ファインプレーってなんだっけ?

前週は広島との熱戦、そしてヤクルトに3連勝。メッセの完封やロジャースの活躍、伊藤隼太の代打逆転3ラン本塁打など、名場面がたくさんありました。そんな中でも私が旬だなぁと感じているのが大和です。

大和の守備の素晴らしさについては、今さら何も言う必要はないのですが、でも言いたい。素晴らしい。
最終回、梅野の捕逸による振り逃げからドリスが大ピンチに陥った日曜のヤクルト戦、代打・飯原誉士の打球はドリスの脇を抜けセンター前ヒットになるかと思われました。ところがショートの大和が二塁ベースのはるか奧、ほぼ後ろ向きでこの打球に追いつくと、ぐいっと全身をひねって、フライングディスクでも投げるかのようなバックトスで二塁へ送球。一塁走者中村悠平をフォースアウトにしたのです。

好プレーは数々ありましたが、はて、こんなプレー過去にあったっけ?というくらいのスゴ技だったのですが、それをまったく「すごい」と感じさせないところが大和の本当のすごさです。ポジショニング、打った瞬間の動き出し、なめらかな足運び、柔らかい捕球体勢、送球動作への速さ、スローイングの強さと正確さ。高次元で統合された一連の流れ。

ギリギリの打球処理だったのですが、それでもシレッとした顔でやってのけます。いつものことです。並の選手がさばけばスーパープレーと言われるような打球でも、大和がやるとイージーゴロのよう。「うわっ」打たれた瞬間そう思った打球が難なくアウトになっていくのです。
もちろん本当のイージーゴロもたくさんあります。そういうことが繰り返されていくうちに、だんだんと「ファインプレーってなんだっけ?」と、わからなくなってしまいます。これは一種の「ゲシュタルト崩壊」と言えましょう。

左打席にいた「もう一人の大和」

今季から大和はスイッチヒッターになりました。両打ちに取り組むのはアマ時代以来だといいます。といっても、高卒で入団した大和ですから、子どもの時以来ということです。それにしてはなかなか板についています。
ここまで、打率.281。出塁率.324、長打率.281でOPSは.605。守備での貢献を考えれば十分な数字です。
左右別では、本職の右打席が、51打数17安打で打率が.333。出塁率.404、長打率.471、OPS.874。もし昨年までと同様に、右打者専門だとしたら、「大和=守備の人」というイメージをくつがえせるレベルです。

そして、今季から始めた左打席はというと、81打数21安打、打率.259。出塁率.318、長打率.272、OPS.590。三振16は、右打席(5三振)に比べれば3倍ですので、右打席に比べて見劣りするのは確かです。
しかし、左打者の大和は、悪くありません。実に欲がない。難しい球はなんとかファウルにして、粘ってやろう、あわよくば一塁に歩いてやろう、それが無理でも1球でも多く投げさせてやろうしています。相手投手にしてみれば、「さっさと凡退しろ」と言いたくなるでしょう。
「専守防衛」と言われる大和ですが、去年までの打席ではこういう「嫌がらせ」はあまり見られませんでした。今年も右打席ではそれほど粘りません。左の自信のなさ、欲のなさがそうさせるのだと思います。

この左打席に潜んでいた「もう一人の大和」が、チームにとっては貴重な存在です。上位を打つ上本博紀も時にはかなり粘りますが、こういう打者が粘ったり、塁上で投手を揺さぶったりすることで、投手心理やリズムを崩すことができます。ロジャース、中谷、福留らの長打を呼び込んでいると言えるでしょう。

守備の良さを生かすのであればセカンドだが

ご存じのとおり、大和は出場機会を求めて一時は外野手にコンバートされました。センターで手前に落ちそうな打球をダイビングキャッチ。長打コースの打球には俊足を飛ばしてランニングキャッチ。2014年、外野手でゴールデングラブ賞を受賞しました。
しかし、当時の大和の打力では、外野のレギュラーにはもの足りず。本来、セカンドかショートであればレギュラーでも良いはずでしたが、なかなか守備重視というチーム編成になりませんでした。
今季も北條の不振、糸原の故障があって、それでようやく回ってきたのが大和のスタメン定着でした。

打撃の好調は「たまたま」かもしれませんが、今の内容なら及第点。そしてなにより、「ファインプレーってなんだっけ?」という守備での貢献度は抜群。もう今やショートのスタメンは大和以外考えられません。

でも、本当はセカンドに置きたいんですよ。というと、みなさんから「内野の華、内野の要はショート。守備機会が最も多いショートがいい」と突っ込まれるのですが、それはアマチュア野球レベルの話。あるいは、過去のプロ野球です。
補殺、刺殺とも、セカンドの方が多くなったのはいつのことからでしょうか。たぶんまだ20年と経っていないと思います。理由はいろいろあるでしょう。左打者が増え続けていること、投球技術の発達に対応するように右打ちが増えたこと。また、打者走者の足が速くなり、三遊間の当たりはどんなにいいショートでも内野安打になる一方、一塁までの距離が近いセカンドは、左右どちらの当たりもアウトにできる可能性が高いこともあります。チーム併殺の多さは、「順向き」のショートよりも、「逆向き」になるセカンドの技能に左右されることは誰もが認めるところ。「守備職人はセカンドに置け」はもはや定石です。

ところが阪神の場合は、特殊事情によりそうできないんですね。それは上本がセカンド専門だから。
基本的に貧打なのが阪神。よりアウトを稼げる選手をセカンドに置くのが定石ではありますが、上本はおいそれと外せない打者です。上本がセカンド以外を守れたら良いのですが、これはいたしかたないですね。ショートとセカンドの重要度の差は確実にあるのですが、ここは上本にも頑張ってもらって、ショート大和の守備を堪能することにしましょう。それはそれで見どころ満点ですからね。

あくまでも私個人の感覚ですが、おそらく虎バカ世論調査をやれば、「大和はしばらくレギュラーで固定せい!」の支持率は70%を越えると思います。強打者のホームランも好きですが、みんな大和のクールな超美技が大好きですから。


鳴尾浜トラオ