用性を求めてどうする?
大事なのは過剰な思入れじゃなかったのか…というわけで、今回紹介したい一品は「ジョン・ボウカーTシャツ」だ。前面には胸にワンポイントで“Winner Collection”のロゴとYGマーク、背中には“2012.10.27”“G8-1F”の文字情報に加え、ジョン・ボウカーの勇姿とサイン入りである。もちろん分かってる。 デザインはどうしようもないというか、近所のコンビニに着ていくのも躊躇するレベル。それでも、俺はこのTシャツを買った。だってあの夜、ボウカーに死ぬほど感動したから。
【野球グッズで重要なのは格好良さより、思い入れ】
2012年日本シリーズ第1戦、東京ドームで行われた巨人対日本ハム。4回裏に8番ファーストで先発出場のジョン・ボウカーの3ランが飛び出して巨人が日ハムを突き放した。この年に来日したボウカーは打率196、3本塁打、10打点という悲惨な成績。当然、今季限りで退団と誰もが思ったが、原監督は唐突にシリーズ第1戦でボウカーを使ったのである。正直、スタメン発表時にはスタンドから失笑すら漏れていた。
この1週間前に同じく東京ドームで見たある光景が今でも忘れられない。中日と戦ったセ・リーグCSファイナルステージ第4戦、巨人まさかの3連敗でこの試合に負けたら敗退決定という大一番。試合前セレモニーでバックスクリーンにオープニング映像が流れる中、ただひとり巨人ベンチ前で狂ったように素振りを繰り返す男がいた。背番号36の巨人史上最もあきらめの悪い男だ。チームメイト達がバックスクリーンを眺める横で、汗まみれのボウカーは何を考えていたのだろうか?
遠く日本まで来て屈辱の成績に終わり、それでも諦めずに素振りをする。そんな崖っぷちの助っ人が放った一撃。俺はこの瞬間のために、今シーズン何十回と東京ドームに通ったのかもしれないな。ボウカーの放った打球を眺めながら、そう思った。不思議なことに、一昨日食べた夕飯のメニューも忘れているのに、今もあの5年前に見たホームランの弾道は覚えている。
そして、その余韻に突き動かされるように巨人公式サイトで、主催試合で勝利に貢献した選手の感動場面をグッズにする「勝ったらグッズ」として日付&スコア入りのボウカーTシャツを注文したわけだ。冷静に見たら、無駄な買い物だと思う。けど、冷静でいたくなくて、無駄なことがしたくて、人は球場へ行く。他人からどう見られようと関係ない。野球グッズの基準は格好いいか悪いかではない。そこにあなたの思い入れがあるかどうかだ。
2012年10月27日、あの夜の出来事は一生忘れないだろう。本当に特別な試合だった。だから自分にとって、このボウカーTシャツは一番ダサくて、一番大事な野球グッズなのである。