胸スポンサーの多くはオンラインカジノ

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 イングランド・プレミアリーグ(サッカー)の胸スポンサーに、ご注目いただきたい。「betway」「bet365」「BETEAST」「dafabet」……。共通点は「bet(ベット)」。言うまでもなく「賭ける」という意味の英語だ。

 各クラブのユニフォームを見ていこう。胸スポンサーは、ウェストハムが「betway」、ストークが「bet365」、スウォンジーが「BETEAST」、サンダーランドとバーンリーが「dafabet」、さらにはボーンマスとクリスタルパレスの「MANSION」とワトフォードの「申博138.com」まで、すべて業種は同じ。もっとも目立つ胸の広告スペースを手に入れているのは、インターネット上に賭博場を開くオンラインカジノなのである。

 こうした世界に疎い方のために補足しておくと、カジノといってもポーカーやルーレットといった参加者自身がプレーヤーとなる賭博だけでなく、スポーツの結果を予想する賭けもある。試合の勝敗を当てるもっとも単純なものから、ベットの対象は細分化されており、最初の得点者や正確な最終スコアを的中させなければならないものまでさまざまだ。

競技もプロサッカーだけでなく、NBAやNFLなどのアメリカンスポーツ、ゴルフやテニス、ボクシングなど実に幅広い。ちなみに、日本の刑法には賭博罪の定めがある。国内からインターネットを経由し、海外のオンラインカジノでブラックジャック(カードゲーム)に金を賭けたとして、摘発された例もあるので、うかつに手を出すのは危険だ。

ボクシングのルール厳格化は賭けの影響

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 賭博――すなわちギャンブルとスポーツの関係は古く、英国で近代スポーツに発展したボクシングの場合、勝敗の決し方が明確になり、ルールが厳格になったのは、賭けの影響もあるという。まだ素手で殴り合っていた18世紀から19世紀初頭にかけての「拳闘」で、より多くの観衆を賭けに巻き込み、賭け金を増やすには、どうなれば決着がつくかや、競技時間、禁止行為などをあらかじめ共有しておく必要があったのだろう。

 賭けには、第三者の興奮を高める効果がある。どちらか一方のチームや選手を応援していれば、おのずと戦況に一喜一憂するだろう。どちらのチームにも選手にも肩入れしていない観戦者が、勝負に金を賭けた途端、試合にのめり込む姿は容易に想像できる。

 現代のオンラインカジノにとって、プロサッカーは重要な収入源なのだ。だからこそ、胸スポンサーに名乗りを上げ、資金を提供する。プレミアリーグが盛り上がれば、賭け金の増加という形で投資分を回収できる。儲けが出れば、胸スポンサーを継続し、協賛金を増やすかもしれない。各クラブはその金で人材や設備に投資できる。分かりやすいウインウインの関係なのだ。

 前近代の「拳闘」を取り仕切っていた英国人たちが力を注いだのは、賭けと繋がった不正行為、すなわち八百長の防止だったという。日本のスポーツくじ「toto」のように5試合、あるいは13試合の結果を当てる方式なら、八百長の計り事はほぼ不可能になる。しかし、1試合の勝敗だけを当てる賭けであれば、とりわけルールが未整備だった頃の「拳闘」のような個人競技で、不正の大きな誘因となりえただろう。

 真剣勝負こそが多くの価値を生み出すスポーツで、その存在意義を無にする八百長の根絶は、世界中の各競技団体が中心となり、一致団結して取り組むべき課題だ。さらには、賭け自体にもスポーツの変容を招きかねないネガティブな側面があるので、注意したい。

 スポーツの賭けで当せん金を得るには、"結果"を的中させなければならない。ファンや観戦者の関心が勝敗だけにフォーカスされてしまえば、どうなるか。過程が軽視され、極端な場合は無視されるかもしれない。宝くじとは違って、スポーツにはプロセスがある。プロセスからのフィードバックこそ、改善や進歩に繋がるのだ。


手嶋真彦

1967年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、新聞記者、4年間のイタリア留学を経て、海外サッカー専門誌『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を5年間務めたのち独立。スポーツは万人に勇気や希望をもたらし、人々を結び付け、成長させる。スポーツで人生や社会はより豊かになる。そう信じ、競技者、指導者、運営者、組織・企業等を取材・発信する。サッカーのFIFAワールドカップは94年、98年、02年、06年大会を現地で観戦・取材した。