「現実は妄想の斜め上」去年を反省する

 シーズンオフには毎年、「次のシーズンにはこんなことが起きる!」と、妄想をふくらませます。あのピッチャーが何勝して、あのバッターが大ブレークして……と、下手するとシーズン中より楽しいかもしれません。少なくとも暗黒時代はそうでした(笑)。

 今やAクラスにいても居心地の悪さなど感じることもなくなり、真顔で「優勝狙うぞタイガース!」などと言えてしまう時代になりました。すると、かえって純粋な妄想の楽しみが少なくなってしまったかもしれません――なーんて、思っていたのですが、金本阪神はそんなに簡単なもんじゃありませんでした。

 金本知憲監督という人は、可能性の原石を見つけ出す感覚に鋭いものがあります。昨年で言えば、新人だった糸原健斗の勝負強いバッティングをかなり早い段階で買っていました。最終的にはケガで離脱してしまいましたし、トータルの打率はたいした数字になりませんでしたが、スタメンを確保していく過程で見せた勝負強さはかなりのもの。チャンスで打席が回ると、集中力が高まり、簡単に凡退せず、殊勲打を連発していました。昨年の前半戦、阪神の打撃スタッツはあまりよくありませんでしたが、チャンスに強く、そこそこの得点力がありました。糸原はその象徴的存在でした。

 投手で言えば、岩崎優をリリーバーに回したのは金本監督の慧眼。タイミングのとりにくい独特のストレートは、高めに投げてこそ威力があり、しかも短いイニングで全力投球したほうが持ち味が出ると判断しました。はじめのうちはその思惑が当たりませんでしたが、岩崎自身が次第に慣れてくると、狙いはまさにズバリと当たります。チーム2位の66試合登板で防御率2.39という大活躍でした。

 そしてなんと言っても、ほんのかけらすら妄想していなかったのが桑原謙太朗の大活躍でした。移籍以来、干されているのかと思うほど存在感のない投手。むしろ、私の想像では今ごろは戦力外……本当に失礼ながら。

 ところが、金本監督はまったく違うものを見ていたのです。手元でクイっと曲がる「まっスラ」がいかに打者にとって脅威になるかを正しく見抜き、最終的にはセットアップを任せるまでに成長させたのですから、これはすごかった。もちろん、腐ることなく努力を続けていた桑原が一番偉かったのですけれども。それにしても、それなりにくまなく妄想していたつもりですが、はるか斜め上をいく大ブレーク。これは大反省です。

反省を生かして今年の妄想を……

 みなさんも、本年度版の妄想に余念がないことと思います。さっそく私も妄想に身を委ねてみます(笑)。高山俊・北條史也・原口文仁・藤浪晋太郎のリベンジカルテットは、当たり前のようにレギュラー獲り最前線に復活してきますし、小野泰己・竹安大知・才木浩人・望月惇志ら、若手先発候補の突き上げによりローテーション枠争いは戦国時代に突入します。新人野手の熊谷敬宥・島田海吏も、去年の糸原健斗や、かつての赤星憲広のように、1年目から勝負に参入してきます。もちろんピーク過ぎと目されている岩田稔・西岡剛ら実績ベテラン組も、本来のきらめきを取り戻します。

 そして、反省を生かして、今年、私の妄想の目玉は、陽川尚将と江越大賀、そして横山雄哉です。「ファームの帝王」となってしまっている陽川ですが、二軍であれだけ打てるならもうあと一息。ちょっとしたきっかけを掴めば、一軍でやっていける自信がつくはず。それがあるのが今年です。ついに。

 シーズン途中で一軍に昇格。代打で快打を連発し、それじゃあと、相手先発が左投手の日に「鳥谷休養日」で陽川をスタメンサードに抜擢。先制と勝利を決める勝ち越しの2本塁打を打って、出番を増やしていきます。まあ正三塁手・鳥谷敬も黙っていませんが、そこからガチンコのレギュラー争いに入ります。

 スイッチ挑戦の江越は、オープン戦で結果を出し開幕ベンチ入り。福留孝介の守備固めとして地味に出場していると、回った打席でダメ押しタイムリー。左打席でレフト線を破る一打。これをきっかけに、守備固め・代走に留まらず、福留休養日のスタメン起用。確実性の高い左打席につられるように右打席も好調となり、使われた日に2試合連続の猛打賞&マルチ打点の大活躍。これまた出番を増やしていきます……。

 そして横山。ケガばかりで注目が集まることがなくなっていましたが、今年は来ます。安芸キャンプスタートながらも徐々に頭角を現し、オープン戦にも登板。そこで好投をしますが、上のカベも厚く、とりあえずは二軍でシーズン開幕。ローテーションを回すうちに自信をとりもどし、いよいよ矢野燿大二軍監督から金本監督へ推薦の連絡が入ります。その今季初登板で、去年わずか1勝だった鬱憤を晴らすような快投。1勝目をあげると、トントントンと連勝街道まっしぐら……。ついにドラ1左腕が大ブレークします。

 ……ということで、もうすぐ春ですね。妄想してみませんか?(笑)


鳴尾浜トラオ

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