意外すぎるノーヒットノーラン

 元近鉄バファローズ「ナルシソ・エルビラ」が近鉄に在籍したのは2000年〜2001年。開幕から特に目立った活躍もなく「なんとも言えないピッチャーだな。」というのが当時の私の感想だった。コントロールも特に良くは無くスピードもそこまで早いこともない。当時の近鉄ファンの友人もエルビラに関してなんの感情も持っていないようだった。(同僚のウオルコットに関してもなんの感情も持っていなかった)

 しかし、しかしである。そんな誰もが、一ミリも期待もしていなかった2000年6月20日の西武ライオンズ戦。エルビラは見事にノーヒットノーランをやってのける。当時の大友、松井稼頭央、鈴木健選手を要するあのライオンズを、である。伸びのあるストレートをコーナーに決め、キレのあるスライダーに西武打線は見事に翻弄されていた。あの時の衝撃が忘れられない方も多いだろう。今だに近鉄の謎エピソードとして「エルビラの突然のノーヒットノーラン」が上位に挙げられるほどだ。ヒーローインタビューで息子をお立ち台に上げ、愛らしい笑顔で近鉄ファンに「アリガト」と伝えるエルビラは一気に人気者となった。しかし、その後再びなんとも言えない元のプレーンなエルビラに戻り、次の年に自由契約となってしまったのだった。

故郷に戻ったエルビラ

 韓国野球界を経て故郷のメキシコに戻ったエルビラは、日本で稼いだ資金を元にサトウキビ畑の経営者となる。商売は見事にあたり会社は堅調に成長を続ける。浮気がバレて経営していた牧場を根こそぎ持っていかれた元カープ、エディ・ディアスとは雲泥の差である。しかしそんな順風満帆なエルビラを突然のアクシデントが襲う。

 2015年6月16日従業員との旅行先で、エルビラを含めた従業員全員が誘拐されてしまうのだ。車内には血痕が残っており最悪の事態も予想され、日本球界にでエルビラを知る関係者もただただ無事を祈るしかなかった。事件が解決したのはほぼ1ヶ月後。7月10日に犯人は逮捕され、エルビラを含む従業員全員が無事救出された。このニュースは日本の野球ファンにも衝撃を与え、誰もがエルビラの救出に胸をなでおろした。

事件解決時も更新されたエルビラのSNS

そんなエルビラはFacebookで多くの「エルビラ情報」を公開してくれている。

 さすがサトウキビ畑経営者。広大な敷地にキャタピラーの重機気が置かれ、その安定の経営状態がしっかりとアピールされている。現在49歳のエルビラ。写真なども当時の面影が残っており、少しふっくらとはしたもののその肉体はプロのピッチャーであったことが十分に感じて取れる。

 さて、気になるのは誘拐事件当時のFacebookである。いったい誘拐された後、人はどのような投稿をするのだろうか。記事を遡ってみるとなんと誘拐事件の3日前の投稿、そして事件解決から1週間経った7月17日に投稿があった。

「神よこの奇跡をありがとうございます。」

 まさに、である。地元警察も諦めていたという状態からの生還は、まさに神の起こした奇跡としか言いようがない。
 「いいね!」の数も846件ついているが、もっと全世界の人はいいね!を押すべきでないだろうか。こんなに「いいね!」を押すべき投稿があるだろうか?誘拐されて奇跡の生還を果たしたのだ。「スイーツを食べたよ!」「夜景超きれい!」などのどうでもいい記事に「いいね!」を押すくらいなら、まずこの誘拐事件解決後のエルビラの投稿にいいね!を押すべきなのだ。(特にエルビラを覚えている日本人は全員これに「いいね!」を押すことを義務付けたい。)いいね!を押す事はどういうことなのか、これを機会に今一度考え直して頂けたら幸いである。

 興奮して何を言っているのかわからなくなってしまったが、エルビラ氏のサトウキビ畑の末長い発展、そして今後の平穏な生活を一ファンとして祈っている。


ザ・ギース尾関高文